軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

93 エピローグ②

疲れという物は、自分が知らないうちに蓄積しているもので、それまで元気であったとしても、何かの切っ掛けでいきなり襲いかかってくる。

今回の場合は熱いシャワーとふかふかの布団だった。

イカロスとの戦闘や、それに到るまでに蓄積した疲れ。攻略出来るのかなんて、不安から来る心労。

そりゃ、疲れていないわけが無い。

ベッドに姉さんがいようが、お構いなしに入り込む。もう眠すぎて部屋を移動するのが嫌だった。姉さんから枕を半分奪うと、すぐさま目を瞑る。

それは、なんだか温かくて柔らかくて、夢見心地な気分だったような気がするけれど、多分、夢でいいことがあったんだろう。布団も隣も暖かかったからすぐ眠ってしまったし。

さて、そこまではいい。問題は今だ。

チュンチュンではない。もうすっかり日は空高く昇り、もはやブランチの時間だ。

本当はもっと早く起きる予定だった。普通に学校へ行って、オレンジ頭に「オメー何サボってんだよ!」なんて言われながら、伊織から呆れたような冷たい視線で見られゾクゾクする予定だった。

どうやら、ななみが独断と偏見で寝かせていたらしい。俺から怒られる事を覚悟して。

リュディのメッセージから分かったことだが、疲れていた俺を心配してわざと寝かせてくれていたようだ。そんな彼女に怒る必要なんて有るか?

ななみ、クラリスさんと少し早い昼食を取ると、リュディ達に今から学園に行くとメッセージを送る。そしてクラリスさんに見送られながら家を出た。

学校に着く頃には、成績が張り出されていることだろう。

学園での俺の立場は一体どうなるのだろうか? 多分しばらく行っていなかったから、忘れ去られているように思う。しかし、リュディと一緒に歩けばすぐさま思い出されるだろう。LLLなんかには特に。

今回の件でどう転ぼうと、彼らには敵視はされるであろう。しかしそれが軟化するか硬化するかは分からない。ただ、言えることは、どうなっても構わない。ただし。

ちらりと隣を歩くななみを見つめる。

彼女に危害が行くことが有れば、全面戦争だ。いや、先にリュディが激昂しそうな気がするな。まあななみもファンクラブができてもおかしくは無い可愛さだから、そんな事は無いだろうが。

驚いたことに校門の前ではリュディが立っていた。

彼女は俺を見つけると、姿勢を正し、お嬢様らしく控えめに手を振った。それを見たななみは、

「いつも不思議なのですが、よく露見しないものです」

なんて言ったが、全くもって同感である。

どうやら成績表が魔法掲示板に表示されたのは昼食の少し前らしい。食事後、皆で見に行こうとしていたらしいが、リュディだけは俺のメッセージを見てこちらに来たらしい。

じゃあ三人で見に行こうか、と電子看板の元へ歩き出す。

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俺とリュディが並んで歩き、斜め後ろをななみが歩く。

目立たないわけが無かった。しかし、いつも貰う突き刺さるような嫉妬の視線じゃなかった。羨望の眼差しでもなかった。

得体の知れないナニカを見るような、畏怖や恐怖の視線だった。

すれ違う人々は皆俺を見ていた。普段だったらかなりの人がリュディの方に視線が引きつけられるだろう。俺はついでに睨まれるといった具合だ。

しかし、皆が皆、俺を見ていた。

ふと横を見てみると、なんだかリュディは嬉しそうだった。すぐ側に居た俺も聞こえないくらい小さな声で「いい気分ね」だなんてつぶやいていた。

ななみも、いつも通りの様子だが、どことなく気分が良さそうだった。

全員からこんな視線を向けられるのかなと思っていたけれど、そうではなかった。

「おっ、幸助じゃん!」

そう呼ぶのはオレンジ達だった。

「お前サボってズリーな、なんて思ったけど、すげー事やってんじゃん! 何で俺達をまぜないんだよ」

オレンジだけじゃない。クラスメイトの男子も女子も口々に俺を褒めた。そしてサボりすぎとか、私を四十層へ連れてって! なんて言って、普段の様子で俺と話してこの場を去って行く。

去って行く彼らを呆然とみていると、リュディが教えてくれた。

「聖君がね、クラスメイトに根回ししてくれたのよ。後でお礼、言っときなさい」

正直、花邑家に近い人たちだけが、俺を偏見の目で見ないと思っていた。でもそうではなかった。

「そっか。わかった。必ず言っておくよ」

しかし、俺には疑問があった。伊織はモブ系の彼女達と仲が良かったのだろうか? 伊織は基本的に女性に対して奥手である。ヒロインに対しては、ある意味で手が早いが。

「なあ、実はリュディも根回しに動いてくれてたんじゃ無いのか?」

そう考えなければ、女子達も俺に普段通り接してくれなかった気がする。

否定せず、何も言わないことが答えだった。

「そっか、リュディもありがとう」

「……うん」

魔法掲示板に着くとそこには人だかりができていた。辺りは喧騒に包まれていたが、俺を見つけた人々から、まるで池に石を投げ入れた後の波紋が広がるように、沈黙が伝播していく。

そして俺が数回呼吸する間に、辺りは静寂に包まれた。

皆の視線がこちらを向いていた。俺達は彼、彼女らを無視し、表示されている文字が見えそうな場所へ移動する。すると、目の前にいた人々は左右に分かれ、まるでモーセのように、道ができた。

歩いている最中、誰かが呟いた。

『あれが、化け物か』

掲示板には一、二、三学年それぞれの成績が表示されていた。一学年第一位はもちろん。

「やっぱ俺が一位だな」

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■一学年順位

第一位 瀧音幸助

学科試験 0点

実技試験 0点

合計点数 0点

攻略階層 40層 (ソロ)

第二位 ガブリエッラ・エヴァンジェリスタ

学科試験 96点

実技試験 84点

合計点数 180点

攻略階層 -

第三位 リュディヴィーヌ・マリー=アンジュ・ド・ラ・トレーフル

学科試験 84点

実技試験 92点

合計点数 176点

攻略階層 -

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なんだか面白かった。ランキング上位の人々が、テストで超高得点を取っているのにもかかわらず、俺だけ0点だった。合計点数だけ見れば、圧倒的ビリだった。しかし、俺がトップに立っていた。

俺以外の知り合いで表示されていた一年の高得点者はリュディと伊織だ。どうやら伊織は本当に頑張ったようで、5位という高順位だった。1周目主人公では良い方では無かろうか。

俺達は帰ろうか、と話していると、水を打つように静まりかえったこの場で、俺を呼ぶ声が聞こえた。

「幸助君!」

人混みをかき分けて現れたのは伊織だった。どうやら彼も見に来ていたらしい。

「一位おめでとう! ほんとスゴイや、幸助君は」

そう言って満面の笑みを浮かべる伊織に癒やされる、思えば伊織にも色々お世話になった。そのお礼を言う前に、まずは。

「伊織、ちょっと移動しようか」

この畏怖の視線に巻き込むのは本意では無い。

歩きながら俺は伊織と、リュディはななみと話す。

「いろいろしてくれたんだってな、ありがとう」

「でもさ、先に説明して欲しかった。だって幸助君テストに来ないからすっごく心配したよ! 最初病気になったかと思ったんだから」

伊織にも説明しとくんだったな。彼に心配をかけるなんて言語道断だ。

「でも、本当にびっくりしたよ。だって学校に来てないのに、本当に1位取っちゃうんだもん」

思わず笑ってしまう。確かに、普通なら絶対にあり得ないよな。

「だから言っただろ? 一位取るって」

「そうだねぇ」

「それにお前だってすげーじゃん、5位だろ? 俺が普通にテスト受けてたら、その成績は絶対無理だ」

赤は取らないけれど……その……。なんて口に出すのがためらわれる微妙な点数になってもおかしくは無い。

「うーん、でも、ぼくはさ、思ったんだ」

「何を」

「いろんな人から否定の眼差しを受けても自分を曲げず、ひたすら強くなって行く幸助君が凄いなって。でも、ボクはそんな幸助君を超えたいなって」

彼は真剣な表情で俺を見る。

ブルリと、体が震えた。

超えたい、か。ああ、お前なら場合によってはできるだろう。しかし。

「そうか。でも俺は譲るつもりは全くないぜ」

そう言ってにやりと笑う。

なれるもんならなってみろ。俺はこのまま走り続け、お前が届かないくらい先に先に行って最強に到ってやる。

「うん、そう来なくっちゃ」

二人で笑う。と、そんなときだった。

「あっ、おにぃちゃーん」

その声を聞いて、俺も伊織もビクリと体を反応させた。

「えっ、えぇぇぇええ! な、なんでここに!?」

俺と伊織は反応した理由が違うだろう。伊織はどうしてここに居るのかと狼狽して、俺は何度も色々とお世話になった声を、リアルで聞いて。

「うん。なんか、私成績優秀でしょ? 魔法適性も有るからこっちに編入しちゃった♪」

可愛らしく舌を出し首を少しかしげる。なんてあざといんだ。

さてと。ついに、彼女が来てしまったか。いずれ登場することは分かっていた。

「あれ、もしかしてお話し中でした?」

彼女は俺達に体を向け、ぺこっと頭を下げる。

「ごめんなさいっ!」

「ああ、気にしなくていいよ。頭を上げてくれ。初めまして。俺は伊織のクラスメイトで友人の瀧音幸助って言うんだ。彼女はリュディヴィーヌ、こっちが」

「幸助ご主人様に忠実であり至高の美少女メイド、ななみです」

なんか突っ込みたいとこあったけど、まあいいや。あ、彼女も顔が一瞬引きつった。

リュディにちらりと視線を向けると、いきなり現れたので混乱しているようだ。まあ仕方ないだろう。ななみはなんだかよく分からんボケをかますくらい普通だ。

「あっ、ごめんなさい。名乗らずに」

ぺこっと小さく礼をする。そして少し上目遣いで俺を見ながら、首をかしげ目に掛かった前髪をわざとらしく耳にかける。そして俺の顔を斜め下からのぞき込むとにこぉ~っと笑う。

うーんやっぱりあざとい。しかし、このあざとさが、とても彼女らしくて逆に安心してしまう。

さて、これから伊織と絡むなら彼女とも絡む事になるだろう。

マジカル★エクスプローラーのゲームパッケージに映るヒロインの一人で、リュディ並みの強さを持つこともできる伊織の義妹。

「この学園に編入することになりました、聖伊織の 義妹(いもうと) 、 聖結花(ひじりゆいか) です! これからよろしくお願いします!」