軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十九話:おっさんは氷竜の住処を目指す

【鍛冶スキル】を得てから半月が経った。

レベルは全員44まで上がっている。

規格外の経験値を持つ白銀兎のおかげだ。

途中で再配置が行われたのも大きい。おかげで効率よくレベル上げを続けてこれた。

収集クエストを次々にクリアしたことで金がだいぶ溜まっており、消耗品の類は買えるなかでは最高のものを十分に用意でき、素材を揃えたことでブーツも新調し、雪上での動きが良くなった。

ただ、すべてが順調ではなく、多少は問題も起きていた。

スノーボール・ベアが坂道を転がって襲いかかってきている。

晴れが続いており地面の雪量が少ないので雪玉をうまく作れず、ただの丸まった熊にすぎない。受け止めやすいし、攻撃もできる。

だが……。

「ううう、外れちゃったよぅ」

「ティル、ぼやくのは後にしなさい」

ティルが放つ矢の精度がかなり落ちていた。

それでも一般的な一流のラインはあるのだが、超一流であるティルがこの距離で外すのは以前ならありえなかった。

気温が高めで、【白銀兎の籠手】で手が暖められているので寒さや雪のせいで外したのではない。

なんとかスノーボール・ベアはティルとフィル、二人の矢の集中砲火で倒すことができ、クマ肉(並)を回収しておく。

「ティル、まだ新しい弓にはなれないか?」

「だいぶ慣れてきたんだけどね。でも、ちょっと違和感があるよ」

「氷の竜と戦うまでには慣れてほしいが。こればかりはな」

命中精度が落ちたのは新しい弓のせいだ。

ティルの新しい弓には、アビリティが付いている。【疾風の矢】。

矢が風を纏い推進力を得る上に、向かい風を切り裂くので、射程、直進性、威力、速度が増すと言う強力なアビリティ。

普通の弓使いなら大歓迎のアビリティなのだが、ティルの場合、ほとんど無意識で風の影響を瞬時に計算して放つため、矢の軌道が変わると調子が狂う。

体に染みついた感覚であり、矯正は難しいようだ。

「……この弓でばっちり獲物に当てられるようになったら、他の弓を使えなくなっちゃいそう」

「なら、新しい弓を作るか? 性能は落ちるが、ティルの特技を潰してまで、【世界樹の月光弓】を無理に使うことはない」

「ううん、がんばる。この弓がすごいのはわかってるから! 威力は今までのと段違いだし、使いこなせればもっと遠くだって狙えるもん」

前向きなのはいいことだ。

あとはティルの問題。フィルもサポートしてくれているし、なんとかなるだろう。……時間さえあればだが。

「ルーナは、新しい武器には慣れたか?」

「ばっちり、火力がすごくて気持ちいい」

こっちのほうは順調だ。

最初の頃は、重心の違いのせいで若干のズレが出てクリティカルを出すのを失敗していたが、今では使いこなしている。

予備の短刀のほうを鍛冶屋に出して【災禍の業火刀】に重心を似せるようにした。

【災禍の業火刀】を加工するには、水晶の神殿が生み出す熱量がいるし、俺の腕ではそんな細かい調整は無理だ。

あくまで俺は鍛冶スキルを持ち、あのミニゲームがうまいだけにすぎないので本職のようにはいかない。

「氷の竜の巣まであとどれぐらいかしら?」

「予定通りに進めばあと三日ほどで着く。だが、延期にしたほうがいいかもしれない。あれを倒せると考えたのは、ティルの弓の腕も計算にいれてだ」

彼女はパーティでは重要なダメージディーラーであり、その不調はそのまま戦力の低下になる。

氷の竜に挑むのは延期したほうがいい。

無理をして、命を落とすのは最大の愚行だ。

「待って! なんとかするから」

「二週間やって慣れなかったんだ。あと三日じゃ無理だろう」

「なんとなく、コツがわかった気はするんだ。ぎゅーんって伸びる感じが、やっと私の一部になってる気がする。だから、だからね、このままいこ」

……どうしたものか。

無理はしたくない。だが、実際にティルの弓の精度は一時期に比べるとだいぶ戻ってきている。

悩んでいるとフィルが口を開いた。

「ユーヤ、どっちみち、ここまで来たら氷の竜が潜む場所まで行って下見をしたいですし、そこまでは行きましょう。それまで挑むか、撤退するかは保留にして、最後の野営でティルの弓が使い物になるかテストをして、私が戦えるかどうか判断します。ティルもそれでいいでしょう?」

「うん、いいよ! 三日目に着くってことはあと二日後にテストだね」

「ティル、ルーナも応援する」

「きゅいっ!」

頷いておく。

フィルがテストして判断するなら、間違いない。

ティルはあと二日で、新しい弓をものにしてくれることを俺も応援しよう。

それからさらに二日歩き続けた。

【白銀兎の籠手】と新調したブーツのおかげで雪の中を進むのもだいぶ楽になった。

手と足、その末端が暖められる恩恵は大きい。

この二日、少しでもティルが弓に慣れるように、ほとんどの魔物をティルが倒し、夜も翌日に疲れがでない範囲で練習していた。

「ユーヤ、このダンジョン、登ったり下ったり大変」

「そうだな。他にも凍った川をすべるような場所もある。大変だが面白いダンジョンだ」

雪山の西方面へ進むにつれ、どんどん下へ下へと下っていく。

氷の竜の巣は底が見えないほど深いすり鉢状の谷にある。

その場所が厄介だ。

螺旋階段を延々と歩き続けて降りるのだが、降りきった瞬間、その螺旋階段が変形して、段差がなくなり坂になる。

ようするに、逃げることは許さないということだ。

まあ、【帰還石】使用禁止じゃないだけましだが。

そのすり鉢状の谷が望遠鏡でようやく見えるところまで来た。

ここで野営をして、明日挑むことになる。

「ティル、野営を設置して夕食が終われば試験です。といっても難しいことはしません。三百メートル先の的を五連続で貫けるか。一発でも外せば、今回は引き上げます」

無茶ぶりのようだが、いつものティルなら鼻歌混じりにできたことだ。

「うん……私ならそれぐらいできる。できなきゃおかしい」

ティルは強く弓を握る。

エルリクが心配そうに鳴き声をあげていた。

試験を夕食後にしたのは、フィルの優しさだろう。

暗くなると難易度があがるように思えるが、祖先の血を強く引いているフィルやティルの眼は特別だ。暗闇を苦にしない。

ティルは弓に慣れるために、今日も無理をしていた。少しでも集中力と体力を回復させてやりたいのだ。

夕食の時間になる。

今日のメニューは、クマ肉鍋だ。

癖と臭みが強い肉なので、甘辛いスープにこれでもかと臭み消しの香草をいれてぐつぐつ煮込んでいる。

「クマ肉、あんまり美味しくないけど癖になる」

「あっ、それわかる。美味しいかって言われると首をかしげるけど、たまに食べたくなる味だよね」

「まあ、牛や豚に比べるとうまいとは言えないな」

クマ肉は、獣臭く固い、身の旨味は強いが独特の風味がする。

基本、肉食の獣は草食の獣より味が落ちる。

それでも、よくよく味わえば、この独特の風味が悪くないと思える。

そんな肉だから、収集クエストはまず出されないし、引き取り価格も低い。

「味はあんまりですが、とても精が付くんですよ。エルフの村でも、病気の人とか怪我した人には良く食べさせます」

「うっ、熊肉料理って、風邪ひいたときとかに出されるけど、弱った体で、獣臭いの地獄だったよ」

たしかに精はつきそうな感じだ。

鍋の他には、串焼きがある。

こっちは鍋と違いダイレクトの臭みがくるが、肉感がすごく、食べると力が湧く。

なんだかんだ言って、悪くない。それがクマ肉だ。

全員、クマ肉を完食しデザートの木の実まで食べ終わった。

「さて、試験をしましょう。準備をしてきますね」

「うん、絶対成功させるよ」

きっかり三百メートル地点にフィルが目印である松明を五つ並べた。

あの火を狙う。

ティルの目が翡翠色に輝く。

ほれぼれするフォームで矢を番えて、引く。

そして……矢が放たれた。

矢が風を纏い加速する。通常ではありえない軌道を描いた。

たいまつを凝視する。

まず、一番右の松明の炎が消えた。

ティルは安堵も喜びもせず、深い集中状態のまま第二射、第三射と放っていく。

次々に炎は消え、いよいよラスト。

最後の松明は……消えた。

「ん。やった! ティルがやった!」

「きゅいっ!」

「見事ね。これだけの弓使いは私の国にはいないわ」

ルーナ、エルリク、セレネが飛び上がる。

弓を放ち終わったあとのティルが汗を流し、フィルが戻ってきた。

「ぎりぎり合格ですね」

「ふう、危なかったよ。ちょっとずれた」

当てるだけでもすごいと思うが、この二人の基準はとても厳しいようだ。

「二週間やってダメだったのに、なんで急にできるようになったんだ?」

「心構えかな。……私さ、風の声は聴くのに弓の声を聴くの忘れちゃってた。弓はいつも一緒で、私と一緒にいてくれるのが当たりまえになって、弓の声を聴く大事さを忘れてたんだ」

武器を体の一部とする。

それは、弓だけじゃなくすべての武器を扱う者の基本にして奥義だ。ティルはそれを感覚でやってきた故に見落としてしまったのだろう。

「よく気付いたな」

「ルーナを見てたらね。私がこんなに困ってるのに、なんでルーナはすぐに慣れたんだろうって思って見てたんだ。そしたら、ルーナと短刀は一つだった。弓を使っていただけの私と違ってね」

「そうか、いい経験になったな」

「うん、これで新しい弓は私のものになった。あとは氷の竜を倒すだけだね」

「そうだな。あとは倒すだけだ」

もう、奴の住処は目の前。

ティルの弓も復調した。

こうなれば、あとは挑むだけ。

氷の竜を倒し、称号を得るとしよう。