軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七話:おっさんは天使のエビを手に入れる

水竜を倒した。

ルーナとティルがいつものように謎ダンスを踊り、エルリクがその周囲で戯れている。

水竜の死体が青い粒子になって消えていき、代わりにドロップアイテムが残される。

ドロップされたアイテムは二つ。

一つは、水竜の 霊肝(れいかん) 。

水竜の正式名称は、水竜エインガナという。

エインガナというのは、水神の名であり、その名を冠するこいつの肝には強力な霊力が宿っている。

その霊肝を使うことで、通常の薬や治療では癒せない病、あるいは呪いを癒すことができる薬を作れる。

そして、これが今回のクエストで必要な素材だ。

非常に倒しづらい水竜のユニーク素材であり、奇跡の霊薬の原料というだけあって非常に高額。それが貴族様の息子の命がかかっていることでさらに値上がりしているのだから、とんでもない報酬額になっている。

もう一つのアイテムは水竜の涙。

青く透き通る魔石。武器の材料に使えば攻撃力が大きくあがり強力な水の魔力を宿す。今後、炎属性のボスと相対することがあれば、これを使って武器を作ろうと思う。

「ルーナ、ティル、水竜を倒して浮かれるのはいいが、大事なことを忘れてないか? まだ、ここに来た目的は果たしていないぞ」

謎ダンスがぴたりと止む。

そして、ルーナとティルが目を見開いた。

「ユニーク食材の海老!」

「あの最高だった、エビ肉(上)より美味しい奴!」

「きゅいっ!」

ルーナとティルが水竜と戦闘時にはけっして近づかなかった地底湖に走っていく。

「俺たちも行こう」

「ええ、ここに来る機会なんてそうそうないわ。根こそぎ狩らないと」

「そうですね。あの子たちは本当によく食べますから」

そうして、俺たちはルーナとティルを追いかける。

ルビー・シュリンプの突然変異種、エンゼル・シュリンプは強い。

考えてみれば当然だ。なにせ、水竜から流れ出た力を得ることで進化したのだから。

軽い気持ちで挑めば、足をすくわれる。そのことにルーナとティルは気付いているだろうか?

地底湖に近づくと、浅瀬にルーナほどの大きな巨大エビの群れがいた。

縄張り意識が強い水竜がこいつらを襲わないのは、水竜がこいつらを養殖しているからだ。

つまるところ、水竜が手間暇かけて養殖して食べるぐらいにこいつらはうまい。天使の海老は伊達じゃない。

「水竜には悪いな、素材をもらっただけじゃなく、せっかく育てた天使の海老までいただくんだから」

この世は無情だ。

食欲に突き動かされたティルがさっそく、魔術の詠唱を始めた。上級雷撃魔法【神雷】。

上空から、雷が幾重にも降り注ぐ。

ルビー・シュリンプの進化系だけあってルビー・シュリンプと同じく宝石の甲殻を纏っている。白いルビーの輝きは美しく、神秘的ですらあった。

ルビー・シュリンプとの戦いで得た教訓から、初めから水の魔物の多くに共通する弱点である雷魔法を使ったのだろう。

「うそ、ぜんぜん雷が効いてない!? って、うわ、一気に群れできたぁぁぁぁぁぁぁ」

進化によって獲得した、白いルビーの甲殻は全属性の攻撃を75%カットする。

【神雷】はエンゼル・シュリンプを怯ませることすらできず、範囲の広い攻撃ゆえに複数の敵のヘイトを一気に稼いでしまう。

その結果、ティルめがけて六体ものエンゼル・シュリンプが跳びかかってくる。

比喩じゃない、ほんとうに十メートル以上の距離を跳躍するのだ。

ルーナの頭上を飛び越え、巨大で分厚い鋏をハンマーのように振りあげながら落ちてくる。

エビのくせに、前に跳ぶとは生意気だ。

ティルがバックステップをしつつ、矢を射る。しかし、その矢はホワイトルビーの甲殻が弾く。

全属性耐性を得たからと言って、代償に防御力を失うことはなく、むしろ強化されている。

エンゼル・シュリンプたちの鋏がさきほどまでティルがいた場所に叩きつけられ、地面が穿たれた。

「ちょっ、ユーヤ兄さん、なんなのこいつら!? 固いし、魔法効かないし、速いし、力は強いし!? めちゃくちゃやばいじゃん!」

「水竜の魔力をたらふく喰らって進化したんだ。弱いわけがないだろ。……こいつらを倒す方法は主に二つだ」

俺は苦笑しながら前に出る。

「セレネ、前に出て渾身のスパイクをお見舞いしろ」

「ええ、任せて」

セレネはティルを庇う位置に移動し、再びティルに向かって跳びかかってきたエンゼル・シュリンプたちを盾で受け、バックラーの丸みを活かして流す。

そして、着地して硬直したエンゼル・シュリンプに向けて、全身の力を集約した突きを放ちつつスパイクを射出する。

それに合わせて、俺は攻撃力倍化魔法【パワーゲイン】カスタム……【神剛力】の詠唱を始めた。

「【シールドバッシュ】!」

「【神剛力】」

音速を超える速度に到達したスパイクが魔力を纏い十倍の威力を獲得する。

それは、白い甲殻を貫き、中の柔らかい身を蹂躙した。

自慢の鎧が貫かれるところを見て、残り四体のエンゼル・シュリンプが警戒して距離を取る。

「これが一つ目だ。白い甲殻をぶち抜く問答無用の破壊力を叩きこめばいい」

【神剛力】でなくても、ある程度の付与魔術で威力をあげれば貫ける。

「なら、私にも【神剛力】を頂戴! それがあったら私の矢で貫けるよね!」

「残念ながら、こいつは一度使うと三十秒のリキャストがある」

【神剛力】の唯一の欠点だ。だからこそ多用できない。

ボス戦では確実に急所を貫き、大ダメージを与えられるとき以外は温存している。

そうこう言っているうちに、怯んでいたエンゼル・シュリンプが戦意を取り戻した。

狙いは俺らしい。知能が高く、直接一匹を葬ったセレネではなく補助魔法を使った俺を最大の脅威と取ったようだ。

得意にしている跳躍からの鋏攻撃。

だが、俺を狙ったのは悪手だ。

地を這うように低く疾走し、宙を舞う奴らの下に潜り込む。

そして極限まで圧縮された超高熱の炎を纏う左手を振り上げた。

「【爆熱神掌】」

ずぶりと柔らかい感触と共に、エンゼル・シュリンプの腹を抉り、内側から焼き尽くす。

たしかにこいつらのホワイトルビーは物理も魔法も通じない。 だが、堅いのはホワイトルビーの甲殻だけで、中身は柔らかく甲殻とは逆に全属性が弱点だ。

なら、鎧に覆われていないところを貫けばいい。

腹下にある、泥や食べかすを水と共に排出するための穴を狙う。ここを狙えばこいつらは脆い。

「ん、わかった。【アサシンエッジ】! ……これなら、楽に倒せる」

さっそくルーナが跳びかかってきたエンゼル・シュリンプをカウンターで仕留めた。

上方向への突きは難しいというのに、確実にクリティカルを叩き出す。この子のセンスは本物だ。

「ううう、でも、弓で狙うには跳躍が低すぎるよぅ」

「そこは工夫次第ですね」

いつもは後衛のフィルが前に出てくる。

珍しい光景に、全員が注目する。

エンゼルシュリンプは跳躍した仲間が次々に返り討ちとなったことで跳躍をせず、じりじりと距離を詰めてくる。

しかし、フィルは無造作に近づいて、鋏の一撃を躱して体ごと一回転する豪快な足払いを放ち、奴がほんのわずかに浮いたところで、追い打ちのサマーソルトで上空に獲物を弾き飛ばす。

真上に弓を構え、【魔力付与:風(雷)】で雷を纏う矢を急所に向かって三連射。弱点を貫かれ、為すすべもなくエンゼル・シュリンプが沈む。

「ティル、あなたもやってみなさい」

「できないよ!? 完全に前衛の動きじゃん!」

「後衛と言えども、距離を詰められたときのためにこういう技術は必要です」

完全に正論だが、いきなりフィル基準を求めるのは酷だ。

なにせ、フィルは前衛でも鉄板と隠しナイフを仕込んだブーツを駆使した足技と弓を組み合わせた近接格闘技を振るうことで戦える。

弓使いが苦手とする至近距離では、一流の前に超がつくような相手には後れを取るが、一流程度の武闘家なら圧倒する技量を持つ。

「ティル、私以上の冒険者になるといいましたよね。なら、これぐらいできるようにならないとダメですよ。少し心配です。レベルばっかり上がって、技量が追いついてません」

「ううう、わかったよ。頑張って覚えるよ」

「よろしい、なら夜の訓練の項目を増やしましょう」

フィルは厳しいことを言っているが、ティルも成長している。

姉の教えを受けて訓練し、実戦で姉の技を近くで見続けている。きっと、あと二、三年もすれば今のフィルには追いつくだろう。……まあ、そのときにはフィルもさらに成長しているだろうが。

そんな二人に言葉に耳を傾けながら、最後の一匹を屠る。

「さあ、このあたりにいたのは倒したな。ドロップアイテムを拾ったら次だ」

「ん。もう【気配感知】で見つけてる。獲物がたくさん」

エンゼル・シュリンプが落とす、ユニーク食材、天使の海老肉はドロップ率が低い。実際、この五匹がドロップした中にはなかった。

それに、その他にも欲しい素材がある。

根こそぎ狩りつくさなければ。

帰還用の渦を通り、街へと戻ってきた。

「大漁! 大漁! 天使の海老!」

「ふふっ、これだけあったら海老パーティだってできるよ」

あの場にいたエンゼル・シュリンプは合計十四匹だった。

エビ肉(並)が七つ、エビ肉(上)が二つ、そして天使のエビ肉が一つ手に入った。

最大レベルまで上げた【ドロップ率上昇】があって、十四匹で一つだけしか手に入れられない。それぐらいのレア食材。

そちらも嬉しいが、俺も目当ての品物を手に入れられて上機嫌だ。

「ユーヤ、ホワイトルビーって実在したんですね。伝説だと思っていました」

「まあ、水竜の巣にしかいないエンゼル・シュリンプのみがドロップする宝石だ。なかなかでまわらんよ。その分、性能もいい。全属性に対する守りを持つ貴重な宝石だ。さっそく装飾品にしよう」

ホワイトルビー。

自然界には存在しない白いルビー、その宝石はエンゼル・シュリンプと同じ性質を持つ。

防具にすれば高い防御力と全属性に対するダメージ軽減効果がある。……だが、あまりの重量に避けられている。

ホワイトルビーが活躍するのは装飾品としてだ。

ホワイトルビーは全属性のダメージ軽減であって無効ではない、装飾品の中には各属性の無効装備は存在している。それでもホワイトルビーが優先される。

相手の使う属性が初めからわかっていることも、そのダンジョンに出現する魔物が単一属性の攻撃使用しないということも稀であり、単一属性無効は腐ることが多い。

全属性ダメージ軽減というのは恐ろしく汎用性が高く、思考停止でとりあえず装備していれば役立つし、複数の属性を使い分けるボスとの戦いでも有用だ。

とくに、次に相手をする最後の三竜には有用と言える。

あいつは風(雷)を得意とするが、他の二属性も使用する。

そんな貴重なホワイトルビーが二つも手に入ったのは僥倖と言えるだろう。

ホワイトルビー装備の使い勝手の良さを考えると、このままこの街にとどまって全員分揃うまで狩りを続けたいところだが、そうも言っていられない。

この街に留まれるのは三日と決まっているし、次の再配置まで一週間もあるのだから。

「ユーヤ、今日はエビ祭り! 早く受付に行ってクエスト報告をしにいこ」

「急いでユーヤ兄さん、もう私たちはお腹ぺこぺこだよ」

「きゅいっ!」

右手をルーナに、左手をティルに引かれる。

まったく、忙しい子たちだ。

俺は苦笑しつつ、ギルドに向かう足を速めた。

俺自身、天使のエビ肉には興味がある。