軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

65 ななみ②

彼女(メイドナイトシキエディションセブンスリー) は顔を上げると、

「では、ある程度話が落ち着いたところで……」

と話を切り出す。そして彼女は胸元に手を突っ込むと、なにやら見覚えのある紺色の布を取り出した。

なんでそこにそんなのが入ってるんですかね?

「茶目っけ溢れるキャラで人気爆発した、メイドナイトシリーズのわたくしに、ふさわしい名前をつけていただければ、と思います」

「茶目っけ溢れてるかなぁ……」

今の所、真面目というかマシーンみたいなイメージだ。マジエロでは選んだタイプによって性格が変わるが、今みたいな性格は無かった。

「溢れこぼれ落ちていると自負しております」

よく分からないけれどまあいいや。

「ええと、それじゃあ名付けるにあたってですが。ううん、どういえば良いんだろう……君はホムンクルスみたいな者として解釈して良いんですか?」

てっきり頷くかと思ったが、彼女は首を振る。

「いえ、私はホムンクルスではございません。一応申し上げておきますと、アンドロイドでもバイオロイドでもレプリカントでもありません」

「ええっ?」

「わたくしはそもそも人間を模して作られたわけでは無く、天使であります」

「て、天使ぃ!?」

思わず聞き返してしまった。マジエロで仲間に出来る彼女は、天使では無かった。ホムンクルスであったはずだ。

「天使は、一般に人間とは根本的に構成物質が異なります。またエルフ族、獣人族等とも異なり、それらとは一線を画す生命体です」

そこはまあ、マジエロに天使のサブヒロインがいたから、なんとなくわかるけれど……。

「ご心配されているであろう生殖行為は可能であり、子を宿すことも可能です。しかし生まれる子供は基本的に天使ではなく、相手の種族によります」

「いや、そこは心配していないから」

心配はしていなかったが、気になっていたゲフンゲフン。

「そうですか……ふふっ」

「なんで俺の股間を見つめて、そんな朗らかな笑顔をするんですかね?」

「さて、話は変わりますが」

「話変わるんだ……ここで変えるんだ……」

なんか相手にペースを完全に握られてる気分だ。

「失礼ですが、契約者であらせられる御身が、わたくしに対して丁寧な言葉遣いをされるのは、不要でございます」

確かにメイドのような使用人に、丁寧な言葉を使うアニメはあまり見たことが無い。けれど日本だと使用人に丁寧に接してくれる人も結構いるぞ?

「なんだか癖になっていてですね……丁寧語でも良いですか?」

「ちっ……」

「あれ、今舌打ちを……」

「まさか、気のせいではありませんか?」

「わ、分かりました。丁寧語を使うのは……」

「ちっ……」

「わ、わかった」

強制で矯正かよ……どっちが上か分かったもんじゃ無いんだが。

「はい、よろしくお願いいたします」

そう言って彼女は見覚えのある紺色の布を、手にもったまま優雅に礼をする。

ずっと気になっていたんだけどさ、それ。

「その……手に持っているのは?」

「これですか? スクール水着です」

と手に持っていた紺色の布きれを広げる。確かにスクール水着だ。名前の所は空欄になっているが、いやそんな事はどうでも良い。

「付属のコスチュームです」

俺の疑問を察してくれたのか、彼女はそう言う。しかし俺の中にある疑問は、その回答だけでは解消しきれない。

「何で……スクール水着なんだ?」

「私の知識によると、以前まではメイド服のみ付属していたそうですが、追加でスクール水着を付属にしたところ非常に売り上げが増加したため、以後このようなことになったそうです。また一度スクール水着を外して販売した事もあったそうですが、売り上げが下がるどころかクレームが殺到した、となっています」

クレームまで来たのかよ。

「今着替えることも可能ですが」

え、マジ? ここで着替えさせんの? みたいな顔をしないでくださいませんかね。するわけないだろう。

「結構です」

「そうですか。脳内補完するのですね。では服の上から当てますのでどうぞ」

と言ってメイド服の上に広げたスクール水着を当てポーズを取る。……うーんエロイがもう少しかがんで…………いやそうじゃねえ。

「お前、契約者に対して誠意を見せてるようで、実はバカにしてないか?」

「フフ、そんな事はございません。それよりも早く名前を頂けないでしょうか?」

そういやそうだった。名前をつけて欲しいと言われていたんだ。

さて、マジエロでは自由に名前をつけられたが、たいていの人は『ななみ』としたと思う。掲示板サイトなどで『MKS73』とうつのはめんどい、ななみしよう。と言っていたのがいつの間にか定着したからな。俺も『ななみ』派だし。

「そうだな……じゃあ『ななみ』なんてどうだ?」

と言うと、彼女は「はぁ?」と言いながら眉をひそめる。

「信じがたいセンスです。まさか識別番号をそのまま利用するなんて。あなたは三番目の子供にサンと名付けるようなものです。サンさんと呼ばれるのですよ? あだ名はパンダですね。名前によって就職活動に優劣が出ることもあると聞きます。あなたは子供の未来を決めるのに、そんな適当で良いんですか?」

…………確かにそうだよな。彼女が言うことは正論だ。

ゲームではなんの名前でも彼女は喜んだものだが、これはゲームではない。現実なのだ。ゲームと同じノリがずっと通用するわけではない。彼女は一人の人(天使)である。

俺が考えるのは人の名前で、ペットの名前じゃないんだ。俺の考えが浅はかだった。

「す、スマンいま別なの考え……ん」

と、彼女を見ながら言葉を止める。

「まったくご主人様には困ったものです」

そう言いながら、彼女は手に持ったスクール水着に、どこからか取り出した油性ペンを手に持つと、ひらがなで『ななみ』と書いていく。そして書き終わると今度は手に小さくななみ、と書いて一瞬だけにこりと笑う。

すぐに呆れた表情に戻ったが、確かに一瞬にこりと笑った。

彼女は名前の入ったスクール水着をぎゅっと抱くと、

「まあ、再考する時間も無駄でしょう。ななみで結構です」

そう言い放った。

「……お前、気に入ってるよな?」

「はぁ、ご主人様は何を仰るのでしょう……さて、愛称はななみんで良いとして、漢字はどうされますか? いくつか候補がありますが」

「ななみんって、実は結構気に入ってるよな?」

と言うも俺の言葉を無視し、地面に油性ペンでいくつか漢字を書いていく。ただ明らかに二番目に書いたひらがなの『ななみ』の文字がデカい。『七海』や『菜々美』は小さいのに。しかもなぜか『ななみ』だけ二回も書かれてるし。これを選べって事だろうか?

「う、うーん、ひらがなの『ななみ』でどうだろう?」

「はぁぁぁ~ひらがなですか……」

とこれ見よがしにため息をつきながら、彼女は地面に「ななみ」といくつか書いて最後にハートマークを書いた。三つくらいハートマーク書いてる。

「お前とてつもなく気に入ってるよな? これ以上無いくらい気に入ってるよな?」

「お前、ではありません。ななみです。さて、これから先よろしくお願い致します、ご主人様」

名前を呼べって……絶対気に入ってるわ。てかここ結構魔法学やダンジョン学で重要とされそうな場所っぽいのに、油性ペンで名前を書いて良いのかな? もし観光地だったらSNSで晒されてるぞ? とはいえダンジョンだし、花邑家の土地だし、 思考放棄(まいっか) 。

「では続いてご契約者様の敬称を確認させてください」

「敬称?」

「はい瀧音幸助様をどうお呼びすれば良いかの確認です。選択肢としては『様』、『マスター』、『ご主人様』、『師匠』、『親方』、『名人』、『達人』、『社長』、『部長』、『関白』、『征夷大将軍』、『の星』、『っち』等多数取りそろえております」

「どこぞの電車双六ゲームに有りそうな敬称がまじってんな。デフォルトはなんなの?」

「ご主人様。になっております」

まあ、そう呼ばれるのはむずがゆいけれど、ゲームでもそうだったし。

「……まあ妥当だよな」

それに一度で良いからメイドにそうよばれてみたかったんだ。メイド喫茶? 俺は本物のメイドにそう呼ばれたいんだ。

「ではご主人様とお呼びします。さて、ご主人様以外は、どうお呼びいたしましょうか? デフォルトは『下等生物』となっておりますが」

「デフォルトひでぇなっ! 何で主人は普通なのに他者はこんなに扱いひでえんだよ。変更だよ、変更! てゆーかそんな言葉どのタイミングで使うんだよ」

「やあ! 良い天気だね、下等生物!」

「さわやか装ってるけれど、使われている言葉はゴミ以下だな!」

「では『ゴミ以下』にいたしましょう」

「そこ採用なんだ!? もはや生物ですらなくなっちまった。一応相手に敬意を払うような言葉遣いをしてくれ!」

「ちっ、かしこまりました」

「……誰かぁーツッコミ変わってくれぇぇ」