軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二話:おっさんは見えない罠を解説する

探索とボス戦で疲れ果てた身体を癒すため、守護者がいた部屋で野営を始める。

このダンジョンは、数日かけてクリアするとても長いダンジョンなのだが、安全に休める場所は数少ない。

どこで身体を休めるかも重要なポイントだ。

お子様二人組がせっせとテントを設置し、フィルとセレネが料理を作っている。

そんな中、俺は回復アイテムの残数をチェック。

長期戦になると、回復アイテムや食料の管理が非常に重要になる。

「初日はほとんど使わずに済んだな」

守護者との戦いでは、ミスらしいミスがほとんどなく、ダメージを負う場面が少なかった。

みんな成長しているからだろう。

並の冒険者であれば、立体大迷路を抜けるのに消耗してしまい、ボス戦では集中力が切れてミスを連発する。

だが、ルーナたちは集中力を切らさなかった。これほどメンタルが強いパーティはそういない。

もはや、ただステータスが高いだけの素人はいなくなった。ここにいるのは超一流のパーティだ。

「みんな、ご飯ができましたよ」

フィルの声が響いた。

「お腹空いた!」

「甘い匂いがするね」

「きゅいっ!」

お子様二人組とエルリクが駆け出していく。

俺も飯にしよう。

いったい、フィルはどんなメニューを作ったのだろう。

フィルが作ったのは具材がたっぷり入ったスープだ。

赤いスープで、甘い匂いとスパイシーな匂いが混ざり合う不思議な匂いだ。

具材はストックしてあった豚肉(並)と根菜類。

「初めてみる料理だな」

「ギルド嬢をやっていたときに、友達に教わったんです。果物をすり潰して、お肉でとった出汁を加えて、スパイスで味を整える。これを食べると一発で元気になりますよ」

フルーツを料理に使うのは新鮮だ。早速いただこう。

「……ほう、美味しいな」

甘辛い、エスニックな風味。

味としてはトムヤンクンに近い、スパイスの使い方がうまいのか一見ゲテモノなのにうまく調和している。

果物はリンゴとバナナを使っているようだ。

厚めにスライスされた脂身付きの豚肉がたっぷり入っているが、フルーツのおかげでしつこさを感じない。

「美味しい。お肉たっぷりでうれしい」

「私も好きだよ。果物たくさんだもん」

「……さすがはフィルさんね。ちょっとでも分量を間違うとすごい味になりそうなのに、とっても美味しい」

「きゅいっ、きゅいっ!」

食べるほどに、身体の疲れも心の疲れも抜けていくのを感じる。

このスパイスはうまいだけでなく薬膳的な効果がある。

さらにリンゴやバナナの糖分やビタミン、ミネラルは心の疲れを取るのに最適だし、豚肉も筋疲労を回復させる。

身体の芯から温めてくれるスープというのもいい。

何より、うまい。

これは最高の疲労回復料理だ。

「二杯目は、麺を入れますよ。ジャガイモを使った麺で、すっごくしこしこで美味しいんですよ」

それを聞いたお子様二人組がすごい勢いで、残りをかきこむ。

「「おかわり!!」」

そして椀を突き出した。

そういえば、ふたりとも麺料理が好きだったな。

俺も急いで食べよう。

あんまりゆっくりしていると俺の分も食べられてしまいそうだ。

食事が終わったあと、シャワーを浴びた。

シャワーは俺の鍛冶スキルで作った原始的なものであり、女性陣に好評だ。長期戦では、疲労の蓄積が何より怖い。こういうものも有用だ。

それが終わると、明日の予定と、ギミック・魔物の復習をする。

次のギミックは今回と毛色が違って、持久力ではなく瞬発力が求められる。なにより、知っていたとしても対処が難しいたぐいのものだ。念入りに行う。

それが終わったあとは、フィルの作ってくれたデザートとお茶を飲む。

「本当に【携帯調理セット】があって助かりました。これがないと、こんなにたっぷりと水が使えないです。シャワーどころかお湯で身体を清めることすらできないなんてざらですからね」

お茶を飲んでまったりしながら、フィルが呟く。

「そうだな……【携帯調理セット】のおかげで凶悪な罠を回避できている」

これがあるのとないのでは大違いだ。

「ユーヤ兄さん、罠って何かな?」

「このダンジョンは意図的に、水と食料が一切手に入らないようになっているんだよ。水が流れるエリアは一つもないし、魔物も肉をドロップしない。だから、もちこんだ水と食料だけがすべてだ」

「あのさ、もし手持ちの食料とか水がなくなったらどうなるの?」

「干からびて死ぬか餓死か、そのまえにふらふらな状態で魔物に襲われて死ぬ。少ない水と食料を奪い合って、仲間同士で殺し合いってのもあるな」

「なにそれ怖い」

たいていのダンジョンでは自給自足ができる。

水場の一つや二つはあるし、魔物を倒せば食料が手に入る。しかし、ここは一切そういうのがない。

「だから、普通ならかなりの量の水を持ち運ばないといけなかった。ざっと百リットル。つまりは水だけで収納袋の容量が百キロ分もっていかれるってことだ。食料も入れると百四十キロにもなる」

人は一人二リットルの水を消費する。激しい運動をするなら三リットル。

そして、俺達は五人なので一日十五リットル。

このダンジョンは、トラブルがなければ五日踏破にかかる。余裕を見るなら七日分は最低もっておきたい。そうなると百五リットルとなる。

もし身体を拭きたい、下着を洗いたいなどと言い始めると、さらに増える。

「……うわぁ、特大の収納袋でも半分以上もってかれるじゃん」

非常に希少で高価な収納袋、その中でも最上級のものですら二百キロが容量の限界なのだから、馬鹿にならない。

俺たちみたいに、俺とフィルが特大のを、容量が少ないのを残りメンバーがもっているなんてパーティはほとんどない。

「【携帯調理セット】がないパーティは、水と食料を運ぶだけでせいいっぱいだし、そもそも水や食料が手に入らないことを知らずに入って奥のほうで力尽きる羽目になる」

「あっ、そっか。知らないとそんなたくさんの水や食料用意してこないもんね」

「他にもとびっきりの罠があってな。さっき、ドロップしたオリハルコンγなんだが、持ってみろ」

「うん、って、おもっ!」

「オリハルコンγは超重量金属でな五十キロある。こいつが特大の罠なんだよ」

ティルが首をかしげてる。

その後ろでセレネがぽんっと手を叩いた。

「運良く、水と食料をたっぷり持っていたパーティも、オリハルコンγを入れる容量の確保に食料や水を捨ててしまうということね。……この先で水や食料が手に入ると思って、あるいは踏破に時間がかからないって油断して」

「そうだ。オリハルコンγという超希少金属。これを諦められる冒険者はいない。よりにもよって初日に超重量で超希少な金属を配置するのは確実に狙ってやっている。……世界最高の金属だからな、食料や水を減らすのはまずいと思っても捨て置けない。たいていは欲が勝って、たぶん大丈夫だろう。そう考えてしまう」

「相変わらずえげつないですね」

……こういう方面のトラップはさすがのベテラン冒険者たちも読めなかった。

俺もかつて引っかかった口だ。この守護者エリアまでが長すぎて、どうせ後少しでダンジョンが終わるだろうなんて考えてしまい、水と食料を捨ててオリハルコンγを収納。そして、四日後に水と食料をろくにとれず意識が朦朧とした中で戦い、命を落とした。

「その点、俺達は【携帯調理セット】から水を出し放題だし、収納袋も大型のが揃ってる。それに、こういうのを知っていたから、わざわざ出発前にギルドの倉庫を借りて、このダンジョンでは使わないもの全部入れてきたんだ」

「ああ、あれってこういうことだったんだね」

「オリハルコンγの他にも、このダンジョンの魔物ドロップや宝箱は希少なものばかりだからな。……ついでに重い。ある意味、このダンジョンは収納袋の容量との戦いでもある」

いつもは、いつか使うだろうというものは収納袋に入れっぱなしだ。

しかし、このダンジョンは本当にいいものがたくさん手に入る。だから、それを入れるために少しでも容量を空けないといけない。

それを怠ると、このダンジョンの性質を知っているパーティですら、予備の食料や水を捨てて、貴重なアイテムを持ち帰ろうとし、あっさりトラブって、あのとき捨てた食料があればと……己を呪いながら餓死する。

「こういう攻め方もあるわけね。……事前情報ってすごく大事と改めて思い知らされたわ。いつも思うけど、ユーヤおじ様と上級ダンジョンに潜るたび、何があっても初見の上級ダンジョンに潜る気をなくしてしまうわね」

「ですよね。初見殺しが多すぎます。クリアさせる気なんてないですよね」

セレネとフィルが真剣な顔で頷きながら、クッキーを咀嚼する。

「そう言えばルーナが静かだな。いつもはもっと質問してくるのに」

そちらに目を向けると、通常モードになったエルリクにもたれかかるようにして眠っていた。デザートはしっかり食べきっている辺りがルーナらしい。

「ああ、ルーナ、ミーティング中に寝ちゃだめだよ!」

「いや、明日のギミックや魔物の話までは聞いてたし、もう寝かしてやろう。明日はルーナに大活躍して貰う予定だしな。少しでも回復してもらわないと」

「あの、最速を求めるギミックだね!」

「ああ」

明日、待ち受けているギミックにそれがある。

速さに特化させたステータスを持ち、付与魔法、装備、身のこなし、すべてが最高水準で初めて突破できる魔のギミック。

これは非常に厳しい、なにせ数字上の速さを満たしても、その速さを出し切る技術がないと不可能であり、ゲーム時代ですら難所と言われていた。

だけど、俺は心配していない。

この安らかな寝顔を見せてくれるルーナにはその力があると、心の底から信じているからだ。