軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十話:おっさんはリングにあがる

予定通り、借りたチップも全部失って破産した俺は、衣服を剥ぎ取られて連行されていく。

予定通りではあるが、勝てればそれにこしたことはなかった。

借りた金でのギャンブルで高配当をもらえれば、濡れてに粟の大儲けだったのだ。

しかし、相変わらず俺の運はないようでこのざまだ。

パンツ一つで、連行される俺を金持ちたちがあざ笑う。

……男だからまだマシだが、女性ならひどい辱めだろうな。

『まあ、逆の立場だったら俺もこいつらと同じ反応をするか』

五百万円以上の大負けをしたあげく、さらに一千万円を借りて全部すってしまうようなバカに同情の余地はなく、完全に自業自得だ。

ただ、ゲーム時代にはそんなバカがそれなりにいた。

割と、このゲームはそういうありえない馬鹿をすることでイベントが起こることが多く、やり込みプレイヤーたちには全力で地雷を踏みに行く習慣がついている。

……もっとも、デスペナが重い仕様な上に、中には 即死(キャラデリート) 級の地雷が埋まっているので、そんなことをする奴らは真正のマゾだけ。かつては俺もその一人だったが。

「さっさと歩け、このクズ」

背中を蹴られた。

本気で人間扱いされていない。まあ、それも構わない。

なかば、詐欺じみた方法でチップを巻き上げることに対する良心の呵責が消えてくれる。

スタッフルームを通り、獣臭いフロアを進み、一番大きな扉が支配人によって開かれる。

「そこで、着替えなさい。パンツ一枚でリングにあがってもいいですがね」

そうして、魔物の檻がいくつも並んだ部屋に押し込められた。

部屋にあるのは、いわゆる奴隷服というべきもの。

くすんだ白で上下一体型。下はスカートのようになっている。

女性が着れば、客が興奮するんだろうが、おっさんのパンツが短い裾からちらちら見えても誰も喜ばない。

あるのはそれだけだ。ただの薄い布でこんなものを着ても防御力は皆無で気休めにもならない。

武器は木の棒が一本。これで上級魔物を殴れば、武器のほうが砕ける。

とはいえ、使いようはあるので、紐で腰にぶら下げておく。

「魔法戦士で良かったな。職業によっては無理ゲーだ」

まず、戦士であれば絶望だ。

なにせ、ほとんどのスキルが剣依存で、剣がないと発動すらできない。同じ理由で弓依存の狩人もだめだ。

そして、支援職や回復職も絶望的。本人の戦闘力がほぼない上に、支援すべき対象もいない。

魔法使いもきつい。純粋な魔法使いはあまりにも脆く、一撃喰らえば致命傷。しかも壁役がいないため、詠唱時間の確保ができない。

最良は素手でこそ真価を発揮する武闘家であり、俺の職業である魔法戦士は比較的ましな分類になる。

ある程度の防御力を持ち、魔法で攻撃力を確保できるからだ。

「……さて、俺の相手はどんな魔物かな」

奴隷服の下に例の本があったので開く。

戦う前に、相手の情報を見るぐらいは許してくれるらしい。

金がないから賭けはできないとはいえ、次のカードが出ていて助かる。

最初のページに乗っているのは俺で、パンツ一枚の姿が表示されている……いったいこれはなんの羞恥プレイだ。

レベル50の魔法戦士であることが書かれており、ステータスや手持ちの魔法などは表示されていない。

オッズは驚異の二十倍。

中間オッズなので、賭けが始まれば変動してしまうだろう。最終的なオッズは締め切り時の賭け額で決定する。あくまで現時点のオッズは参考にすぎない。

フィルが俺に一千枚のチップをかける予定だ。それだけ賭ければ、かなり変動するだろう。

そして、問題は俺以外の三体。

「……まずいな、ソードマスター・リザードマンか」

バトルロイヤルに出場する魔物の中でも最強クラスの魔物。

剣技を極めたリザードマンだ。

剣を使うリザードマンは多いが、その中でも最上位に位置する。

上級剣技を使いこなす上に、魔物だけあって基本パラメーターが人間よりも高いし、反射神経が異常に良く設定されている。

並のレベル50戦士ぐらいなら相手にもならないだろう。

それでも、剣を装備していれば、スキルに頼らない剣技で圧倒して倒す自信がある。

しかしながら、こちらは丸腰だ。

さすがにソードマスター・リザードマン相手に素手で立ち向かう勇気はない。

「お次は大型の魔物か。……こいつは、潰しようはあるが。乱戦でそれができるかが問題だ」

アダマンタイトホーン・ブル。

硬さだけならオリハルコンに匹敵する最硬金属アダマンタイトの角を持つ、猛牛。

その突進力は全魔物の中でも最上位クラス。

固くて、速くて、重くて、でかい。想像して見てほしい、世界最硬の槍を付けた二トンを超える巨体が、時速三百キロを超えるスピードで迫りくる姿を。

受け止めることは人類には不可能。そして、伝説級の盾でもない限り容易にその角は貫く。

ただ、隙はある。

そのあまりの速さが仇になって小回りが効かないし、硬いのは角だけ。

初動を読み、全力でサイドステップを踏めば、突進を躱して背後を取れる。背後なら、硬い角に邪魔をされずこちらの攻撃が通る。

……問題は時速三百キロにもなる一撃必殺の突進が乱戦のいつとんでくるかわからないことだ。

一対一なら躱せるが乱戦になるとどうなるかわからない。

「そんで、最後はこれか……完全に死の組み合わせじゃないか」

ソードマスター・リザードマンも、アダマンタイトホーン・ブルも極めて強力な魔物だが、こいつは強力というより、厄介。

その名を、ヴェノム・パピオン。

醜悪な蝶人間で、蝶の羽は毒々しい紫で巨大な目の紋様が刻まれている。

猛毒(ヴェノム) の名は伊達ではなく、上空から毒の鱗粉を撒き散らす。

その凶悪さは群を抜いている。

毒にはランクが存在するが、こいつの毒は文句なく最強ランク。それも、吸ってから一分以内には死ぬレベル。

また、ヴェノム・パピオンの鱗粉は毒だけでなく、麻痺、眠り、混乱、幻惑、恐慌をも同時に仕掛けてくる。

それらすべての耐性を上げる装備はなく、吸ってしまえば必ず何かしらの状態異常に陥ってしまう。

俺は奥歯にどんな状態異常も直す貴重な薬を仕込んでいるが、それが使えるのは一回のみ。

そして、奥歯にある薬を噛み砕くだけの理性が残っている保証もない。

それほどまでにやばい魔物。

何をおいても真っ先に殺す。

ヴェノム・パピオンなら他の魔物を死に至らしめる可能性は高いのだが、さほど広くないリングに鱗粉を撒き散らされたら詰んでしまいかねない。

……せめてもの救いは、こいつが出現するダンジョンと違って、単体で出現すること。

風上にヴェノム・パピオンの群れが現れたのを見たことがある。トラウマものだ。醜悪な風貌な上、羽に描かれた巨大な目がいくつも輝く、毒など関係なしに吐き気がする。

そして、一瞬で周囲が鱗粉に埋め尽くされて、自身も仲間も倒れ、いつの間にか足元にわいていたヴェノム・パピオンの幼虫に食われていく。ゲーム時代のプレイヤーが選ぶ、嫌いな魔物ランキング三位は伊達じゃない。

こいつも相当気持ち悪いが、幼虫のグロさは夢にでるほどだ。

「……このメンツ、真正面からぶつかれば、即座に死ぬな」

剣なしに勝てる気がしない、ソードマスター・リザードマン。

超高速重戦車、アダマンタイトホーン・ブル。

最凶最悪の状態異常使い、ヴェノム・パピオン。

一手でも間違えれば終わりだ。

バトルロイヤル開始まで、あと三分。

それまでに最善手を見つけ出してみせよう。

三分が経った。

賭けが終了し、最終オッズが決まる。

「ほう、フィルが一千枚俺に賭けても、まだ十三倍か。よほどの大金が動いているようだ」

金持ちどもは俺が殺されるシーンが楽しみで仕方ない様子だ。

そのハッスルしたぶんが賭け金になって現れている。

やる気になるな、俺が勝てば、俺の死を望む悪趣味な連中が金を失うのだから。

『準備もやる気も十分』

幾度となく、脳内シミュレーションを行った。

……ミスらなければ勝てる。その確信を得た。

この部屋に、スタッフたちが入ってくる。

「さあ、行け。せいぜい無様に殺されてくるがいい。クズが」

嘲笑と共に背中を押される。

完全武装した男たちが槍を構えて、前に進まなければ突き殺すと目で語っている。

「戦いはするが、殺されるつもりはない。生きて戻るさ」

「人間が魔物に勝てるわけないだろうが、戻ってきたやつは一人もいない。おまえは魔物に食われて死ぬんだよ」

主催者が人間をリングに上げるのは、その強さや技術を見たいからではない。

魔物同士の戦いに飽きた観客たちが冒険者が強大な魔物から逃げ惑い、無様に命乞いをして、虐殺される姿を見たがっているからだ。

彼らにとって同族が殺される姿こそ、もっとも心を震わせるアトラクション。

どれだけ強い冒険者だろうと、普通はそうなる。

だが、あいにくと俺は普通じゃない。

歩くのではなく、走る。

先手を取るために……。

すでに詠唱を始めていた。必殺の魔法はこの手にある。

リングにあがると同時に詠唱が完了し、魔法が解き放たれる。

さあ、始めようか。

勝ちの決まったギャンブルを!