軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話:おっさんは真の【最強】を目指す

二回目の星食蟲の迷宮探索が終わった。

これでようやく次の使い魔の卵が出現する位置と時間がわかった。

この情報があれば使い魔の卵争奪戦で圧倒的な優位に立てる。

俺たちは話し合い、五日後の使い魔の卵争奪戦までレベル上げと訓練を続けることにした。

最強のパーティを目指しているし、セレネも継承の儀で勝つために少しでも強くなる必要がある。

情報を得てから五日目になった。

いよいよ今日の零時零分に使い魔の卵が実る。

これまで獲物が豊富な星食蟲の迷宮でレベル上げをしたおかげで、俺のレベルは26、ルーナとティルは25、セレネはレベル27となっていた。

圧倒的なペースだ。他の冒険者を気にせずに魔物が好きなだけ狩れる。これほどの贅沢はなかなかない。

俺はその喜びを日々噛みしめていた……一度目で駆けだしのころは本当に苦労したのだ。

使い魔の卵争奪戦の準備は万端だ。昨日のうちに星図の指示した神樹の下見を終わらせている。

今日の昼は狩りにはいかない。昼は軽い訓練をしたあと街をぶらつき、万全に体調を整えて使い魔の卵争奪戦に挑むのだ。

「今日も俺の勝ちだ」

「うううぅ、今日もダメだった。悔しい」

ルーナが大の字になって倒れてる。しょげているのかキツネ耳が垂れている。

稽古が終わってのいつものゲームは俺の勝利で終わった。

「ユーヤ、いつもは木刀に布なんて巻いてないのに、どうして今日は巻いたの?」

ルーナが目ざとく俺の木刀の異変に気付いたようだ。

今までは抜き身の木刀だったが今は布で包んでいる。

「ルーナが強くなったせいだ。今まではかなり余裕があったから、ルーナに当てる瞬間に力を抜けたけど……その余裕がなくなった。本気の一撃を当ててしまうかもしれない」

今までのルーナとの模擬戦には余裕があり、万が一にも怪我をさせない自信があった。

だが、ルーナの成長は著しくそんなことを言ってられなくなったのだ。

布を巻くとどうしても真剣みが薄れるのでなるべく使いたくないが、ルーナに怪我をさせたくない。

「負けっぱなしで気付かなかったけど、ちゃんと強くなってた。うれしい」

ルーナが立ち上がり、尻尾をぶんぶんと振る。垂れていたキツネ耳もピンとしている。

「ちゃんと強くなっているさ。今まで教えてきた誰よりもすごいペースでな。ほら、ご褒美だ」

俺は苦笑し、魔法袋から冷たい飲み物が入った竹筒を取り出しルーナの頬に押し付ける。

するとルーナが満面の笑顔で竹筒を受け取り中身を飲みほす。

まったく、この天才様は恐るべき成長速度とは裏腹に中身は子供のままだ。

もう一人の弟子を見る。

「そっちは体力回復ポーションのほうがいいな」

「ええ、お願い。このままじゃ夜の狩りに出かけられる自信がないわ」

セレネが完全に伸びていた。体力を使い果たしている。

戦姫ルノアの戦術を一か月以内に叩き込んでほしいとお願いされたので、それが実現可能な密度の訓練をさせていた。

怪我や打撲は自身の【 回復(ヒール) 】で癒し、疲れは高価な体力回復ポーションで抜いている。

訓練効率をあげるために体力回復ポーションを使うのは贅沢だが、セレネの話では継承の儀は二か月半後だ。

時間がない。一か月で叩き込み、そこから発展させていく必要がある。

セレネが体力回復ポーションをちょろちょろと飲む。

「それが飲み終わったら、こっちも飲んでおけ。バナナのミルク割りだ。体作りには最適だ」

いくらステータスがあがろうとスタミナは自前で鍛えないといけない。

レベルが上がっただけでは強くなれない。

そのことは冒険者なら誰でも知っている。

あの、おちゃらけたティルも毎日走っているし、しっかり筋力トレーニングをしている。

弓というのは体力も筋力も使う、何時間も確かな精度で打ち続けるのは才能だけではどうにもならない。

あの子はちゃんとやることはやっている。だからこそ信用しているのだ。

「助かるわ。美味しい」

夢中になってどろっとした白い液体を飲み干す。

さて、ようやく弟子二人の稽古が終わった。

ようやく俺の時間だ。

二人に教えることで、俺自身も得るものはある。

だからと言って、自らの鍛錬を怠るわけにはいかない。

一心不乱に剣を振るう。体に刻まれた剣の記憶を更新していく。基礎の九種の斬撃全てを五回ずつ振り、その一つ一つの精度を完璧に仕上げていく。一度目でズレを認識、二度目で大胆に調整、三度目で微調整、四度目で調整結果の確認、五度目で体に刻み込む。

ここさえチューニングできればあとの応用もすべて体がついていく。

コンマ数秒、わずかな角度のずれ、筋力伝達の流れの淀み、それらを一切許さない。

俺の剣。数十年で作り上げたそのイメージを今のステータスに合わせて最適化していく。

よし、チューニング完了だ。

あとは最終チェックで今日は終わりにしよう。

「ねえ、ユーヤ。ユーヤは強いのに毎日私たちの稽古が終わったら、すごい勢いで剣を振ってる。どうして?」

「そうね。ユーヤほどの剣士なら今さら素振りなんて」

俺は苦笑する。

「……いや、必要だ。実際のところ、俺の剣技は日々崩れてる」

二人が驚いた顔をする。

そうか、まだ話してなかったか。

「俺は弱いまま、レベル上限にたどり着いた。その弱さを克服するために剣技を磨き上げた。……それからわけあって、レベルリセットされて、レベルリセットする前とは比較にならない勢いでステータスが上がっているんだ。魔法戦士と戦士の上昇補正の差を考慮しても、かつてより力も速さも上になった」

戦士は魔法戦士に比べて、攻撃力、防御力、素早さのステータスの上昇補正が大きい。

だが、それを差し引いても特典ボーナスとレベル上昇幅固定の力でレベル22時点でレベルリセット前に追い付き、今では追い抜いてしまった。

「俺の体に染みついた剣よりも、今の剣は重く速い。歓迎すべきことだが俺の剣技のバランスを崩しているのも事実だ。だから、そのズレを死ぬ気で直してる。毎日、今の俺のステータスに合わせて調整だ。そうでないと、俺は弱さを補うための剣を捨てることになる……必死にあがいて身に付けた俺の剣、失うわけにはいかない」

最終チェックを開始した。

目をつぶり、仮想の敵をイメージする。

チューニングが終わった九種の斬撃と踏み込みを合わせ、考えうる最高効率の順番でつないで九種の斬撃の連続技を放つ。

放つのは九種の斬撃のつなぎ目が存在しない、流麗な剣。

九種の斬撃の連続技は、九種の斬撃のどれか一つにでも歪みがあれば破綻する。

剣が流れていく、淀みなく、今日塗り替えた新たなイメージの通りに。

渾身の力で最後の突きを放つ。

よし、いい出来だ。

深く息を吐く。

よし、チェックは完了。チューニングは完璧と言えるだろう。

こういったことは毎日やらないと意味がない。

少しずつの変化に都度対応する。あまりに速度が変わり過ぎるとチューニングの難易度は跳ね上がる。

剣士にとって何より大事なのは日々積み重ねることだ。

「ユーヤの剣、相変わらず綺麗」

「そうね、見惚れるわ。さすがは【最弱最強の騎士】ね」

【最弱最強の騎士】か。かつて騎士が剣技を競う大会に出て優勝して得た称号。

その称号が好きになれないのは、なにも恥ずかしいだけでなくもう一つ理由がある。

「セレネには悪いが、俺にその二つ名はふさわしくない」

「どうして? あなたが最強の騎士を決める戦いで優勝したのは事実よ。選りすぐりの精鋭騎士たち相手に、私の騎士ということで特別参加したユーヤおじさまは誰よりも力が弱く遅かった。それでも圧倒的な技量で不利を覆し優勝したユーヤおじさまには【最弱最強の騎士】の名はふさわしいわ」

俺は首を振る。

彼女は大きな勘違いをしている。

「俺が勝てたのは、ルールに助けられたからだ。あの大会は獲物が木刀で相手の急所にいいのが入ればそれで終わりだ。だがな、実戦ならあそこにいる連中は俺の攻撃を数十発は耐えられたし、防御を捨てて攻めることができたはずだ。逆に俺は一発で沈む。それが剣士同士の戦いでどれだけ有利かわかるだろ?……実戦なら当時の俺は超一流の騎士には勝てなかったよ」

あの大会のルールでは、力と速さの不利はあったが、攻撃力と防御力の不利は存在しなかった。

それだけルールに助けられておいて紙一重の勝利。

……情けないことに、強さではなくルールに助けられて勝ったと気付いたのは優勝してずいぶん経ってからだ。

その後、舞い上がり超一流の剣士になったとうぬぼれた自分を恥じ、さらなる強さを求めた。

「そんな。でも、大会で優勝したのはユーヤおじさまよ」

「それは認める。だが、最強の称号は受け取らない。俺より強かった騎士たちに申し訳ない。……一応言っておくが最強を諦めたわけじゃない。さっきも話した通り、レベルリセットで俺に足りなかったステータスの強さを得た。弱い俺がもがき続けた力と、まっとうな力。その二つで必ず【最強】と呼ばれるようになって見せる」

きっと、それも今の俺が強さを求めるモチベーションだ。

いい機会だ。セレネと再会して以来、胸に留めていた願いを打ち明けよう。

「セレネ、いやルトラ姫としてのお前に頼む。もし、継承の儀でおまえが勝てばまた大会に出させてくれ。今度は実力で優勝する。偽りの最強の称号を捨て、本物の【最強】の称号を手に入れる。ルトラの騎士として出る以上、俺は絶対に負けない。本物の勝利をルトラに捧げる。だから、頼む」

かつて弱いまま勝つことで騎士たちの誇りをけなし、得てしまった偽りの最強の称号を捨てるための儀式だ。

偽りの最強の称号を捨てるのは騎士たちへの謝罪であり、俺が前に進むための試練でもある。

セレネは顔を真っ赤にして、俺の顔をまっすぐに見ていた。

そのまま硬直する。

「どうしたセレネ?」

声をかけるとようやく再起動する。

「なっ、なんでもないの。……約束する。すべてが終われば最高の騎士を決める大会に出場してもらうわ」

「ありがとう」

セレネは慌てて顔を逸らす。

変な奴だ。

「さて、休憩したらみんなで買い物に行こう。まともに観光する余裕もなかったしな。夜までゆっくり羽を伸ばそう」

「それ、いい! ルーナはこの街の名物の食べ歩きがしたい」

セレネはまだ心あらずといった様子だ。

周囲を見ると、ティルがランニングから帰ってきた。

彼女にも声をかけて出発するとしよう。

商店街で、食べ歩きをした。

ようやくセレネもいつものセレネに戻ってくれている。

一つの店でどっしりと構えるのではなく店先に並んでいるものを次々に買ってみんなで分け合い、たくさんの美味を楽しむ。

観光で街を回る場合、こちらのほうが楽しめる。

「お肉のオモチ美味しい。明日も食べたい」

ルーナのお気に入りはもち米でバラ肉を甘辛く煮たものを包み、葉っぱに包んで蒸しあげたもの。

もちもちした皮とジューシーで甘辛い肉の取り合わせが絶妙だ。

「私はこっちがいいね。ふにーって伸びて楽しいし、中の甘酸っぱいクリームが最高だよ」

ティルのお気に入りはグリーンウッド名産の果実で作ったフルーツ大福らしきものだ。

もち米を潰して餅を作り、マンゴーのような果物のクリームを入れている。果肉も入っており贅沢なデザートだ。

どちらももち米を使っていることからわかるように、もち米はグリーンウッドの特産品のようだ。

「セレネは、何が気に入った?」

「そうね、私が気に入ったのは三番目のお店で食べた川魚の串焼きかしら。味付けは塩だけなのに不思議と後を引く味だったわ」

「あれか。確かに旨かった。近くの綺麗な川で今日獲れた魚らしいぞ。鮮度が違う」

山の幸や、豊かな土地で実る作物もいいが美しい川の恵みも捨てがたい。

グリーンウッドはいい。食べ物が素敵なのはいいことだ。

お腹が膨れたので防具屋に顔を出す。

地食蟲のレアドロップを使い、呪力があがる籠手を作ってもらうためだ。

店に入り、店主と会話してくる。……結果は空振りだ。大人しく店を出る。

「残念だったな」

「そうね。せっかくのレアドロップなのに。でも、楽しみを後にとっておいたと考えるわ。いつか別の街で作ってもらいましょう」

店主の腕ではこのランクの素材で防具を作れないと言われてしまった。

……次の街までお預けだ。

幸い、レベル30から稼ぐ予定の街は火と鍛冶の街。

そこには超一流の職人が揃う、きっと加工ができるだろう。

「気を取り直して、もう少し楽しもう。万全の体調で使い魔の卵争奪戦に挑むために」

「ルーナがんばる! がんばって、食べまくる」

「武器屋覗きたいかな。代えの弦に使う糸を買っとかないと」

「私は小物が見たいわね。最近汗をかくことが多くて、リボンがくすんで来たの」

みんな思い思いに楽しんでくれているようで良かった。

ルーナたちが楽しんでいる様子を見ると俺まで楽しくなる。

結局夕方までグリーンウッドを楽しみ尽くし、夜は酒を我慢した軽めの夕食を済ませた。

そして、いよいよ神樹の森に出発する。

この勢いのまま使い魔の卵を手に入れよう。