軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八話:おっさんはルトラ姫を生まれ変わらせる

ほとんど偶然に近い形で、諦めかけていた仲間が加わった。

クルセイダーのルトラだ。

お腹が空いた! 酒場! 歓迎会! と騒ぐお子様二人組に待てを言って色々と出かける前の準備をしていた。

ルトラの顔を知っているものが酒場にいるかもしれない。なんの準備もなしに酒場には行けない。

その一環でルトラのステータスカードを見せてもらっていた。

「ルトラ、ステータスカードを見せてくれてありがとう。だいたいわかった」

「お礼なんていいわ。これから同じパーティになるのだから、お互いの力を把握していることは重要よ」

ルトラはステータスカードを見せてくれた。

さすがは、王族だけあって外れスキルを避けて適切なスキルを選んでいる。しっかりと情報を持っていることは重要な武器だ。

本来、クルセイダーというのはNPC専用のクラスだ。

ルトラのご先祖様はゲームのイベントで活躍するNPCキャラであり、ルトラはその子孫だからこそエクストラクラスを手に入れている。

高難易度のイベントだからよく覚えていた。ぶっとんだ性能のNPC、ルトラと同じく光り輝く銀色の髪を持つ、ラルズールの戦姫ルノアの力を最大限に生かしてようやくクリアできる。

ルトラに戦姫ルノアを知っているかと聞くと二百年ほど前のご先祖様で救国の英雄と答えた。

……これは冷静に考えてみるとすごいことだ。

ゲームだと思っていた世界とこの世界が繋がっていることになる。こういったゲームの世界の痕跡は今後も探そう。それを調べることで何かにたどり着く気がする。

今はそれよりもルトラのことをなんとかしないと。

「ステータスカードを見て嫉妬しそうになったよ。エクストラクラスもうらやましいがステータスもすごい」

ルトラはレベル25。ステータスの上がり方も恵まれている。体力、防御力、呪力で毎回3を引いている。

そう言えば、ルーナたちも似たような傾向がある。

ルーナは力と素早さは毎回3上がっている。

フィルとティルの場合は力、素早さ、呪力。

エクストラクラス持ち、あるいは特別な存在はその傾向があるようだ。

「偉大なご先祖様である戦姫ルノア様と同じ、光り輝く銀の髪を持つ王女は、こういうステータスになるとじいやが言っていたわ。……不思議ね。銀の髪の女性だけがクルセイダーになれてステータスも高くなるの」

これが偶然なわけがない。偶然じゃないなら、レベルがあがれば戦姫ルノアにあったあれが発現するかもしれない。

恵まれたステータスに強力なエクストラクラスにゲーム時代のキャラの名残。

間違いなくルトラは掘り出し物だ。

クルセイダーの特徴は高い防御力と防御スキル、回復スキルが使えること。戦士と僧侶の中間のような職業だ。

もちろん、戦士や僧侶に比べて弱点もある。

戦士に比べて攻撃補正は低く攻撃スキルはほとんど存在しない。僧侶は回復と補助魔法を使えるがクルセイダーは補助魔法は使えない。

それを差し引いても強力だ。防御スキルと回復スキルの両立で一気にパーティ全体の安定性が増す。

もとより俺たちのパーティは魔法戦士である俺が補助魔法を使える。

火力は、俺のカスタムマジックで作り出した超火力の魔法たち、ルーナの確実にクリティカルに出すことで壊れスキルと化したアサシン・エッジ、ティルが詠唱しながら弓を使える精霊術士ということで十分すぎるぐらいにある。

僧侶が加わるよりも大きな戦力アップになった。

これ以上の新戦力はありえないだろう。

だが問題もある。

ルトラがラルズールの王女であり、しかも母親が平民の出で立場が弱く謀殺されかけたことだ。

彼女の存在がばれれば俺たちまで他の王族に狙われかねない。

損得だけを考えれば見捨てるべきだろうが、かつて小さかったルトラに騎士になってやると約束し、そのことをルトラは覚えていた。俺は自分から約束を破らないし、がんばる奴は好きだ。

「準備遅い。ユーヤ、ごちそう! ごちそう!」

「早くいかないと酒場がしまっちゃうよ!」

「もう少し待ってくれ。すぐに終わる」

待てをしていたのに限界が来たのか、ルーナとティルのお子様二人組がお腹が空いたと騒いでる。

準備を急ごうか。

「ルトラ、まずはこれを身に付けてくれ」

魔法の袋から髪飾りを出してルトラに手渡す。

彼女は受け取った髪飾りを身に付けた。とある変化が起こり、ルーナとティルが驚いた顔をする。

俺はルトラを部屋に備え付けられている鏡の前に連れていく。

「すごいわね。髪の色が黒く変わっているわ」

「闇の祝福と呼ばれる髪飾りだ。闇属性に対する耐性を上げる魔法の防具なんだが、身に着けている間は髪の色が変わる。……光り輝く銀髪はルトラの代名詞だ。そのままってわけにはいかない。髪の色が変わっていれば、そうそうルトラとは気づかれないだろう。人間を認識する際に髪は重要なファクターだ」

ルトラは戦姫ルノアの光り輝く銀髪を受け継いだことで有名だった。その有名さが武器になる。髪の色さえ違えば他人の空似で押しとおせる。

高価な闇属性を軽減するマジックアイテムを変装に使うのはなかなかの贅沢だ。

「髪の色が変わっただけなのに、自分じゃないようね。……でも、まだ不十分ね。これでもっと印象は変わるわ」

彼女は枕元に置いておいてあったルトラの装備の中から短剣を取り出すと腰まで伸びる長い髪を肩当たりまでばっさり切った。

そして紐で結ぶ。

髪の色が変わっただけでなく、髪型が変わったおかげでルトラの印象はがらりと変わった。

「そっちのほうが安全だが、切って良かったのか? 小さいころ、戦姫ルノアと同じ髪だと自慢気に話していただろう」

「ええ。確かに光り輝く銀髪は私の自慢だわ。でも、私にとって大事なのは継承の儀まで生き抜くことだもの。必要なら髪を切るぐらいどうってことがないわ」

そうは言うものの、どこか表情に陰りがあった。

小さなころから大事にしていた自慢の髪だ。切ったのは苦渋の選択だっただろう。

そうまでして叶えたい願いがあるからこその決断。

「……いい覚悟だ。これでおまえがルトラ姫だとはまず気付かれない。あとは名前をどうするかだな。さすがに外でルトラと呼ぶわけにはいかない」

「ええ、偽名は必要ね。いきなり言われても思い浮かばないわ。ユーヤおじさまが付けてくださらない? そうしてもらえると新しい名前も好きになれそうなの」

名前か。

まさか、こんな短期間で二人の名づけ親になるとは。

ルーナのときは彼女が気に入ったパイの名前を参考にした。

適当に考えるのではなく、何かいいものがあるといいが……。ふと、ルトラが切り落とした髪が目に入った。

「セレネはどうだ?」

俺がそう言うと、ルトラは何度も口の中でセレネと繰り返す。

「いい響きの名前ね。意味を教えてもらってもいいかしら?」

微笑みながらルトラは俺に問いかけてくる。

「ルトラは自分で切り落としていたが、銀色の髪を大事に思っていただろう? 姿を偽って髪を黒く染めたんだ。だからせめて銀をイメージする名前を付けてやりたかった。俺にとって銀は月だ。白銀の月。だから、古い言葉で月を意味する言葉のセレネにした」

「驚いた。ユーヤおじさまって意外に詩的でロマンチストなのね。……すごく気に入ったわ。ありがとう。この名前を大事にするわね」

ルトラ、いやセレネは見惚れるぐらいに綺麗に微笑んだ。

だめだな。自重しないと。

いずれはセレネはルトラに戻り王位を継承する。手を出してはいけない。

第一、フィルもいるし俺はもういいおっさんだ。十代の少女に手を出してどうする。それに俺は騎士だ。守るべき姫に手を出すなどクソ以下だ。

となりでティルがにやにやしている。……変なことをすればフィルに告げ口をされてしまうだろう。

「大事にしてくれ。それと一つ聞きたい。かなりぶっちゃけた話をするが、ルトラを捨てて、セレネとして生きていくという選択肢もある。なにせ、ルトラは死んだことになった。陰謀渦巻く王宮生活より、冒険者のほうが気楽で楽しいかもな」

彼女を誘惑するつもりはない。

人生の先輩としての忠告だ。

自分の可能性をきっちりと見定めて幸せな道を歩いてほしい。

セレネが王宮に戻る以外の選択肢しか見えていないという理由だけで王宮に戻るのは不幸だ。

「ユーヤおじさまは相変わらず優しいのね。……私は王宮に戻るわ。あの兄たちにラルズールは任せられないの。そうなればラルズールは地獄になる。あの人たちは王の器じゃないし私欲に走りすぎるもの」

「余計なことを言って悪かったな。立派な王になってくれ」

民を守るために自由を捨てるか。まだ少女でありながらセレネは立派な王族だ。

「もう一つ訂正があるわ。実のところ継承の儀で勝てば次の王になるのではなくて、王位の選定権を得られる。……私は王にはならない。私が王位継承者の有力候補なのは、ただ剣の腕が優れているだけ。王にもっともふさわしいのは人格的にも能力的にも腹違いの姉なの。継承の儀で優勝すれば姉に王位を渡して、姉を支えていくわ。もちろん、比翼の騎士にユーヤおじさまを任命したあとにね」

目を丸くした。

命がけで継承の儀を勝とうとしているにも関わらず、王位は人に譲る。

この子はどこまでも、国……ひいては民のことを考えている。

こういうのは嫌いじゃない。よりいっそう応援したくなった。

そして、ちょっとした欲もでる。王にならないのなら、姉に王位を渡したあとにルトラと冒険を続けられるかもしれない。

「わかった。……とりあえず飯だ! 体力回復ポーションでだいぶ体調も戻っただろうし、固形物も入るだろ。新しい仲間の歓迎会だ。盛大にいこう。なんでも頼んでいいぞ」

「ルーナは待ちくたびれた!」

「さあ、いこっ。セレネは新入りだから私たちの言うことをよく聞くんだよ!」

「ルーナもいろいろと教えてあげる」

「ええ、お願いするわ。可愛い先輩方」

お子様二人組が先輩風をふかして、思わず笑ってしまった。

ルトラ改めセレネに寝間着から俺が買ってきた服に着替えさせて、宿を出てみんなで酒場に行く。

実のところ俺もはらぺこだ。

思いっきり楽しい歓迎会にしよう。