軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十話:おっさんはボスと戦う

ボスとの戦いが始まった。

俺が先頭を走り、遅れて正気を取り戻したセレネがついてくる。

ミノタウロスは立ち上がり、腰を落とし頭の巨大な角を向けてくる。角が光る。

来るか……。

セレネが盾を構える。

「受けるな!! 横に跳べ!!」

まずい、セレネはミノタウロスの威容に飲まれている。事前に話した注意点を忘れている。

なんとか、セレネは俺の忠告を思い出し全力で横に飛ぶ。

次の瞬間、爆音が聞こえ、ミノタウロスが消えた。

俺とセレネの間の地面がえぐれ地震のように地面が揺れる。

後ろを見ると、壁にミノタウロスの角が突き刺さっていた。

ミノタウロスの必殺スキル、【ホーンクラッシュ】。

加速するための距離が必要という制約はあるがミノタウロスの持つ最大威力の突進技。消えたように見えたのはただ速すぎただけだ。

全員にミノタウロスの角が光れば即座に横っ飛びをしろと言っていた。

【城壁】込みでも受ければただでは済まない。一撃で戦闘不能になる。

だが、モーションが大きく避けることはたやすい、角が光ってから数秒溜めがある。その間に射線から逃れればいい。

これは初見殺しで非常に危険だが、知ってさえいれば防げる攻撃だ。

「これが特別な魔物の力、受けていれば死んでいたわ……」

セレネの声が震えてる。

……まずいな呑まれつつある。

セレネの心の脆さ、そこに気付いていなかった。

ミノタウロスが振り向き、斧をもって突進してくる。狙いはセレネだ。

セレネは斧を盾で受け止めた。セレネの体が吹っ飛び、壁に叩きつけられる。

ミノタウロスの一撃をスパイクも使わずに真正面から受ければこうなる。

「かはっ。こんなに、重いの……。こんな化け物の攻撃を受け続けるの?」

壁によりかかり、茫然自失のセレネにミノタウロスが詰め寄り斧を振り上げた。

セレネは盾を構えすらせずに震えている。

そんな奴に向かって矢が降り注ぐ。

ティルが動いていた。きっちり距離を取り、矢を放つ。それだけじゃない。

「【雷矢】」

初級雷撃魔法、【雷矢】を同時に放つ。

【矢生成】と矢の威力を上げるパッシブスキルの習得が終わったので、新たに覚えた魔法だ。

単体魔法のため、詠唱は短く威力が高い。さらに魔力消費も少ない。上級雷撃魔法【神雷】よりも相手が一体であればダメージ効率は圧倒的に上だ。

ティルが雨のように矢と雷を浴びせる。

「ぐもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

ミノタウロスが雷で痺れながらも、ぎろりとティルのほうを見た。

完全に攻撃目標をティルに変更したようだ。

ティルのほうに向かってミノタウロスが走っていく。

「セレネ、何をしている。はやく【ウォークライ】を!」

「えっ、ええ」

遅い! すでにミノタウロスはティルに向かって突進してる。

本来、即座に【ウォークライ】をかけ注意を引き付けるのがセレネの仕事だ。

そうしなければ、手数の多いティルが真っ先に狙われる。

防御力の低いティルはあっさりと沈み、俺たちはパーティ最大火力を失ってしまうだろう。

……そんなことはセレネもわかっているだろう。

だが、初撃の【ホーン・クラッシュ】の受ければ死ぬ攻撃。

ただの通常攻撃で吹き飛ばされたことで、セレネの頭は恐怖に支配されている。

「牛さん、前しか見てない。横ががら空き……【アサシンエッジ】!」

いつの間にか、自慢の素早さでミノタウロスに並走していたルーナが【アサシンエッジ】を放つ。

クリティカル音が鳴り響く。【アサシンエッジ】のクリティカル時のみの極大威力補正がかかった一撃が急所である脇腹に叩き込まれ、タフなミノタウロスがたたらを踏む。

「グオオオオオオオオオオオオオオオ!」

ミノタウロスは怒りを乗せた斧を振り下ろすがルーナは深追いはせずに即座にバックステップで距離を取っていたので楽に回避した。

ルーナは中衛、後衛のティルのフォローをしながら確実に決められるときに急所に叩き込むのが役割だ。

その教えをしっかり守っている。

空振って苛立つミノタウロスは本来の標的だったティルを目指すが、ティルはすでに距離を取り弓を構え、魔術と矢を放つところだった。

矢と雷の中を強引にミノタウロスは進む。奴は純粋な移動速度でティルを圧倒する。すぐにティルに追いつき、斧を振り下ろす。

その斧は、ティルを捉え……られなかった。

「ルーナ、よくやった。おかげで間に合った」

ルーナがミノタウロスをひるませてくれたおかげで俺がティルとの間に割り込めた。

壁役はセレネの予定だったが、セレネはミノタウロスに呑まれている。

その間は俺が壁をする。

【ウォークライ】を発動する。クルセイダーのものより効果は落ちるが、短時間なら効果がある。ミノタウロスが俺に向かって振り下ろしてくる。

得意の受け流しでミノタウロスの斧を流した。さすがに重いな……だが、今の俺のステータスなら対応できる。……セレネも受け止めるではなく流すべきだった。

いつものセレネならそれぐらいはできる。そう鍛えた。

だが、恐怖が技を鈍らせた。

いくら力と技があっても、それを発揮できる心の強さがなければ意味がない。

心の強さを得るには、恐怖を乗り越えるしかないのだ。

ミノタウロスの二発目、三発目の攻撃もさばいていく。その間にもティルの矢と雷は降りそそぎ、確実に奴を削っている。

ミノタウロスが斧を放り投げ、両手の拳を光らせた。必殺スキルのモーション。

あれが来るか。

俺は集中力を極限まで高める。

「ガアアアアアアアアアアアアアアア」

【ハリケーンラッシュ】。

左右の強力な連打が襲い掛かってくる。

一発、二発、三発、流しても流しても重い拳が次から次へと襲い掛かってくる。

流せはするものの、通常攻撃以上の重さがあるせいで、どんどん体勢が崩れていく。

スキルの効果で、スーパーアーマー効果があり、攻撃を割り込んでも意味はなく、耐えるしかない。

九発目、崩れきった体勢では流すのではなく剣で受けざるを得なかった。受けつつ後ろに跳ぶ、景気よく吹き飛ばされたが転がりながら勢いを殺し立ち上がる。

ようやく、奴の連撃が終わった。ミノタウロスは強力な【ハリケーンラッシュ】の反動で動きが止まっていた。

「隙だらけ! 【アサシンエッジ】」

「いったい、どれだけ当てれば倒れるんだよ!」

そこにルーナがアサシンエッジを叩き込み、ティルが矢と雷を降らせた。

「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

奴が悲鳴をあげた。

ミノタウロスには着実にダメージが溜まっている。

……だが安堵はできない。

一連の流れで削れたのはせいぜい三割程度、これがボス戦だ。

再び、手数が多く怒りを買うティルとの間に割り込み、ミノタウロスの攻撃を流し始める。

さすがにこいつ相手だと、反撃に割く余裕がない。流すだけで精一杯。その流しもあまりの重さで手がしびれ始めて、精度が落ちてくる。

何より、俺が攻撃に参加できないことでダメージ効率はガタ落ちだ。

本来の流れに戻すにはセレネの力が必要だ。

……セレネ抜きでも苦戦はするが勝つだけならできるだろう。

しかし、このままセレネ抜きで勝ってしまえば、セレネは今後強大な敵が現れたとき、立ち上がれなくなる。

恐怖で動けなくなり、そのまま戦いが終わったという記憶は、セレネにとって心の傷になるだけでなく、一度でも逃げてしまった経験があれば追い詰められた状況で踏ん張れなくなる。

そんな壁役、使い物にならない。

ミノタウロスの重い攻撃を流しながら叫ぶ。

「セレネ! いつまで突っ立っている。おまえは自分より弱い魔物としか戦えないのか!」

セレネの肩が震える。

「弱くても、強い気持ちと圧倒的な技量で強者に挑み、打ち勝つ姿に憧れた。だから俺に学びたいと言っていたな。……あいにく、俺の強さは偽物の強さだった。それでもセレネはそんな姿に憧れたのだろう! そうなりたいと思ったのだろう。なら、勇気を出せ」

ミノタウロスの蹴りが来た。

情けないことにセレネへの声かけに意識を取られ注意を怠った、胸に奴の足がのめり込み崩れる。

一瞬、意識が遠のく。通常攻撃でこの威力か、嫌になる。

追撃の振り下ろしが来た。転がるようにして避ける。意地で立ち上がり、すれ違い様に、黒い剣を引き抜き脇腹を斬る。

「グモオオオオオオオオオ!」

ルーナとティルはセレネに何も言わない。

だが、行動だけでセレネに想いを伝え続けている。

二人だって怖い、それでも自分のなすべきことを果たし続けているのだ。

「セレネ、ここで何もできなければおまえはずっと変われない。……選べ! かつて憧れた姿を目指すか。レベルとステータスが上がっただけの張りぼてになるか!! 師匠の俺が保証してやる。技と力は十分だ。必要なのは勇気だけだ! 目を見開いてみろ! この化け物の攻撃は訓練でおまえが受けてる俺の打ち込みより鋭く速いのか!?」

厳しいことを言っているし、戦闘中で折れた心を即座に立て直す難しさもわかっている。

だけど、この機会を逃せばセレネは成長できない。

セレネが奥歯を噛みしめる。だが、動かない。

ダメか……そう思った時だった。

「【ウォークライ】」

セレネがスキルを使う。引き寄せスキル。

敵の注意を一手に集めるスキルだ。

震える足のままセレネは危険なスキルを使った。

ミノタウロスがセレネのもとへ一目散に走っていく。その手に斧を再生成していた。

奴が斧を振るった。セレネは盾を構える。スパイクは使わない。

ミノタウロスの斧を瞬きせずにまっすぐに見つめ、盾に角度を付けて流す。

「正解だ」

スパイクは便利だが、何も考えずに使うものではない。

スパイクは強烈な一撃や、受け止めざるを得ないものを防ぐために使う。

それ以外は、取り回しの良さを生かして技量を使って流し、スパイクで【シールドバッシュ】を叩き込む隙を探る。

受けるよりも流すほうがダメージが少なく、相手を崩しやすく、攻撃へ移りやすい。一度使えばしばらく使用できない【城壁】も温存できる。

これこそが戦姫ルノアの戦技だ。

セレネの戦う姿は、かつてゲームで見たルノアの姿を思い起こされる。

いや、ルノアだけじゃないな。

盾を使っているのに、セレネの受け流しにはどこか俺の剣の匂いがした。

俺の教えがあの子の血肉になっている。悪くない気分だ。

「ユーヤおじさま、ごめんなさい。やっと眼が覚めたわ……重い一撃だけど、ユーヤおじさまの打ち込みに比べれば遅いし、ぬるい、余裕で流せるわ」

セレネの声にはまだ震えがある。

だが、強い意志を感じた。

そんなセレネを見て、ルーナとティルが口を開く。

「セレネ、遅い。でも、これでやっといつも通りに戦える」

「だね。セレネが壁で、ユーヤがアタッカー、ルーナが中衛で私が後衛、これが私たちの戦い方だもん」

ルーナとティルがセレネに不器用なエールを送る。

ミノタウロスの猛打を受け流しながら、セレネが小さくだが笑った。

ようやく、俺たちのパーティの本領を発揮できる。

ルーナに目線を送り共に走る。ルーナが右側、俺が左側に回った。

左手に魔力が集中し炎に変わり、光り、唸り声をあげる。

「【アサシンエッジ】」

「【爆熱神掌】」

セレネに夢中になってくれれば、余裕で大技も叩き込める。

俺の左手がミノタウロスの脇腹に突き刺さり爆炎が体内を蹂躙する。

さらにルーナがクリティカルでアサシンエッジを叩き込む。

同時かつ、左右からの超威力の技を叩き込まれてミノタウロスがたまらずノックバックしていく。

「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

ミノタウロスは踏ん張らずに、あえてさらに下がって腰を落とし、角をセレネに向けた。角が耀き始める。

【ホーン・クラッシュ】の前兆。

セレネは魔力を盾に込めていた。スパイクを放つ前準備。

まさか、興奮して忠告を忘れたのか?

ホーン・クラッシュの超威力は流すことはもちろん、スパイクと【城壁】を併用しても受けきれない。躱すしかない攻撃だ。

叫ぼうとしてやめた。

セレネはわかっている。開幕のようにパニックになっているわけではなく確信をもってそうした。

これは勝つためのスパイクだ。

セレネは走る。全力で前へ!

「はあああああああああああああ!」

前に向かって走るセレネを狙った、ミノタウロスの【ホーンクラッシュ】が発動した。

その瞬間、セレネはスパイクで大地をうがち全体重をかける。

「【城壁】!」

光の壁が現れる。

クルセイダー専用スキル。数十秒だけ絶対的な防御力を得られるスキル。

通常なら、【ホーンクラッシュ】はその守りすら突き崩す。

だが、そうはならない。

セレネが前進したからだ。【ホーンクラッシュ】に必要な助走距離を減らすことで威力を殺した。スパイクのあとを地面に残しながら土煙をあげてセレネが押し下げられ、ついに踏みとどまる。

盾を貫けず、反作用で衝撃が返ってきたせいでミノタウロスの角が折れ、強烈にのけぞる。

ミノタウロスは角を破壊されると防御力が激減する。

追撃を加えるチャンスだ。

「ティル」

「わかってるよ!」

俺は詠唱を始め、ティルが矢と【雷矢】を腹に一点集中させる。

同じ個所に攻撃が集中し肉がえぐれ、焦げる。

手のひらに雷が生まれ、大気を震わせ始める。長い長い詠唱がようやく終わる。

「【超電導弾】!」

中級雷撃魔術【雷嵐】カスタム。【超電導弾】。

詠唱時間を長くし、範囲を犠牲にしたことで威力と射程を超強化した雷の弾丸が放たれ、ティルの一点射により、えぐれた肉をさらに深くえぐり、大ダメージを与えると共にティルの【雷矢】とは比較にならない痺れ効果でミノタウロスの自由を奪う。

次の一撃は無条件で当てられる。

「決めろ、セレネ!」

叫びながら、セレネの隣へ移動する。

セレネは頷き、思いっきり踏み込む。

腰をひねり、腕を突き出す。

最高速に加速する腕から、極太のスパイクがはじき出される。

「【シールドバッシュ】!」

「【神剛力】」

……この動きは何度も見た。だからこそ合わせられる。スパイクの直撃の直前、【シールドバッシュ】により防御力を攻撃力に変換しきった直後に攻撃倍化魔法【パワーゲイン】カスタム。数十秒の強化時間をインパクトの一瞬に圧縮する代わりに超倍率を実現した【神剛力】を重ねた。

爆音と共に、防御力を攻撃力に変換した超威力の一撃が、ティルと俺が貫いた腹に突き刺さった。

スパイクがミノタウロスを貫通し、あまりの威力に行き場のなくした運動エネルギーがミノタウロスの中で暴れまわり風船のように膨らんだ。

……無理もない。スパイクの射出と全身の力を集約した突きというモーション。さらにクルセイダーの超防御力が【城壁】により数倍になり、それを【シールドバッシュ】によって攻撃力に変換し、威力を十倍にまで高める【神剛力】を受けたのだ。

「オマエタチ、チカラ、ミセテモラッタ、ホウビヤル。ワレハ、【イリアラル】デモ、サイジャク、サラナルシレン、イドメ、シンノキョウフ、コレカラ」

今の一撃がとどめになったらしい。ミノタウロスが敗北の言葉を告げ、青い粒子になって消えていく。

消えたあとには、二つのアイテムがあった。

一つは俺の欲しがっていた、パーティ枠上限を増やすためのアイテムに必要な素材。【絆の糸】。

もう一つは、レアドロップ。【ミノタウロスの紅角】。

運がいいな。地食蟲といい、ミノタウロスといい、レアモンスターのレアドロップはありがたい。

完全にミノタウロスが消失してから、セレネが呆然とした顔をして、ぺたんと女の子座りになった。

「私、勝ったの? ちゃんとやれてた?」

「ああ、最初はだめだめだったが後半は良かったぞ」

今回の経験はセレネに勇気を与える。

次からは恐怖に負けることはないだろう。

恐怖を乗り越えた経験は彼女を大きく成長させた。

「そう、良かった。私、怖くて、動けなくて、真っ白で。だけどユーヤおじさまの声が聞こえて、やらなきゃって思って」

セレネが胸の中に飛び込んできた。

俺は彼女を抱きしめ、背中を叩いてやる。

「そこでもやれたんだ。セレネは強くなった。本物だ」

初めて、死を覚悟してパニックになって短時間で立ち直れた。

それがセレネの強さの証明だ。

「さあ、帰ろう。奥に魔法の渦があるはずだ。帰ったら教えるが、ボスだけあって奥にはおまけもあるぞ」

おまけという言葉を聞きつけて、ルーナとティルがやってきた。

「おまけ!」

「売り払って今日はご馳走だね!」

お子様二人組が、いつもの謎ダンスを二人で始める。

いったいこれはなんだろう。

「ユーヤおじさま、お願いがあるの」

「なんだ」

「腰が抜けて立てないわ。……運んで」

真っ赤な顔でセレネが懇願してくる。

苦笑する。

最後の最後でしまらない。しょうがない。

「きゃっ、この抱き方は恥ずかしいわ」

「今日は特別だ」

おんぶではなくお姫様抱っこ。頑張ったセレネへのご褒美だ。

「ユーヤ、ルーナも足腰が立てない」

「私も私も!」

お子様二人組が羨ましそうに見ていると思ったら、座り込み始めた。

「三人も運べるか。また今度だ」

「わかった!」

「約束だからね!」

立てないはずの二人が飛び上がる。

本当にこの子たちは……、でも楽しいな。

さあ、帰ろう。試練を突破したご褒美も忘れずにもらってだ。

最近、お祝いが続いているが今日もいいだろう。

なにせ、こんなにも楽しいのだから。