軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十五話:おっさんはオークションに参戦する

世界最大のオークションが開かれる街ゴルドバラン。

この街がオークション会場に選ばれるのには明確な理由がある。

オークションを神様が運営しているからだ。

正しく言うと、ゲーム内で快適にオークションを行うためのシステムが生き残っている。

現実には不可能なほどに効率化されたシステムであり無料。

なにせ、オークション開催中は十万人以上集まり、競売にかかる品も万を軽く超える。

十万人以上が同時に参加するオークションなど人の手には余る代物で、神様のシステムがあるからこそ可能なこと。

出店側のメリットも非常に大きい。

一般的なオークションのほとんどは落札額の一割~二割ほどを手数料や運営費として渡す必要があるのに無料。

さらにセキュリティも万全。オークションで保管されている品々は狙われ易く、盗難や紛失の危機がつきまとうし、主催者側が偽物とすり替えることすらざらにある。

しかし、ここでは百%安全に取引ができる。

この盛況っぷりも納得だ。

受付会場である神々の塔の二十一階は物理法則を無視した異様な広さで、それでも窮屈だと思うほど人が溢れかえっている。

「すっごい人だね。あそこが受付でしょ」

「私たちの前にいるのって千人はいますよね。どう考えても、順番が回ってくるまでに受付時間が終わっちゃいますよ。オークションの手続きなんて、相応の時間がかかりますし」

「ああ、それは心配しなくていい。一人、五分もかからない上、受付が百箇所ある。せいぜい一時間だな」

オークション参加者は十万人オーバー、出品者も数千人いる。

当然、手続きだってそれだけの人数を捌けるようになっていた。

「うそっ、必要事項を書類に書くだけで十分ぐらいかかりますよ」

「まあ、見ていればわかるさ」

フィルは受付嬢をしていただけあって、そのあたりの時間は感覚でわかる。

ただ、あくまでそれは人間が行うことを前提にしている。

あれを見たら驚くだろう。

「うそ、本当に一時間もしないうちに順番が回ってきました。あれ、人がいないんですね」

受付には大きめの箱があるだけで、その前に立つとアナウンスが流れてくる。

『オークションに出品する品々を、箱に入れてください。最低落札価格及び即決価格を設定する場合は、投入時に値段を口頭で告げること、最低落札価格は指定がない場合、鑑定額の五分の一となります。また落札期限も設定可能。通常は三日となりますが、口頭で一日目、もしくは二日目という指定が可能です』

「期限、初日終了まで。即決価格はすべて鑑定額の三倍指定」

俺はオークションに出すと決めていたものを片っ端から箱の中に流し込んでいく。

箱よりも、大きなアイテムすら吸い込まれるように入る。

それが半分ほど終わった段階で一度流し込むのを止めた。

「期限指定、二日目終了まで。即決価格未設定」

それから残り三分の一になったところで三日目終了までに期限を変え、そちらも二日目と同じく即決価格未設定にする。

「これで終わりだ。早かっただろ?」

入札が終わると同時に、分厚い目録が箱から出てくる。

それを開くと、俺が箱に投入した全てのアイテム一覧と、その入札状況が表示された。

凄まじい量だ。……【三竜の祭壇】であほみたいに手に入れた貴重なアイテムのうち、不必要なものを一気に吐き出した。

鑑定額の合計は、それこそ一生遊んで暮らせるどころか、ひ孫ぐらいまではどうにでもなる金額。

「あの、いろいろ聞きたいんのですが、鑑定額ってなんですか?」

「神々が設定する、物の価値だな。この箱に入るのは、いわゆるアイテムだけで、そいつの正しい価値を鑑定してくれる。ほら、この目録にも書かれているだろう? これもまた、このオークションが人気の理由だ」

「なるほど、神の目で価値を見抜くってことは偽物が存在しないわけですね」

「ご名答」

残念ながらこの世界では、平然と偽物が出回り、目利きができないものは簡単に騙されてしまう。

しかし、このオークションであれば、そういったことはなく、正しい価値を知った上で競りができる。

偽物の心配がないからこそ、客は安心して競りに熱中できるから良く売れる。それは出品者にとっても大きなメリット。

……ただ、偽物を掴まされたことに出品段階で気づく間抜けが、うなだれていることが多く。それもまたこの街の風物詩。

「へえ、面白いね。私も何か出品しようかな」

「好きに出品してみるといい。いい経験になる」

「じゃあ、とりあえず、【魔法袋】にたまってる要らないの、いれちゃう。お小遣い稼ぎになるよ!」

「あっ、ルーナもやる。【魔法袋】いっぱいで整理が必要だった」

「私も参加しようかしら」

ティルだけじゃなく、ルーナとセレネも参加した。

楽しんでいるようで何よりだ。

「フィルはいいのか?」

「ええ、必要ないものは手元に置かないようにしているので。あと疑問に思ったのですが、どうして一日目、二日目、三日目で締切をわけたのですか?」

「初日に必要なものを買う軍資金を稼いでおきたいから、初日締切を多めにしてある。とはいえ、俺以外にも軍資金がほしい連中が多いせいで初日締切の商品が殺到して安く買い叩かれやすい。だから、全部を初日に回すわけにはいかない。二日目と三日目は、商品の性質によってわけてある」

このあたりは経験則。

軍資金がほしい出品者が集中する初日、限界まで値段が釣り上がるよう少しでも長く期限を取りたいものが集まる三日目は多くの品が集中するため埋もれやすい。

なるべく二日目に集めるのが鉄則。

そして中には三日目に出すべき品もある。非常に希少かつ需要があるものは競争相手がいても埋もれないため、三日目にして限界まで値上がりを待つべきで、その考えのもと三つに分類してあった。

「面白いですね。買う側としては参加したいです。お金はけっこうありますし」

「転売なんかも楽しいぞ。初日と二日目はここに来れば追加で出品ができる。安く初日に買い叩いたものを出品して高値で売る奴もごろごろいる」

「それは面倒なのでパスで。ただ、アイテムしか買えないのは残念ですね」

そう、ゲームでアイテムとして認識されるものしか、この神々のオークションに出品できないのは非常に惜しい。

人の手によって作られた素晴らしいものもこの世界に溢れている。

「そっちもあとで覗こうか。神々の運営じゃない普通のオークションも開かれるんだ」

需要があれば、商人たちがそれを見逃す訳がない。

神々のオークションで殺到する人々を目当てに、普通の人間が普通のオークションを開いている。

いわゆる、アイテムとして認識されているもの以外を扱ったもので、完全に棲み分けが出来ており、そちらも非常に白熱する。

世界中の名品が集まり、落札しなくても見ているだけで楽しい。

「いいですね。この三日、本当に楽しくなりそうです」

どうやら、フィルはそちらのほうに興味を持ったようだ。

服や小物なんかはアイテムより、そちらのほうが可愛いものが多い。それにあそこにはオークション特有の熱気があって、観光としては神々のオークションより楽しめる。

神々のオークションはどうしても便利だが、味気ないのだ。

翌日、俺達はテントにいた。

「ううう、街にいるのにテントなんて、悔しいよぅ。宿と柔らかいベッドが恋しい」

ティルが文句を言っている。

ここはゴルドバランの近くにある平原で、テントが見渡す限り百は見えた。

キャラバンで規模の大きいものもある。

「しょうがないさ、この時期に来ていきなり取れる宿なんてないからな」

「でしょうね。数万人が押しかけて来てるんですから宿なんて一瞬でうまります」

ここ以外にもさまざまな場所にテントが乱立している。

この時期のゴルドバラン周辺には街に入り切らない人間たちが集まるテント地帯が無数にできる。

それほど規模がでかい祭りなのだ。

「ユーヤ、街にいこっ。美味しいもの食べたい」

「それは今日のオークションが終わってからだな……今、外にでるとひどいことになる。オークションは昼過ぎまでだから、昼飯には間に合うさ」

「ひどいことってなんなのさ、嫌な予感しかしないよ」

「それは見てのお楽しみだ」

朝食を食べてからもテントにこもっているのにはそれなりの理由があるのだ。

「じゃあ、大人しくしとくよ。……いよいよオークションだね。すごいよね、この本さえあれば、世界中どこにいてもオークションができるなんて」

受付でもらった目録。

これが神々のシステムであり、使い方は昨日のうちに説明してある。

まず一ページには自身が出品したリストと入札状況。

そして、次ページ以降にはデフォルトでは締切が近い順にオークションに出された品々が並ぶ。

ただ、万を超える品を片っ端から見るのは不可能。

それを解消するシステムがある。

「絞り込み、鉱物、並べ替え、鑑定額順」

絞り込みと並べ替えができるのだ。

鉱物のみを表示し、神々の設定した鑑定額順に並べる。

こうすれば、貴重な鉱物を見落とすことはない。

アイテム名を指定すればピンポイントでの検索も可能。

「じゃあ、私は服、鑑定額順」

「ルーナは食べ物、鑑定額順」

そして、これのすごいところはかなりアバウトな指定でも、なんとかしてくれる。その精度は、某グー○ル先生にも匹敵する。

かわいい順、斬れ味がいい順なんてしてもOK。ただし、それで望みの結果が出るかは別問題だが。

「リスト、お気に入り」

そして、この目録はお気に入り設定とその一覧まであり、出品したリストと同じように入札状況が見れる。

これがあるから数千の品を同時に競ることができるのだ。

「さあ、始まるぞ」

身構える。このオークションは開始直後にまず、第一の山場がある。

「いっぱい買わないと、欲しいものがありすぎて徹夜しちゃった」

「ルーナも」

昨日、この子たちは徹夜で目録とにらめっこしていた。

それほど魅力的な商品が多かったのだ。

そして、開始時間がやってきて、入札可能になる。

お気に入りリストを開き、片っ端から値段を発言することで、入札していく。

「よしっ、落札と」

落札が完了すると同時に、宙から俺が落札したものが現れ、代わりに金が消えていく。

超スピード決済。

俺が落札したのはミスリルだ。希少金属で、一般市場には滅多に出回らず、特定の高難易度鉱物ダンジョンで面倒かつ時間がかかる採掘作業が必要な代物。

絶対に欲しかったものの一つだ。……こんなもの、自分で必要量を集めていたら、おっさんを通りこして爺さんになってしまう。

「早いよ! って、それどうなってるの。締切って最短で一日目終了時点だよね」

「即決価格で入札した。その値段で入札したら、その時点で落札が決定する」

「あっ、そういう意味だったんだね……でも、高くない? 鑑定額の二倍だったよ、今のミスリル」

「いや、余裕でお買い得だぞ。ミスリルは需要が多いからな、普通に競っても、それぐらいの値段は軽く超える。鑑定額なんてものは目安だ。神々の値付けより、人間側の需要こそが値付けに必要なもの。逆に神々がいくら高い値段をつけても需要がないものは売れないしな」

結局、システムでつけた値段というのはただのレアリティと性能から算出されたもの。

その値段がそのまま正しいとは限らない。

今落札したミスリルなどは、軽いのに鉄よりもずっと強度があり、魔力もよく通すと、冒険者の武器だけじゃなく、様々な道具などでもよく使われるため、需要が非常に高い。

おそらくこの出品者は、冒険者であり市場相場というのがわかっておらず、たまたま運良く手に入れたミスリルを鑑定額の二倍もつけておけば大丈夫だろうと判断して、こんな値段に設定した。

所謂掘り出し物だ。

実際、俺は他にもいくつか即決価格のあるミスリルをチェックしていたが、開幕と同時に三倍設定したものすらほぼ消えている。

限界まで神経を研ぎ澄ませ、開幕ダッシュをした甲斐があった。あと一つ二つ、即決を決めたかったが、最初の一つ以外は競り負けた。……一つ落札できただけでも十分だろう。

こういう掘り出しものは多い、冒険者などは市場価格に疎く、盲目的に鑑定価格を信じてしまう。

「へえ、そうなんだ。難しいね。って、ユーヤ兄さんの後ろにすごいお金がざくざく現れてるよ!? いったい何が起こってるの!?」

「ああ、俺が即決価格で設定した品が売れているようだな。このオークションだと買ったら商品が、売れたら金が、こうやって近くに現れる」

「それって、今ユーヤ兄さんが得したように、安く売りすぎてるんじゃないのかな?」

「三倍に設定していると、そういうのは少ないが、まあ、あるだろうな。だが、いちいち設定するのが面倒だし、逆に設定しないより高く売れてるものもあるからトントンだ」

「ええ、高く買う人なんていないよ」

「いや、それがいるんだ。……ぶっちゃけ、他の落札者と競り合うのって面倒じゃないか。一発で確実に手に入るなら多少高くても、即決金額を打ち込むのもいる」

俺もその口だ。

今回は購入したい品々がかなり多い。

この数をいちいち、他に入札がないかチェックしつつ競り合うなんてやっていられない。

だから、ここまでなら出せるという限度額が即決価格より高ければ、多少の損を覚悟でガンガン落札している。

「すごい光景ね。ユーヤおじ様の後ろにすごい勢いでお金が積み上がって、一瞬で消えて、代わりにアイテムが溢れていく、大金が増えたり、消えたり、現実感がないわ」

「これがテントから出れない理由だ」

街中で、金貨と貴重なアイテムを垂れ流しながら歩くなんて真似はできないのだ。

テントの中がアイテムで溢れかねないので、積み上がったアイテムを、どんどん【魔法袋】にいれるので大忙し。

「そんなことより、お前たちもオークションを楽しめ」

「んっ、やってる。……あっ、ルーナより高いお金いれられた……でも、もう鑑定額の二倍、同じアイテムが他に出品されてる、こっちはまだ安い。お引越し、うっ、また上げられた。しかも、即決で落とされた。あっ、元の奴も即決……欲しかったのに」

ルーナは少しでも安く買おうと、最小金額を上乗せするスタイルで楽しんでいる。

ただ、彼女は知らない、最小金額で積み上げるのが一番相手との競争が激化する泥沼だということを。

基本的に、オークションはいかに相手を下ろすかのゲーム。最小金額じゃなく、一気にどかんと値段が引きあがるほうが、こちらの絶対に落とすという意思を見せつけられて、相手が引いてくれる。

逆に最小金額で競っていると相手も、あと少し高い金額を出すと勝てると思ってしまい、いつまでも粘る。

「即決で落とすってなんか負けた気がするから、安く落とせるように頑張ってみるよ!」

お子様二人組は、もはや欲しいものを手に入れるためじゃなく、オークションというゲームに勝つ方向で熱中している。

俺のほうはというと、予め作ったリストで割に合う上限金額を全部ぶち込み、それ以下の即決金額だったものは落札した。

おかげで開幕のラッシュで即決されて得た金を含めて、すっからかん。

でも、いい買い物が出来た。

「やっと開幕ラッシュが収まったか」

さきほどから、俺の出した商品がぴたりと落札されなくなった。

即決は開幕直後、目録を読み込み、スタートダッシュで入手を目論むものたちが集中する時間に起こりやすく、此処から先は落ち着くだろう。

そのあとはぼうっと、予め作ったリスト以外の商品を覘き、万が一でも買えたらいいなと少額を入れて遊んでいると、数時間が経っていた。

もう、あと一時間ほどでオークション一日目が終わる。

俺は昼寝することにした。

なにせ、入札中のものは指定した金額以上を入札されたら諦めると決めているし、新たな品を発掘しようにも手持ちの金がなく、することがない。

何より、昨日徹夜で目録とにらめっこして眠いのだ。

最後に出品リストの入札状況を確認。現時点で割といい値がついている。

これなら、カジノの軍資金もどうにかなりそうだ。

もう少し値上がることを祈りつつ、ついでにルーナたちが満足のいく買い物ができることを願い、ゆっくりと眼を閉じた。