軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二話:おっさんは水の上を進む

リバークルに到着して二日目、さっそく俺たちはダンジョンに繰り出した。

ただでさえ、難易度の高いダンジョン。そこで危険なクエストを受ける。

おそらく、今日は中継地点で野営をし、クエストを達成するためのエリアにたどり着くのは明日。

本当に危険なのは明日からだ。

今日は水のダンジョンに慣れることを第一に考えよう。

「ユーヤ、聞いてたとおり水ばっかり!」

あたり一面が巨大な運河。

遥か彼方に、いくつか浮島が見えるだけ。

そして、ダンジョンの入り口は桟橋があり、六人乗りのカヌーが並んでいた。

「ああ、運河を渡るダンジョン、【涙の運河】。水がテーマのダンジョンだ」

「あまり、水辺のダンジョンは好きじゃないですね」

「俺もだな。船を丸呑みするような魔物がうようよするダンジョンもある。幸い、ここにはそこまでやばい奴はいないが、あれは生きた心地がしない」

こんなちっぽけな船だと、あっさり沈む。

そんなところに大型の魔物が来るのは悪夢でしかない。

それで一度死にかけたことがある。

「ユーヤ兄さん、不思議だね。いろんな冒険者が船を使うんでしょ? なのに、どうしてあんなに残ってるのかな」

「常に五台まで桟橋に復活する。一度、あれを持ち帰って売れば、いい商売になると思って試したことがある。不思議な力で魔法袋には入れられないし、なぜか船を川から出すとあほみたいに重くなる」

「そうなんだ。ちっ、お小遣いになると思ったのに」

ゲーム的に考えると、楽な金策を防ぐための仕組みだろう。

「船に乗るのは初めてなの。少し楽しみね」

セレネが、この場には似つかわしくない明るい声を出す。

内陸部の国のお姫様に船は無縁だったのだろう。

「さっそくあの船に乗って、浮島を目指すぞ。近場の浮島は旨味が少ない。半日ほど進んだ先にある浮島が目的地だ」

近くの浮島はとっくにほかの冒険者に狩りつくされている。

奥の島を目指すのがいい。

そして、無数にある浮島の中にひと際危険な島があり、そこが目的地。そこに行かなければクエストは達成できないのだ。

六人乗りのカヌーに乗り、オールを使って運河を登っていく。

流れは緩やかで、スムーズにカヌーは進む。

「ユーヤ、ユーヤ、それ、ルーナにやらせて」

「あっ、私もやりたい。片っぽは任せて」

右のオールをルーナに、左のオールをティルに奪われた。

二人がそれぞれで水をかくがバランスがくずれ、くるくる回るだけで真っ直ぐ進まない。

「二人とも、同じ力とタイミングで漕がないと前にすすまないぞ。掛け声でもしたらどうだ」

「ん。そうする」

「じゃあ、ルーナ、1,2、1,2でいこ」

「ばっちこーい」

掛け声を揃えると、うまく進み始めた。

エルリクが二人の掛け声に合わせて、きゅいっ、きゅいっと鳴き声をあげる。

「水が澄んでいて綺麗ね。魚が泳いでいるのがわかるわ」

「天候が晴れで良かったな。このダンジョンは雨が降ると泥が流れこんで、水が濁るし、流れが急になる。船は前に進まないし、水中の敵が見えないし、雨が船に溜まると沈むし、悲惨だ」

「雨が降る日は探索をしないほうがいいわね」

「そのつもりだった。雨が降っていれば、入り口で引き返していたさ」

このダンジョンではクリタルスのダンジョン以上に、天候には気を遣う。

ただでさえ、不利なんだ。

これ以上不利な要素を増やしたくない。

ときには引くことも冒険者として必要だ。

カヌーを楽しそうに漕いでいたルーナのきつね耳がぴくぴくと動く。

あの動き方は、敵じゃなくお宝だ。【お宝感知】にひっかかかったようだ。

最近はルーナのキツネ耳の動き方で何を見つけたかわかるようになってきた。

「ユーヤ、真下に宝箱が沈んでる」

「……たまにあるんだよ。川の底に配置される宝箱が。ルーナ、魔物は近くにいるか?」

「いない」

「よし、なら潜って中身を回収しよう」

「ルーナがやる! 暑いし泳ぎたい!」

「じゃあ、命綱をつけておくから、魔物が近づいてきたら思いっきり引っ張って知らせてくれ。一気に引き上げる。間違っても、水中で戦おうとするなよ」

「ん。任せて」

ルーナがやる気満々と言った様子で、服を勢いよく脱ぎ捨て下着姿になる。

もう、羞恥心を持てと突っ込みをいれるのは諦めた。

あれだ、あと二、三年もすれば自然に恥じらいを覚えるだろう。

そんなルーナのお腹に命綱で魔法のロープを巻いた。

ルーナが飛び込んだ。

風呂でキツネかきをしているのを見たことがあるが、ルーナは泳ぎも得意だ。

どんどん潜っていく。

透明度が高い運河だが、さすがに数メートルももぐれば水面からは見えない。

懐中時計を見ると、もう二分ほど経っていた。息はもつのか少し心配になってきた。

すると、命綱が強く引かれる。

急いで、綱を引き上げる。

ぐったりとしたルーナが釣れた。

「ごほごほっ、がんばりすぎて、息切れした。死ぬかと思った。……でも、お宝げっと」

濡れたきつね尻尾が、縮んでキツネ耳もぺたんと倒れていた。

全身を震わせ、水気を飛ばして、大事そうに胸に抱えていた宝を差し出してくる。

「お疲れさま。宝は【エリクシル】か、どんな状態異常でも治す、ダンジョンじゃないと手に入らない薬だ。よくやった」

……最近、ダーインスレイヴの状態異常を解除するのに二つも使ってしまった薬だ。

どんな状態異常も治せる【エリクシル】は常に携帯しておきたいアイテムだ。

あたりの部類と言えるだろう。

ルーナの命綱を解いて、タオルでよく拭いてやる。

「ユーヤ、ありがと」

上目遣いになったルーナが撫でてとおねだりしてくるので、撫でてやると、気持ちよさそうに目を細め、頭を胸板に摺り寄せてくる。

命がけで潜ってくれたんだ。今は好きなだけ甘えさせてやろう。

体を拭いたルーナに毛布を被せ、再びカヌーは進む。

さきほどまで、漕ぐのを楽しんでいたルーナとティルが飽きたようなので、漕ぎ手を代わる。

「これ、結構暇だね。船って遅いし」

「油断はだめですよ。水中の魔物は本当に危険なんですから」

「ん。でも、魔物はまだ一匹もみない。暇」

「再配置から日が経っているし、このあたりの魔物は駆逐されているのかもな」

水中の魔物は倒しづらいといはいえ、この街の冒険者はその対処法にも慣れているだろう。

ひたすらカヌーを漕ぐ。

暇だ、暇だと騒ぐティルとルーナに、フィルが釣り竿を渡した。

疑似餌がついていて、餌なしに釣りができる。

こんなものを所持しているのはダンジョン内での食料確保のためだ。意外と役に立つ。

「あっ、ここの魚、ぜんぜんすれてないから、簡単に釣れるよ! 楽しい!」

「ん。また釣れた。大物!」

「それは良かったです。その調子で今日の晩御飯を確保してください」

暇つぶしをしながら、食材確保。無駄がなくていい。

そんなふうにしていると、またルーナのキツネ耳が動いた。

険しい表情で、ルーナが釣り竿を置く。

……このキツネ耳の動きは敵の魔物を見つけたときの動きだ。

「みんな、東から魔物が三匹近づいてる。こっちのカヌーよりずっと早い。人間と魚が一つになった、変な魔物!」

俺の筋力ステータスのおかげで、カヌーのスピードはかなり速い。

それを超えるスピードとなると、それなりに魔物は絞れる。

ましてや、半魚人ともなれば一つしかいない。

「フィル、ティル、東から魔物がくる。水面に近づいたら 射殺(いころ) せ。それから雷撃魔法は使うな。船が壊れる」

水に雷をぶちこめば広範囲に攻撃できる。

そう考えて、安易に魔法を水にぶちこむ冒険者がいるが、その場合はまっさきに船にダメージが行き、悲惨な状況に陥る。

「わかったよ。さっそく、二匹。うわっ、なんかきもっ」

「余計なことを言わずに撃ちなさい」

二人のエルフが弓を射る。

ティルがきもっと言ったのもわかる。なにせ、魚の下半身に、上半身は青い禿げ頭のマッチョ、手には槍だ。

水棲魔物、マーマン。

適正レベル35の魔物。俺たちにとっては、取るに足らない相手だが、船の上で戦う以上油断できない。

水面近くに二匹が並んで、超速で泳いでいる。

二人の矢は水をかきわけて奴らを貫くが威力の減衰があるうえ、妙にタフな魔物なのでなかなか倒せない。

完全に上半身だけ、二体の魔物が水面に顔を出す。

そして、槍投げをしてきた。

水の魔力を纏い、槍が凄まじいスピードで飛んでくる。

それでも……。

「愚策だな」

「そうね。余裕で防げるわ」

ティルに放たれた槍を俺が切り払い、フィルに放たれた槍をセレネが盾で庇った。

そして、上半身を水上に晒した二体のマーマンは頭を矢で貫かれていた。致命傷だ。

弓の名手であるフィルとティル相手に、水中にいるというアドバンテージを捨てればそうなる。

この二匹はバカだ。自分の強みを理解してない。

問題は、後の一匹。

「ルーナ、もう一匹は」

「すごく深く潜って近づいてる。今、真下。どんどん上昇してる」

恐れていた事態だ。

奴は槍で船底を貫くつもりだ。水中深く潜られれば船上からは手が出せない。

「どうしよっ、ユーヤ兄さん。船の真下とか狙えないよ! 近くに島とかぜんぜんないし、船が壊されたら死んじゃう」

「落ち着いてください。ユーヤならなんとかしてくれます」

「任せろ。……と言っても。力技だ。水の中で水棲魔物と戦う。それしかない。みんなはついてくるな。こつがいる」

それだけ言うと、俺は皮鎧と上着を脱ぎ捨て水に飛び込み、魔剣の重みを利用して沈む。

皮鎧は金属鎧に比べれば軽いとはいえ、それでも水の中では沈みすぎるし、致命的に動きが鈍る。つけて潜るのは自殺行為だ。

水の中で、目を開いて集中する。

今まさに、船底に向けて槍を構えて突撃するマーマンが見えた。

「【ウォークライ】」

スキルを使いヘイトを稼ぎ、それでも不十分なので指先を黒い魔剣で斬って血を流す。

水棲魔物の多くは、血の匂いに引き寄せられる性質を持つ。

ヘイトと血の匂いに誘われ、槍の矛先がこちらに変わる。

さて、ここからだ。

水中ではろくに動けない。

回避は難しい。

受け流しもろくにできない。

だから……。

「キシャシャシャシャシャ」

マーマンの槍が突き刺さり、血が流れマーマンが笑う。

だから俺も笑ってやる。

回避も流すこともできない。

だからこそ急所から逸らして受けた。

死にはしない。

そして、捕まえた。この距離であれば外さない。

「【バッシュ】」

剣閃が走る。

水中ではろくに動けない。

だが、スキルだけは地上とまったく同じ速さで、奔る。

それは、スキルの速度、威力は純然たるパラメーターからの計算式で動くからだ。……スキルというのは、すべての物理法則から解放される。どこで放とうが関係ない。

そう、スキルが当たる距離にどう誘導するか、それこそが水中戦の要だ。

マーマンの首が落ち、青い粒子に変わっていく。

ドロップアイテムが出た。【海人の槍】。

……川の魔物なのに、海人とは。まあいい、それなりにいい武器なのでちゃんと回収しよう。

フィルとティルが倒したマーマンのドロップ品はとっくに川の底に沈んでいるし、探すのも面倒だ諦めよう。

こういうところも水中戦のうっとうしさだ。ドロップ品を回収するのも一苦労。

バタ足で水上に戻り顔を出す。

「セレネ、敵を倒したが刺された。【 回復(ヒール) 】をくれ」

「ええ、今すぐに。【 回復(ヒール) 】」

脇腹の傷が癒えてくる。

ふう、さっそく運河の洗礼を受けてしまったか。

もし、三匹とも船狙いでこられたらもっと苦労しただろう。

そんなことを考えながら、船の上に戻る。

ルーナがタオルを渡し、口を開く。

「ユーヤ、ルーナもユーヤも川に飛び込んだ。これからもそうするなら、水着に着替えておいたほうがいい。普通の服、濡れると重い、いちいち服を脱いだり、着たりも面倒」

「それもそうだな。だがな、着替えるにもこの船の上じゃ着替えられないだろう」

男だけなら、ぜんぜん問題ないが、俺以外は女性だ。

「……少し恥ずかしいけど、ユーヤおじさまなら構わないわ」

「ユーヤ兄さんだしね」

「ルーナもいい」

……忘れていた。俺のパーティはなぜか妙に警戒心がない。

俺が男として見られていないんじゃないかと不安になるぐらいに。

現に今もそれぞれが魔法袋から水着を取り出す。

本当にここで着替える気か!?

そんなことを考えていると、視界が黒一色になった。

どうやら、後ろから布で目を塞がれたらしい。

「別に、隠すものがなくてもユーヤの視界が塞がれば問題ありません。みんなが着替えたら外してあげますね」

「そうしてくれ」

そうして、運河での戦闘服に全員が着替える。

防御力は落ちるが、動きやすさのほうが優先だ。

まさか、なんとなく買った水着がこんなふうに役立つとは思わなかった。

水着に着替えてから、なんどか襲撃を受けながら先に進んだ。

途中で、ルーナとセレネの近接組は俺と一緒に水に飛び込み、水の中での戦い方を教えた。

彼女たちは飲み込みが早く、なんとか様になっている。

とはいっても、不利なことは変わりなく、今回はなんどもダメージを受けて、そのたびに【 回復(ヒール) 】している。

そうして、進んでいるうちにひと際大きな浮島が見えた。

「みんな、今日はあそこで野営をする。明日からはもっと危険になる。十分に体を休めてくれ」

「ん。やっと陸地に戻れる」

「もう船の上はこりごりだよぅ」

「普通に陸があることに感謝する日が来るとは思わなかったわ」

「ルーナちゃんとティルが釣った魚、やっと料理できます」

それぞれ、疲れた顔で返事をした。

やっぱり、船の上での戦いの疲労は大きいようだ。

あとでフィルに精が付くものを作ってくれと頼んでみよう。

食事で少しでも体力が戻るといいのだが。