軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話:おっさんは兎料理を食べる

そろそろ日が暮れてきた。

「ユーヤ兄さん、雪が全然止まないね。それどころか強くなっているよ」

「テントを張ったら、朝には雪で埋まってそうね」

雪山は順調に登れているが、雪の勢いはとどまることを知らない。

明日は晴れることを祈ろう。

「そろそろ野営をしたいが……ここだとまずいな。もう少し先へ進もう」

雪山はそれなりの広さの坂道を延々と上る。

この長い一本道と言うのが厄介だ。

徘徊型の魔物の進路であり、ここに野営すれば、間違いなく夜のうちにテントが襲撃される。

テントは三回までの攻撃を無効にしてくれるが、万が一壊されたら泣くに泣けない。

今の所持金なら買えなくはないが、そもそも市場に出回ること自体が少ない。魔法のテントなしの野営なんて悪夢だ。

「でも、ユーヤ。まだ山の中腹ですよ。どこかで割り切らないとダメです。危険でも視界がなくなった状態の登山よりましですから」

「いや、もう少し行ったところにちょうどいいところがあるんだ。そこまではがんばりたい」

「ん。がんばる! それと、また白銀兎。三匹目! こんどこそ、お肉!」

ルーナがやる気を出していた。

一日中、雪山を登っていたが、あれから白銀兎は一匹しか見つかっておらず、その白銀兎も【白銀兎の毛皮】をドロップして肉は手に入っていない。

こんな山を登る物好きはいないおかげで、白銀兎以外にもたくさんの魔物を倒しているが、やはり本命を手に入れたい。

「フィル、また頼んでいいか」

「ええ……そろそろ腕の筋肉がぱんぱんです。次で限界ですね」

あの倒し方は、負担が大きい。

そう何度もできるものではないのだろう。

ルーナとティル、それにエルリクが謎ダンスwithエルリクを踊っている。

そう、ついに【白銀兎の肉】を手に入れたのだ。

「鶏肉と同じように、下処理されて、まる一匹分のお肉ですね」

木の皮を剥がすと、毛を剥がれて内臓を抜かれて下処理された兎肉があった。

艶やかな桃色で光り輝いているように見える。

白銀兎自体がレアで、その上極めて倒しづらいおかげで、食べたという話を今まで聞いたことがない。

その伝説の肉が目の前にある。

「ユーヤ、どんな味がする?」

「食べたことも、食べたという話も聞いたことがない。……だが、固有ドロップ肉はどれも絶品だ。これもうまいはずだ」

「兎料理って食べたことがないわね。そもそも兎って食べられるのかしら」

「美味しいよ! エルフの村にいたころはたくさん食べてたんだ。お姉ちゃん、あれ作ってよ。私の大好物!」

「いいですよ。私も好きですし。でも、その前に野営の設置をしないと。ユーヤ、もう完全に日が沈みます。野営のポイントはまだですか?」

「ちょうどついた」

雪山の壁に手を当てる。

よく見ると、雪壁が微妙に青く輝いている。

雪をどかすと、薄い氷の壁があった。

黒の魔剣を引き抜く。

「【バッシュ】」

氷が砕ける。

すると、洞窟の横穴が見え、その中へ入る。

「この中なら、安全に夜が過ごせる」

「うわぁ、雪が凌げるし、外より暖かいよう。耳が、耳が喜んでる」

ティルのエルフ耳がぴこぴこと動く。

エルフ耳は長くて性能がいいが、その分雪でかじかむ。

「良かったです。ここなら火も使えますね」

「隠し部屋! お宝!」

洞窟の存在はよほどありがたいみたいで、みんなが喜んでいる。

そして、ルーナが叫んだ要素も当然ある。

「奥に進もう。壁に光る鉱石が埋め込まれているから、灯はいらない。この鉱石は素材にも使えるし、高く売れるからできるだけもって帰ろう」

「ユーヤ、この石あったかい」

「だから洞窟の中があったかいんだね。これポケットに入れとこ。手とか耳が冷たくなったら当てるんだ」

「いい考えね。私もそうするわ」

この隠し部屋は安全なだけでなく、金策としてもありがたい。

山の中腹に、ランダムでできる洞窟で、注意深くみないと入り口を見逃すが、見つけるとリターンが大きいのだ。

進んだ先に宝箱があり、中には【帰還石】。

新しい魔法道具じゃないのは残念だが、【帰還石】の予備はうれしい。売らずにとっておこう。

そして、テントを設置し、フィルが料理を始める。

「おなかぺこぺこ、フィル早く」

「お姉ちゃん、私もお腹空いたよ。ポトフ! ポトフ!」

「ええ、急いで作りますね」

フィルは魔法調理セットを取り出し、鍋を熱する。

【白銀兎の肉】を一口大にカットし始める。

白銀の名は伊達じゃないようで、肉が輝いて見える。

熱くなった鍋に、オリーブオイルを入れて、白銀兎の肉を炒めて脂を出す。

美味しそうな匂いがし始めると、玉ねぎやキャベツ、水が多く出る野菜を鍋にたくさん入れていく。

野菜からの汁で鍋が満ちていく。

そこに、フィルが作り置きしていた出汁を加えて、塩コショウ、香りづけのハーブを入れて完成。

「ポトフはお手軽に作れますが、とっても美味しいんですよ。さあ、ご飯にしましょう」

「やった!」

「お姉ちゃん、大好き!」

ポトフは非常にシンプルな料理。

それゆえに素材が良ければとびっきりのご馳走になる。さあ、白銀兎の力を見せてもらおう。

熱々の具だくさんポトフがたっぷりと注がれた深皿が全員にいきわたる。今日のメニューはそれと乾パン。

体をあっためるための、甘くて温かいホットワインも用意されている。

フィルは本当によく気が利く。

「えっと、白銀兎を倒せたことを祝って乾杯」

「「「乾杯」」」

そして、楽しい食事が始まった。

まずは酒を一口。

ホットワインは、安ワインにハチミツとレモン汁、それにジンジャーを加えたものだ。

度数は低いが、甘酸っぱくて飲みやすく、アルコールとジンジャーのおかげで体の芯から温まる。

「ん。美味しい。やっぱり、お酒は甘いのに限る」

「うんうん、苦いの好きなんてよくわからないよ」

お子様二人組も、このホットワインには大満足だ。

セレネがポトフのキャベツを口に運ぶ。

「……このキャベツ、びっくりするほど甘いわ。それに、おつゆがたっぷり染みて。キャベツってこんなに美味しかったのね」

「出発するまえに、雪キャベツを買ったんです。この村だとキャベツを雪で保冷するのですが、そうすると不思議と甘くなるみたいなんです」

俺も口に含む。……なるほど、これはすごい。

こんなに甘いキャベツは始めてだ。そして、キャベツだけじゃなく、白銀兎の脂と出汁の力がすごい。

脂の旨味を吸ったキャベツがこれだけうまいんだ。いったい肉はどれだけ美味しいのだろうか?

我慢できずに食べてみる。

ぷりぷりの食感、それにひと噛みごとに溢れる旨味。

鶏肉に近いがもっと上品で、臭みはいっさいない。脂の旨さじゃなく肉の旨さを純粋に味わえる。

これはすごい。

食べ終わったあと、力が湧いてきて、渇きがちな唇がつやつやになっていた。

健康にも良さそうだ。

「美味しい! ルーナ、これ好き」

「ポトフ美味しいよぅ、白銀兎も最高。こんな美味しい兎肉、生まれて初めて」

「きゅいっ♪」

お子様二人組がスープをかき込む。

そして、具を全部食べてしまうと、乾パンにスープをつけて、楽しむ。

具の旨味が溶けたスープをつけると、味気ない乾パンもごちそうだ。

ポトフの特徴は最低限にしか水を使わないこと、野菜から出た汁がほとんどだからこそ、とびっきりのスープになる。

ポトフを平らげて追い打ちに、ホットワインを飲むと、ぽかぽかになり寒い雪山にいることを忘れてしまう。

みんな、あっという間に白銀兎のポトフを食べきってしまった。

「ああ、美味しかった。だけど、お肉が少なすぎるよぅ」

兎一匹は五人で食べるには量が少ない。

フィルは野菜をたっぷりにして食べ応えがあるようにしていたが、もっと肉を食べたいと思ってしまうのは仕方ない。

とはいえ、少ない肉でもこれだけスープをうまくする【白銀兎の肉】はすごい。

もう一匹追加で肉を入れていれば、どれだけ濃厚な味になっただろう?

「一匹しかないから仕方ないです。肉をたくさん食べたいなら、明日はもっと狩りをするしかないですね。ポトフが続くとあれですし、ボルシチにしましょう。昔、ユーヤと旅した街の名物料理です。ポトフも美味しいですが、ボルシチも温まって美味しいですよ。真っ赤なスープで、見た目からしてあったかいですし」

「なにそれ、知らないよ。食べたい」

「ルーナもルーナも!」

ボルシチか、あれもいいものだ。

真っ赤で旨味たっぷりのスープ。素材の味を楽しむポトフとは別の思想の料理だがあれもたまらない。

酒場で気に入ったと話すとフィルが必死に作り方を聞いてくれて、作れるようになったもの。おかげで好物になった。

「じゃあ、明日ももっとがんばらないとな。今日は、予想以上に進んでる。うまくいけば、山を登るまえに話したいいものと、ボルシチ、両方が楽しめるぞ」

「いいわね。がんばりましょう。……それに、白銀兎狩り、フィルさんだけに頼るのはよくないわ。私たちでなんとかしないと」

「そうですね。私じゃ、ああいうの三回もすると腕がぷるぷるでダメですし、お肉をたくさん食べたいのなら、私以外が倒す必要があります」

ここから先の地形なら挟み撃ち作戦もできる。

そっちも試してみよう。

それに、獲物は白銀兎だけじゃない。雪山の頂上付近にだけ出る魔物も倒しておきたい。

「明日も忙しくなる。早めに寝て体力を回復しよう。雪山を登って、いつも以上に疲れているから、しっかり休まないとな」

「ん。わかった」

「明日はお肉二つだね!」

さあ、雪山探索はまだまだこれから。

辛いのも楽しいのもだ。

明日にはなんとか、アレがあるところまでたどり着きたいものだ。

雪山でのあれは最高だ。