軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プロローグ:おっさんは結婚式の準備をする

宝箱の中身と【雷竜の輝石】をもって、俺たちは青い渦に飛び込んで帰還する。

眼を開くと、そこは世界樹の近く。

すぐにエルフたちが駆け寄ってきた。

しかも、男ばかり。

……まさか、ずっとここで俺たちを待っていたのか。

どれだけ暇なんだ。

そういえば、基本的にエルフたちは有事のとき以外は働かず、ニートのようだとティルが言っていたな。

長老がこれ見よがしに咳払いをし、にやりと笑いながら口を開く。

「こんなに早く戻ってくるとはな。どうやら、諦めて逃げかえってきたと見える。約束だ。フィルとティルを諦めてもらおう。二人には、我々が選んだ婚約者と結婚してもらう。エルフはエルフ同士で結ばれる、それが一番自然で、誰にとっても幸せなことだ」

長老がそう言うと、エルフの面々が頷いたり、同調して騒がしくなる。

なぜ、失敗したと決めつけるのかと疑問に思ったが、その答えは先ほどのセリフにあった。

こんなに早く戻ってくるとは。

俺たちの踏破スピードがエルフたちにとって規格外だったのだろう。

それが分かっているなら、こんな早くから見張ることはないだろうに。

……いや、エルフたちが武装している。

失敗した際に、俺たちが逃げ出すことを恐れての見張りか。

いろいろと信用がないようだ。

「早とちりしないでくれ。俺たちは、【雷竜の輝石】を手にして、雷竜を倒した。そちらにならって言わせてもらおう。約束だ、フィルと結婚し、ティルを連れ去ることを認めてもらう」

俺の一言で動揺が走る。

一人のエルフが、顔を真っ赤にして前に出てきた。

フィルの婚約者であり、もっとも俺たちの結婚に反対していたエルフ。

「嘘だ、そんなこと信じられるか! こんなに早く戻って来られるわけがないし、雷竜を倒せるわけがない。今まで何人もの勇者が挑んだが、誰一人帰ってこれなかったんだぞ!」

そう言いたくなる気持ちはわからなくはない。

【世界樹の守り人】たちは全員、レベルが50とはいえ、初見殺しのデパートというべき雷竜には勝てない。

事前情報なしに勝てる相手じゃないし、生きて帰ってこなければ情報が持ち帰られることもない。

これが上位ボスの難しさだ。

中位ボス以下であれば、レベルを上限まで上げ、装備を整えれば初見殺しを喰らっても死ぬことはない。

だからこそ、中位ボスはほぼすべて、倒され、情報が持ち帰り広められている。

しかし、上位ボスの中でも極めて強いものはいくらレベルを上げても、いくら装備を整えても即死させられてしまう。

雷竜のようなボスは、この世界ではほぼ討伐不可能だ。

「そう言われても、倒したものは倒した」

「なら、証拠を見せろ!」

そう言うのなら、望みに応えよう。

「ルーナ出してやれ」

「んっ、わかった」

ルーナがごそごそと収納袋を漁る。

そして、二つの宝玉を取り出した。

「こっちが【雷竜の輝石】で、こっちが【翠竜の宝玉】!」

ルーナがどや顔で、右手に【雷竜の輝石】、左手に【翠竜の宝玉】を掲げる。

エルフたちが息を呑む。

これ以上ないほどの証拠だ。

【翠竜の宝玉】を見て、それが何かわからないかもと懸念していたが、どうやら伝わったらしい。

「そういうわけだ。俺たちはやり遂げた」

俺が宣言すると、両手に柔らかい感触があった。

フィルとティルが、意図的に、見せつけるように俺に抱き着いている。

「約束は守ってもらいますよ。ふふ、ユーヤとの結婚式が楽しみです」

「もう、私たちはユーヤのものだからね。あんな婚約なんて、無視だもん、無視。べーっだ」

ティルに至っては、舌を出している。

よっぽど、あの婚約者が嫌だったらしい。

そんな顔すら可愛いのは美少女の特権だろう。

「それでは、行きましょう。これから結婚式の準備がありますし」

「ねえ、ユーヤ兄さん。やっぱり、お姉ちゃんとダブル結婚式にしようよ!」

「ティル、それはダメですよ。十六歳になるまでは手を出せない宗教にユーヤが入っているんですから」

待て、それではティルが十六になったら、嫁に迎えるみたいじゃないか。

否定したいが、この場でそれを言えないのが辛い。

「うっ。ユーヤ兄さん、そんな宗教はやめちゃおうよ」

「ん。ルーナも賛成、それでトリプル結婚式にする」

「あっ、ルーナ、便乗する気だね!」

「ルーナはユーヤの。それが自然」

「……ルーナのそういうところはうらやましいわ。私も、混ぜてもらおうかしら?」

とりあえず、ここでは何を言っても無駄だ。

あとでゆっくりと話をしようと決める。

すべてを諦めた俺は、硬直したエルフたちの間を通り抜けて、進んでいく。

……それにしても、ルーナとセレネはどういうつもりだ。

フィルに加えて、ティルというだけでかなり問題があるのに、ここにルーナとセレネが加わったら、俺が節操なしのハーレム野郎のようではないか。

俺は断じて、フィル以外には手を出していないというのに、この誤解を解くのは骨が折れそうだ。

あの後は、俺たちが貸し与えられている部屋に逃げ込んだ。

ほとぼりが冷めるのも待たずにフィルは買い物に出かけている。

なんでも盛大にお祝いがしたいらしい。

手持ちの素材と合わせて、すごいご馳走を作ると息巻いている。

「ユーヤ、フィルが作る本気のご馳走、楽しみ」

ルーナが涎を垂らしながら、キツネ尻尾をぶんぶんと振っていた。

すごい期待だ。

「ふふん、期待していいよ。お姉ちゃんが本気になるとすごいんだから。旅での料理も美味しいけど、どうしても手早くって制約があるんだ。しっかり時間をかけて仕込みができるときのお姉ちゃんの料理は一味違うよ」

「相変わらず、ティルは自分のことのようにフィルのことを自慢するから」

「自慢の姉だからね」

その言い方が面白くて笑ってしまう。

フィルを待っている間手持ち無沙汰になったので、鎧の整備をする。

十年以上愛用している、竜の皮を使った鎧だ。

名工によって作られており、軽く、動きやすく、防御力が高く、炎にも氷にも強い自慢の鎧。

ただ、さすがに十年以上の歳月と、ここ最近の激戦でかなり傷んでしまった。

だましだまし使っていたが、そろそろ限界か。使えなくもないが、いくら手入れしても性能低下を隠せなくなっているし、そのうち壊れてしまうだろう。

少なくとも、上位ボス相手にこれを着ていく勇気はない。それはただの自殺行為だ。

新しい鎧を作らないといけない。

……ちょうどいいタイミングと言える。

三竜の宝玉を捧げる祭壇。

あそこに行けば、皮鎧に最適な素材が手に入る。

手持ちでも、かなり質がいい金属鎧は作れる。しかし、皮がいい。軽量な金属もあるが、それでも動きやすさで皮にはかなわない。

剣技と体捌きを武器にする俺にとって、動きを制限される金属鎧は絶望的に合わない。

「それまでもってくれよ、相棒」

今まで、俺の命を幾度となく救ってくれた相棒を撫ぜる。こいつがいなければとっくに死んでいただろう。

きらりと光った。ただ、油を塗った表面に光が映り込み反射しただけなのだが、こいつが返事をしたように思えた。

「あっ、フィルが帰ってきた」

ルーナが尻尾を振りながら、フィルの元へ走っていく。

キツネなのに、まるで犬のようだ。

「うわっ、お姉ちゃん、ものすごく買い込んだね」

「はい、ご馳走を作るつもりでしたし、面白いものが手に入ったので奮発しちゃいました」

「あっ、フィロート」

ティルはわかったようだが、他のメンツは首を傾げる。

それは、極薄の白いせんべいのように見えた。

「今日は、これで手巻きフィロートパーティですよ」

「やった! 大好物だよ」

「フィル、ティル、それはうまいのか?」

「とっても美味しいですよ。楽しみにしていてください」

エルフ料理なのだろう。

食べるのが楽しみだ。

「それから、会場の予約をしてきました。十日後に式をします」

「早いな」

「根回しはしてましたからね。雷竜を倒したらすぐに結婚できるように仕込んでいたんです」

苦笑してしまう。

フィルは相変わらず抜け目がない。

「そっか、俺もいよいよ結婚か。楽しみだ。エルフの風習は知らない。結婚式までに何をすればいいか、いろいろ教えてくれ」

「はいっ! ユーヤにもたくさん手伝ってもらいますから」

それは大変だ。

だが、その大変な日々が楽しみで仕方ない。

そんな幸せな空気の中、不穏な気配を感じて立ち上がり、警戒しながら窓を開く。

誰もいない。

いや、わずかに気配の残滓がある。

……あれは間違いなく敵意だった。

誰だ?

エルフの男だと考えるのが自然ではあるが、なんというか彼らではない気がする。

エルフたちの敵意は真っ直ぐだったが、今のはどこかねっとりとしたものだ。

「ユーヤどうかしたんですか?」

「なんでもない。早く、飯を仕上げてくれ。ルーナが涎で溺れそうだ」

「お腹空いた」

食事を楽しみにしすぎて、ぐうぐうお腹を鳴らしていた。

「じゃあ、一気に仕上げちゃいます。待たせた分、とっても美味しいのを作りますからね」

フィルが厨房に移動し、包丁を手に料理を始める。

いつも思うが、フィルの料理姿はいい、こうぐっとくるものがある。

こうして、みんなが見ているのに後ろから抱きしめたくなるほどに。

そんなフィルと結ばれることを想像すると、幸せな気持ちになる。

早く、結婚式の日になればいい。

俺は心底、そう願っていた。