軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九話:おっさんは神竜を暴く

首が一つ落とされ、二首になった神竜フェルグラント。

そのプレッシャーが弱まったのを感じる。

それは感覚だけではなく、三首が二首になったことで攻撃の圧力が下がり、やつの切り札が使えなくなったからだ。

だが、それでも炎帝竜と氷盾竜の力を振るえるのは非常に厄介なのは変わらない。

その上、この攻撃力が下がっている期間はさほど長くない。

この間にどれだけリソースの消耗を抑えつつ、残り二本の首を狩り落とすのかが重要になる。

あれからどれだけ時間が経っただろう?

二竜になったとしても強敵で、俺たちはダメージを負い、疲労していた。

しかし、きっちりとこちらも手傷を与えている。

「ルーナ、来い!」

ルーナが俺に向かって走ってくる。

バレーにおけるレシーブの構えをし、ルーナが俺の手に足を乗せる。

その瞬間、思いっきり放り投げることで特大ジャンプ。

そこから、さらにアクセサリー効果での二段ジャンプ。

ここまですれば、カウンターでなくとも首を狙える。

これは三つの首が揃っているうちはできなかった戦術だ。

なにせ、二段ジャンプ後は空中で回避行動が取れない、三竜の圧倒的な攻撃密度、防御能力を考えると自殺行為だったからだ。

……逆に言えば、二竜の首しか無い上、欠けたのが最速の雷竜であれば仕掛けていける。

ルーナが空中で体勢を整えて、突きに移行する。

「【アサシンエッジ】!」

クリティカル音が鳴り響き、炎帝竜の首が刎ねとばされる。

とうとう、二本目だ。残りは氷盾竜のみ。

落ちてきたルーナを受け止め、衝撃を殺す。

「んっ、完璧」

お姫様抱っこされたルーナがVサインをした。

「ああ、よくやった。……そして、これからが本番だ」

「うえ、これだけしんどくて、本番がまだとか、最悪だよ」

「事前に聞いてなければ、心が折れていたわ」

「ええ、普通はここで勝利を確信しますからね」

二本目の首がなくなり、残りは防御重視の氷盾竜のみで攻撃能力はほとんどなくなったというのに俺たちの警戒は解かれていない。

これからが神竜フェルグラントの真価が発揮されるのだから。

「……今のうちに回復と準備だ!」

俺の指示で全員がせわしなく回復アイテムを使い、フィルとティルは【魔法袋】から矢を補充し、ルーナは短刀を持ち替えて、セレネはアクセサリーを変更する。

神竜フェルグラントの体が黄金に光り、光の粒子に解けていく。

無敵状態であり、ここで攻撃を加えても無意味だ。

だからこそ、゛本番゛に備えて俺たちは態勢を整えていた。

今まで、神竜フェルグラントは三頭の竜として戦っていた。しかし、これからは違う。神竜フェルグラントとしての戦いを見せる。

変化前の形態を三竜形態と言い、変化後を神竜形態と言う。

そうなるトリガーは二種類、三首のうち二つを落とされるか、体力が残り三割を切ること。

まず、首から上が完全に粒子へと変換されてから体へと吸い込まれ、爆発的に力が高まる。

そして、粒子が形を変えていく。

その姿形は、西洋風のドラゴン、どっしりとした四肢があり、二本足で立つ、それだけであれば炎帝竜と一緒だが、やつには轟雷竜ばりの雷を帯びた巨大な翼があり、氷盾竜のように絶対零度の氷外殻に覆われている。胸では炎帝竜の特徴、命を燃やすことで爆発的な出力を可能とするコアが激しく紅く光輝いていた。

変態が終わり、体表が黄金に輝いた。これこそが神竜形態だ。

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNNNNNNNNNNNNNN!!」

三竜形態は、ただ三つの竜を並べているだけだった。

だが、神竜形態はそれぞれの長所をすべて併せ持った究極の竜。

その強さは、比較にならない。

「首が揃っていればな」

神竜形態は、三首すべての力を取り入れて初めて完璧たり得る。

システム的に言えば元々極めて高水準のステータスを持つ神竜に炎帝竜の攻撃力、氷盾竜の防御力、轟雷竜の速力が加算され、三竜分の出力を得る。

さらには三竜の特殊能力をも取り込んでしまう。

炎帝竜の【紅蓮の心臓】……狂化時における能力上昇幅の増大。

氷盾竜の【絶対防御氷壁】……氷の外骨格による超防御力の鎧。

轟雷竜の【雷嵐を統べる翼】……風と雷を操る超速飛行。

これらがすべて揃っていれば無敵だ。

今の俺たちどころか、レベル上限を取り払い、70までたどり着いても勝てる気がしない。

しかし、奴が神竜形態になる際、すでに炎帝竜と轟雷竜の首は失われていた。

つまり、攻撃力と速度の上昇補正を失い、【紅蓮の心臓】【雷嵐を統べる翼】は機能していない。あの紅く輝く心臓と雷を纏う翼はただの飾りに成り下がっているのだ。

「いくぞ、みんな!」

「「「「おう」」」」

フォーメーションを組んで奴に挑む。

俺たちは徹底的に首”だけ”を狙っていた。それも氷盾竜には攻撃を当てないように配慮して。

その理由がこれだ。

首が三本ある状態で神竜形態になられてしまえば、死以外の未来はない。

また、二本でも絶望的な戦いを強いられる。

氷盾竜の首や胴体にダメージを与えれば、首が二本残った状態で神竜形態になってしまっていただろう。

そして、残る首は氷盾竜でなければならなかった。

轟雷竜、炎帝竜、そのどちらかが残るだけで勝率は著しく落ちる。

ステータス加算なしでも神竜の速度は対処できるぎりぎり、あれに轟雷竜の速度が加わり、自由自在に空を舞われれば、対処不能になる。

炎帝竜もやばい。あれの攻撃力を加算されるとルーナや後衛組は全攻撃が即死攻撃になり、危険な上、一切リスクを負えなくなる。なによりまずいのが【紅蓮の心臓】、発狂時の全能力上昇幅強化なんてもの許せるわけがない。

その点、氷盾竜を残したところで硬くなるだけだ。

他の二竜に比べると危険性は極めて低い。

それに……。

「やっと私も攻撃に参加できますね」

「前衛組に負けないようにがんばろ!」

エルフ姉妹の矢が雨のように降り注ぐ、そのすべてが氷外殻の隙間を狙って突き刺さる。

その矢はフィルの【魔力付与:炎】によって炎をまとっていた。

氷外殻は厄介ではあるが、全身を覆っているわけでなく、エルフ姉妹なら隙間を狙える。ようするに対処可能な特殊能力なのだ。

弱点属性の炎矢を何度も喰らい、それでも神竜は怯まずにエルフ姉妹に向かって走る。

冷気を纏わせた頭を地面すれすれに向けての突進。

雷竜の速度補正がないとはいえ、速い。

しかし、直線的な動きであれば彼女なら反応できる。

「はっ!」

後衛をかばうために、セレネは突進の軌道上に割り込み、防御力向上魔法である【プロテクト】を自らにかける。

そして、大地にスパイクを打ち込みながら受け止めた。

炎帝竜を取り込めなかったとしても神竜は攻撃力が高く、あの突進は威力倍率が高い。本来、【城壁】なしで止められない一撃だった。だが、とある事情から受け止められた。

しかし、突進だけでは終わらない。

その低い姿勢のまま、セレネを睨みつけ、神竜は顔を前に向けながら口を開く。

ゼロ距離でのブレス攻撃。

氷嵐のエネルギーが溜まる。

「【フレアベール】!」

直撃前に、フィルの属性防御魔法がセレネを覆い、ブレスと盾が激突。

いかに攻撃力があろうと、単一属性ならドルイドの魔法で減衰させられる。

それだけでなく、セレネのアクセサリーと篭手は奴が変態中にガチガチの氷属性ダメージ減少で固めた。

これがさきほど突進を止められた理由。氷を纏う突進は氷50:物理50の攻撃で、氷無効なら威力は激減する。

神竜本体とブレスの属性は神竜形態になる際に取り込んだ首によって変化する。

二首以上あれば複合属性、例えば炎と氷というようになり、三首あれば神属性といういかなる属性でも防御できないし、ありとあらゆる属性の攻撃に耐性をもってしまう。

当たり前だが、複合属性は軽減が非常に難しいし弱点属性でのダメージも稼ぎにくい、神属性なんて完全にお手上げだ。

だが、今のやつはただの氷属性。

単一属性なんてものは、どれだけ強かろうと装備と魔法でメタれる。

炎帝竜を思い出してほしい、あれだけの強さを持ちながら、他の竜とは違い、炎以外の攻撃を持たないせいで、対炎装備で固めた二流冒険者のカモにされた。

そして、神竜フェルグラントは、氷盾竜や轟雷竜のような、己の属性が効かない相手を打ち倒す切り札を一つしかもっていない。

なにせ、本来は複合属性や神属性の持ち主であり、そんなスキルは必要ないのだから。

「【神剛力】」

「【アサシンエッジ】!」

必殺のブレスを放っている神竜の側面から俺たちは回り込んで攻撃を叩き込む。

ルーナが狙ったのは、地面すれすれに頭を下げたからこそ狙える眼。

さきほどのように首全部が急所なんてボーナスはないが、一部の例外を除いて眼は共通の急所であり、神竜も例外ではない。

クリティカル音が響き、弱点属性をついたことで【災禍の業炎刀】の追加効果が発生し、炎が吹き荒れる。

「GYUUUUUUUUUUUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNNNNNN!」

眼から血を撒き散らしながら、神竜がのけぞる。

「【バッシュ】!」

「【シールドバッシュ】!」

その隙に俺とセレネの追撃が叩き込まれ、後衛組も矢を撃つ手を緩めない。

そのすべてが炎をまとっている。

これもまた、単一属性の弱点、徹底的に弱点属性をぶつけられる。

怒り任せに、神竜が尻尾で薙ぎ払ってきて、俺たちは散りながら躱した。

……いいペースだ。

この調子なら、リソースが尽きるまえに削りきれる。

残る関門は一つ。

やつに残された最後の切り札。

それを凌げば俺たちの勝利だ。