軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

47 初心者ダンジョン攻略後

慌ただしく駆け回る教師達を尻目に、俺とリュディはいったん帰宅することにした。無論、先輩のおごりのラーメンはキャンセルである。まあこの状況じゃ仕方ないかもしれない。察するに魔人が問題になっているんだろう。ゲームでは簡潔に、「学園中で話題になった」という一文が表示されるだけだが。

帰宅後すぐに俺はランニングをするために着替える。そしてくつろいでいたリュディに出かけると声をかけるが、彼女はしかめ面をした。

「……まさか、走りに行くの?」

「おう」

当たり前である。

「ダンジョンに行ったのに? 疲れてないの?」

疲れたかどうかと言われれば疲れている。しかし。

「ランニングと素振りが出来ない程でもないかな」

呆れた、とばかりに首を振ると、ぐぅぅっと伸びをして立ち上がる。

「どうしたんだ?」

「私は私で訓練するわ」

なんて言うとクラリスさんを呼び寄せ、杖を持って行ってしまった。クラリスさんは去り際にこちらを一瞥したが、それが何なのかはさっぱり見当が付かなかった。

ランニングコースや滝には、水守先輩は居なかった。そりゃもちろんであるが。真剣な表情であそこに残ったのを見れば、解決するまで場を離れることはないだろう。まあ、襲われるのは主人公パーティだけで、後は杞憂なのだが。すぐに帰れる事を祈っておこう。

「主人公はあそこで三会に注目されるんだよな」

ゲーム一周目であればただただ注目されて終わりだ。もっとも注目されるだけでも凄いこと(ゲームの瀧音談)なのだが。まあ二周目だと場合によっては勧誘されるんだが……今回は多分無いだろう。されたのなら俺は非常に焦らなければならない。

滝の下に着くと俺は第三の手と第四の手を動かす訓練を行い、それもある程度行うと素振りに移行する。とりあえず最低千回……あとは暗くなるまで素振りしよう。

と、素振り用に先輩から貰った木刀(中に重りが入っているらしい)を、一度振る。そして先輩が振る姿を頭に浮かべながらもう一度振る。なんだか右半身から違和感を感じるため、微調整を行いもう一度振る。

俺は素振りが安定し始めると、今までの反省を行う。ゲーム開始からダンジョンに潜れる、現在までの流れを点数にするならば、ほぼ百点に近いだろう。入手出来るスキルはあらかた入手したし、姉さんのおかげで手に入れた気配察知なんかは想定外のプラス要素だ。

必須と言って良いスキルの心眼は、ちょっとアレな方法だが入手出来た。伊織は伊織で力をつけているようだし、もう特に言うことはない。

なんて順調な滑り出しだ。ここまで順調だと逆に不安になってくる。

これからの計画を立てるならば、まずは真っ先に初心者ダンジョンの完全攻略を優先させるべきだ。十一層を攻略して得られるスキルを全て得たら、学園外ダンジョンに向うのがいいか。すでに初心者ダンジョン十層を走破したから、他のダンジョンに潜る資格は得たはずだ。

ではどこから潜るか? 個人的には店舗特典で追加されるダンジョンの一つを潜りたい。少し特殊なクリアボーナスだから、もらえない可能性もあるが。そうなると余りうま味はないかも知れない。

辺りが暗くなり、もうすぐ夕飯だろうという頃に、俺は素振りをやめて家に戻る。そしてシャワーを浴びるとスマホのスリープモードを解除する。まだ姉さん達は帰ってこない。

さて、毬乃さんと姉さんが帰ってきたのは、夕飯が終わり深夜のアニメが放送される時間だった。珍しく疲れた顔をしている彼女達(リュディはまだ姉さんの表情が読めないらしく、いつもと同じ顔に見えたらしい)に砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーを出すと、二人は礼を言って飲み始めた。

「あれだけ調べたのにね、結局原因は詳しく分からなかったわ」

「学生が無事だったのが救い」

魔人族と遭遇したのは主人公達だけらしい。まあゲームと同じだ。彼らのパーティメンバーに生徒会長であるモニカがいたこともあり、事なきを得たそうだ。モニカ会長がいるならば、主人公達は何もしなくても敵は消滅していただろう。あの人は水守先輩と違って初期から最後までチートだ。むしろ三強で初期からチートじゃないのが水守先輩だけだから、先輩の方が少数の方に含まれるが。

しかし困ったことに。

「安全確認の為に、初心者ダンジョンは封鎖する」

と、姉さんは淡々と語り始める。

どうやら怪しい動きをしていた人物は捕まえたらしいが、まだダンジョンに危険が残ってないかを調べるらしい。まあ妥当である。妥当であるが、不満だ。他のダンジョンに行く前に欲しいスキルがここで取れるから、少し足止めされそうだ。

なお捕まった人物は今取調中らしい。ただトレーフル皇国なんかと連携して事の対処を行うとも言っていたから、彼らが邪神教信者であることに目星は付いている、もしくはすでに判明しているのだろう。

--

事件があった翌日ということもあり、学園内は初心者ダンジョンの事で一色だった。水守先輩が言うには、本来ならば君たちが注目の的になるんだが、との事。初回の十層攻略は滅多にない偉業であるのだが、魔人族の事があったため、一般生徒に攻略層を公開しないらしい。

本来ならばランキング形式で貼り出され、学園から支給された総合情報端末ツクヨミトラベラー(ほぼスマホみたいな奴)にも表示されるとのことであるが、場合が場合だからな。そして一応誰が魔人族に遭遇したかは黙秘されるはずだったらしいが、どこからか漏れたらしく、ゲーム主人公である伊織のパーティが注目されていた(特にリーダーである伊織)。一部上級生からは一目置かれているとか。

「お、またお前のこと見に来たヤツが居るぜ、ったくモテモテだなっ! んで、どっちが好みだ?」

「確かに気になるぜ、なかなかイケメンだよな」

とオレンジ頭の男子生徒が俺の言葉にのってくる。

本来ならば俺が道化役として伊織パーティに入り込む予定だったが、その代わりに彼(オレンジ頭)が仲間になったらしい。一応ゲームで仲間になるキャラクターだ。

と二人で伊織に問うと、心底困ったかのように眉をひそめた。

「どちらも男じゃないか。しかも彼らの目的の半分はトレーフルさんのようだし……」

確かに彼らは伊織を注目する振りをしながら、リュディを見ている。こりゃぁ伊織を出汁にリュディを見に来たんだな。

リュディはその様子に気がついているのか、気がついていないのか分からないが、カトリナと雑談に興じていた。リュディ目当ての人には眼福だろう、リュディだけでなくもう一人の美女も一緒に見られるのだから。片方に胸はないが。

「ヒェッ」

と、俺は鋭い視線を受け目をそらす。

「そ、そういやオレンジ、お前も伊織達と一緒にダンジョンに潜ったんだよな? どうだった? 特に魔人族とか」

「あん? オレンジって……まあいいや。うーん。あんときは少しびびったけどよ……つか、伊織って意外に頼りになんのな。加藤もなかなかだけどな」

「意外にって……」

まあ見た目からすれば活躍すると思えないだろうな。普段は普通すぎて印象に残らないし。

「じゃあ生徒会長はどうだった?」

「会長かぁ、ありゃやべーぜ。バケモンだ、な伊織」

「うん、相手が魔人族なのに……大人と子供みたいだった。もうね相手がかわいそうなぐらい」

ふむ、会長のチートは健在、と。

「それにすげえ綺麗だし優しいし。ファンクラブがあんのも頷けるぜ」

「僕、MMMに入ろうかとさえ思ったよ」

二人はべた褒めだ。しかしオレンジ。お前の女の趣味って確か……。

「オレンジは会長推しか?」

「いや、確かに会長は可愛いけどよ、でもな燃えないんだよな。やっぱ結婚してないとなぁ」

と、伊織が真顔で硬直する。だよな、俺も初めて彼の好みを知ったときはびびったよ。覚えとけ、コイツ寝取り趣味なんだぜ。しかも結婚済みじゃないと反応しないとか言うレベルの。それ以外は良い奴なんだが。

「やっぱ数学の先生だよな、知ってるか? 去年結婚したばかりらしいぜ?」

「へ、へぇ。そ、そうなんだ!」

おい伊織、めちゃくちゃ顔引きつってるぞ?

「なんか最近仕事ですれ違ってるらしくてな、ちょっと声かけてみようかなと思ってるんだ!」

「そうか……ほどほどにな」

「おう、結婚したてとかマジ燃えるよな。相手に操を立てながらも、勢いにやられちゃって背徳に身を震わせながらしちゃう姿とか最高だよなっ!」

「そ、そうかな?」

「なにぃ? もしかして未経験か? マジ最高だぜ。でもなぁ、彼女らが離婚とかすると一気に魅力がなくなるんだよな。アレってなんなんだろうな」

お前がなんなんだよ。そこまでいったら面倒見ろよ、刺されるぞ。

俺はこっそり伊織に話しかける。

「もし誰かと結婚したら、コイツとは縁を切ろうな」

「そうだね……」

むしろ今切ってしまっても良いかもしれないが。