軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十話:おっさんはルーナの成長を喜ぶ

朝日が昇ろうとしていた。

まだ暗い周囲を魔法の松明が照らしている。

息を荒くしながら、必死にルーナが無敵かかしくんに突きを放っている。

完璧な突きを放つというのは、普通の冒険者では一朝一夕では不可能。何年もの修業によってようやくたどり着ける領域。

ルーナは不可能に挑戦し続けている。

俺も全力でサポートしている。

朝が来ればタイムリミットだ。……やはり、無理だったか。

そう思ったときだった。ルーナの雰囲気が変わる。構えに無駄がなくなっていた。

滑らかな動きで体が動く。全身の筋肉が連動し、力が集約されていき、突きが放たれた。

ルーナの短剣がかかしくんに突き刺さる。今までと音がまるで違った。どこまでも澄んだ音。

ルーナの顔がぱーっと輝く。

それと同時に朝日が昇り切った。朝日をバックにしたルーナの笑顔はとてもきれいで、見惚れてしまう。

「今のすごかった! ユーヤと一緒! ちゃんとできてた!?」

「合格だ。驚いたよ。本当に一晩で完璧な突きを完成させるなんて」

「やった! これで、ルーナは足手まといにならない。ルーナはユーヤと一緒に」

そこまでだった。

夜通しの特訓を行っていた。体力は限界を超えている。

ルーナが崩れ落ちたので慌てて抱きとめる。

あるいは、限界を超えたからこそ、無駄な力が抜けてあの突きが放てたのかもしれない。

宿に戻ろう。

ルーナを寝かせてやらないと。さすがに、今からダンジョンにもぐるのは無理だ。

たった一晩でクリティカルに必要な渾身の力を込めた突きを放てたのは、才能もあるがそれ以上に熱意があったからだ。

「よく頑張ったな、ルーナ」

彼女の頭を撫でてやる。

すると、眠っているはずなのに、にっこりと笑う。

本当に可愛い子だ。

だからこそ、こんなにも気になるのかもしれない。

昼が過ぎた。

俺はルーナのベッドの隣で本を読んでいる。好きな作家の新作だ。ルーナの瞼が動く。

「おはよう」

ルーナに微笑みかける。

すると彼女は目をこすり、キツネ耳をぴくぴくと動かす。

「おはよう、ユーヤ」

挨拶するなり、ぐるるるるとルーナのお腹が鳴った。

彼女は恥ずかしそうにお腹を押さえている。

「とりあえず、これを食べろ。それに体力回復ポーションを飲んでおけ。楽になる」

「ありがと……美味しい」

バナナという果実だ。

南のほうでとれる果実で、食べやすく消化にもいい、すぐにエネルギーに変わる。

高価だが、疲れたときには一番の果実だ。

バナナを食べて、ポーションを飲み干すとルーナの顔色が良くなった。

ルーナが、窓の外を見る。そわそわし始めてキツネ耳がぴくぴく動く。

「ユーヤ、まだ外は明るい。ダンジョンにいける」

「今日は休んだほうがいい」

「やだ。あの突き、気持ちよかった。せっかくユーヤみたいにできたのに、今日、使わないと忘れちゃう」

困ったな。ルーナの気持ちがわかってしまう。

新しい技を身に着けて、そのコツをつかんだとき、繰り返して自分のものにしたくなる。

……しょうがない。

「わかった。なら、一時間後に出発する。でかける準備をしろ」

「ん。すぐに準備する」

ルーナが寝間着を脱ぐ。

俺は顔をそむける。

「前から思っていたんだが、ルーナは羞恥心がなさすぎじゃないか?」

この子は平然と俺の前で着替える。

俺はロリコンではない。十三か十四ぐらいのルーナに手を出すことはないが、やましいことをしている気になる。

「だって、ユーヤが相手。別に見てもいい」

布切れの音がする。

音がしなくなって、視線を戻すと俺が買い与えた冒険者服に着替え、バゼラートを腰につるしていた。

「ユーヤ、いこっ!」

ルーナは俺の手をひっぱってくる。

一時間後に出発すると言ったのは、この子のための休憩時間込みだったんだけどな。

これだけ元気なら今すぐ出発していいか。

「わかった、行こう。ちゃんとアサシンエッジを取得するんだぞ。スキルポイントを全部注ぎ込んで、レベル5にするんだ」

なにせ、クリティカルを使いこなせるなら、盗賊の攻撃スキルはこれだけでいいぐらいだ。

迷わず最大まで強化するべきである。

理想を言えば、盗賊はアサシンエッジだけに攻撃を任せ、あとは便利な探索スキルを取り続ける。

探索スキルは【気配感知】以外にも有用なものが多い。宝箱のありかを見つける【お宝感知】、ドロップ率上昇の【盗みの極意】、パーティ全員の気配を消す【影に生きるもの】などなど。通常の盗賊は戦闘力の確保のために探索スキルは必要最低限しかとれないが、クリティカルを自在に出せるなら有用な探索スキルをすべて確保できる。

もし、クリティカルを出せないなら状態異常強化と、毒付与スキル、眠or麻痺付与スキル、状態異常特攻スキルの四点セットを取らないといけなくなり、探索スキルまで手が回らなくなっていた。

ルーナがしっかり、クリティカルを出せるようになってくれて本当に良かった。

「スキルとった! これでルーナはアサシンエッジを使える。ユーヤが教えてくれた突きで魔物をたくさん倒す! ユーヤみたいにかっこいい突きでばんばんアサシンする」

やる気十分といったところだ。

そのやる気はもふもふ尻尾に現れていて、しっぽの毛が膨らんでいる。

相変わらず、可愛い尻尾だ。

ぎゅっと握る。

「ひきゃっ」

ルーナが聞いたことのない声をあげた。

そして距離をとって恨めしそうな顔で見てる。

「その、なんだ、悪かった」

「ユーヤのエッチ、女の子の尻尾をいきなりもふるなんてひどい」

……ルーナのことがよくわからない。

着替えを平気で見せてきたり、日ごろは平然と抱き着いてきて胸を押し付けたりしてくるのに、なぜ尻尾はダメなんだろう。

「悪気はなかった。人間は尻尾を特別視していない、あれだ、頭を撫でるのと一緒だ。嫌だと知った以上、二度と触らない」

「そういうことなら許す。次触ったら、責任をとってもらう。尻尾をもふっていいのは旦那様だけ」

記憶喪失なのに、なぜそんな謎ルールを覚えているんだろう。

突っ込む気力もなく、俺はただ頷いた。

それにしても、いい感触だったな。もふもふで、滑らかで、温かくて。

旦那になれば、あの尻尾を好き放題に……。だめだ、相手は子供だぞ? いったい俺は何を考えているんだ。

ギルドから初心者用のダンジョンに潜る。

初心者用ダンジョンはいくつかあり、今日はジャングル型のダンジョンに来た。

岩山にいる魔物は急所が狙いづらい。だが、このジャングルには急所が狙いやすい魔物が多い。

木々をかき分けた先に魔物の姿が見えた。

ゴブリンだ。

「ルーナ、前へ出ろ。レベル6のお前なら問題なく倒せる。速度に優れる盗賊の理想は、急接近して一撃を食らわして即座に飛びのくことだ」

「やってみる!」

レベル的にも問題ないし、ルーナのステータスを見せてもらったが、かつての俺のように上昇幅が低いなんてことはなかった。

それどころか、攻撃力と素早さは常に最大値である3を引き続けている。

ここまでくると運じゃなく、そういう補正を持っているとしか思えない。

この世界に存在しないはずのキツネ獣人。

隠し部屋にある水晶に閉じ込められていた少女。

ルーナが特別だったとしても驚かない。

「キキキィィィィ」

ゴブリン……緑の小鬼。ルーナよりもさらに小柄で、おなかがぷっくりと膨らんでいる。

手にはこん棒。

攻撃力は低いし、動きも速くない。

油断しなければまず負けない相手、

ルーナは突進していく。ルーナは速い。ステータス以上の速さだ。体の使い方がうまい。速さはステータス以上に身のこなしがものをいう。

だが、まずい。ルーナは焦っている。ゴブリンはもう目の前だというのに速度を落とさない。

俺の想定では、このあたりで減速して足を止めてからしっかりと構えて、突きを放つはずだった。

だが、ルーナは減速せずに突っ込む。

ルーナは万全の体勢なら、辛うじて最高の突きをできるようになっただけ。

突進し、体勢を崩し勢いがついたまま突きに移行なんて芸当はできない。

足を止めるように注意をしようとしてやめた。

……失敗すれば学ぶ。

これも経験だ。

ルーナは最後の一歩をひときわ大きくし、ゴブリンの正面へと踏み込む。

驚いた。全力の突進からの踏み込みなのにしっかりと大地を踏みしめ、スムーズに突きの構えに移行していた。

ゴブリンはあまりの急接近にびっくりして硬直している。

ゴブリンの急所は心臓だ。そのことは事前に教えてあった。

「【アサシンエッジ】」

ルーナが突きを放つ。

速度を乗せた一撃……それでいて、全身の筋肉をうまく使えている。俺から見ても完璧な突き。

アサシンエッジのクリティカル時のみという制限とリスクを負う代わりに、全スキルの中でも最高クラスの威力補正が発動、甲高い独特の音がなり響く。

突きが着弾したゴブリンの胸が爆発してえぐれ、一撃で青い粒子へと変わっていく。

「なんて才能だ。天性のバランス感覚か」

基本の突きをマスターしただけで、突進技に応用している。

ルーナの速さを生かした突進からの渾身の一撃は強力な武器だ。これができるだけで戦力評価が格段にあがる。

「ユーヤ、できた!」

「文句のつけようがない、完璧だ。繰り返して今の動きを体に染みつけろ」

「ばっちこーい」

嬉しそうに頷いて、【気配感知】で敵を探すルーナ。

末恐ろしい子だ。

「ルーナ、【気配感知】の面白い使い方を教えてやろう。動いている敵を探せ、そしたら進んでいる方向と反対側から近づくんだ。すると背中から攻撃できる。……不意打ちが一番安全だ」

「やってみる!」

そして、もう一つルーナのすごいところがあった。

獣人特有の柔軟性か、走る際に音を立てない。

非常に柔軟な筋肉と関節が、人間にはできない走りを実現している。

気配の消し方も教えていないのに野生の獣並。

……探索スキル目当てで盗賊を勧めたがルーナにとって天職だったみたいだ。

また一体、ルーナがゴブリンを屠った。

ルーナは俺の指示通り背後から襲いかかり心臓を一突き。ゴブリンは絶命する瞬間までルーナの存在に気付いていなかった。

おそらく、並みの冒険者ではルーナの接近に気付けないだろう。

世界最高のアサシンにだってなれる才能だ。

「ユーヤ、見てくれてた!?」

「見てたぞ、いい動きだ。その感覚を忘れるな!」

「ん、もっと、もっと頑張る!」

俺はルーナの動きを見ながら、この才能をどう導けば伸ばせるかを考えていた。

いったい、ルーナはどこまで強くなるのか? そのことが楽しみで仕方ない。

とはいえ、俺も負けていられない。

ルーナの練習は十分だ。そろそろ俺も腕を振るうとしよう。俺もまだまだ成長できる。二人で強くなっていくのだ。