軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

44 初心者ダンジョン③

もしこの初心者ダンジョンがゲームと同じならば、まず低階層で全滅することはないだろう。アイテムさえそろえれば、十一層の隠しボスにすらてこずる事は無いと思う。極限まで効率を追求する、RTA(リアルタイムアタック、ゲームスタートからクリアまでの実時間(時計で計測した現実の所要時間)の短さを競う)では、宝箱を回収しつつ、最低限しか戦わず(モンスターに見つかっても基本逃げるを選択)、十層ボスまで行き、ボスを倒すのが定石だ。低LVでもボスをボコボコにしてしまえるくらい、このダンジョンの難易度は低い。

ただ初回の挑戦では邪神教徒によって召喚された魔人族が現れ、そいつを倒さなければならない。ただこの魔人族がとても弱い。非常に弱い。魔人族を倒した後に「今日はいろいろあったし帰りましょ。皆も疲れたでしょう?」なんてことをヒロインの一人が言うが、帰らずダンジョン最下層へ行きボスを倒すことも簡単にできる。

むしろRTA経験者でもある俺からすると、最下層に行かなければかなりの時間ロスになってしまうため、必ず最下層へ行くのだが。

まあ、俺は主人公ではないし、魔人族どうのこうのはない。さっさと十層ボスを倒して帰還してしまうのがいいだろう。

「ええと、一層はギョブリンだけだったか?」

ギョブリンと言えばゴブリンの体に魚の頭を合体させたようなモンスターで、筆舌に尽くしがたいザコである。

「そうね、そう聞いてるわ」

とリュディが辺りを警戒しながら、返事をする。ギョブリンは口から水鉄砲を放つが、威力は子供のおもちゃクラスである。つまり服が濡れるくらいである。ゲームの戦闘でも十回に一回一ダメージを食らうかどうか、という全モンスター最弱の攻撃力である。しかしギョブリンはエロCGを得るために必須のモンスターで、モンスターを操るテイマーの職業を得たら、ほぼ必ず仲間にするモンスターでもある。

機会があれば仲間にしたいモンスターだ。ただ他の仲間からの目線がキツそうなので、ヤルかは分からない。そもそもテイマーをする時間がもったいないから、やらない可能性の方が高いだろう。

「……! 来たわよっ!」

と、リュディの声を聞きながら、視界に入ったギョブリンに第三の手を向ける。どうやら現れたのは一体だけのようだ。

「行くぞ!」

俺は第三の手で壁を作りながら、すぐさま走り出す。そして飛んでくる水鉄砲を第三の手で弾き、第四の手を叩きつけた。

「ギョギョォ~!」

戦闘は……こんなにあっけないものなのだろうか? ギョブリンは吹き飛んだままの体勢で痙攣していたが、やがて体は粒子となりほんの小さな魔石を残して消えた。そして今度は陽炎のようななにかが浮かび、それらは三等分され俺達に入ってくる。

多分、 陽炎(アレ) が魔素なのだろう。この世界における経験値みたいな物で、たまると自分の能力が上がるという。まあそれは置いておこう、それにしてもだ。

「……弱い」

「……弱いわね」

「まあ、瀧音の火力は、現時点の一年生にしてはとても大きいからな。それのせいだろう」

俺は落ちたビーズみたいな魔石をひろうと、袋にしまった。これ集める意味あるんですかね?

「よし、では行こうか」

との先輩の声に従い、俺達は進んでいく。警戒度は一段下がったような気がした。

「なんだか代わり映えしないわね。単調な道でなければ迷ってそうだわ……」

とリュディが呟く。確かにその通りだ。シンプルな石作りの柱と壁が続いており、同じ景色を何度も見ている気分になる。

ただ、ほとんど道が一本道であるから迷っていないだけで、これが迷路のようにでもなっていたら今どのあたりに居るのかも分からないであろう。

しかし俺はこれ以降、ほぼ迷うことはないだろう。俺は知っている。マジエロにおいてこのダンジョンは、マップがとある層以外固定であることに。そして今まで歩いた道は、マジエロの地図と一致していることに。

「そうだな。迷路にでもなっていたらぞっと……」

するぜ、なんて言おうとして言葉を止める。そしてリュディに手招きした。

「リュディ、あっちから音が聞こえる。多分あの角から歩いてくる」

と言うとリュディは頷き、魔力を高める。「ギョ、ギョ」なんて音が一定間隔でこちらに近づいていたため、相手は気がついていないと踏んだのだが……当たりだったらしい。角から姿を現した瞬間、リュディの魔法に襲われて、無防備のまま魔素に変わってしまった。少しあたりを調べてみたが、今回は魔石は出なかったようだ。小さいから見逃した可能性もあるが。

「次、いきましょう」

俺は頷く。それにしても、なぜギョブリンは歩きながらギョ、ギョと呟いているのだろうか。

それから順調に進み二層まで来たところで、ようやくギョブリン以外のモンスターが出現し始めた。

「 泥人形(ゴーレム) かぁ」

現れたのは動く 土塊(つちくれ) である 泥人形(ゴーレム) 。遠目で見た限りだと、動きは遅く行動は単調で、第三、第四の手のどちらかで防御すれば、完封するのもたやすいだろう。と思っていたが、本当に完封できた。あっけなさ過ぎて逆に驚いた。

「多分、相性が良すぎるんだよなぁ」

と言いながら小さな魔石をひろう。

今までのギョブリン達との戦闘と明確に違うのは、奴らはこちらを普通に攻撃してくることだろう。普通に攻撃するって言い方がおかしいように聞こえるが、間違いじゃない。まあギョブリンが異端なだけなんだが。

「まだ低層だものね」

リュディも詠唱短縮を覚えた影響が出ていて、この辺りの戦闘に関しては、まだ困ることがないようだ。

と、話しながら先を進む。

「あら?」

2層の半分ぐらいまで進んだところで、俺達は初めての分岐にぶつかった。まあようやくといって良いだろう。もしこれが国民的最後のRPGだったら、ほぼ一本道なんて言われて叩かれていたに違いない。

「どちらへいく?」

右と左。今回の場合は左が正解のルートであり、右は宝箱がある行き止まりだ。人によっては右が当たりと言うだろうが。またRTAをする紳士達も大体がこの宝箱を回収する。まあ、パーティメンバーによっては、この宝箱が必須でないことも有るが、大抵は回収するだろう。

「そうだな。俺の勘が右へ行っても行き止まり、と言っているから右へ行こう」

と言うと、当たり前ではあるがリュディは顔をしかめた。

「なんで右なのよ? それなら左に行くのが筋でしょ」

まあまあ、と手で落ち着くように言う。

「よく考えてみて欲しい。俺の勘を信じられるか?」

「……にわかに信じがたいわね」

そうか、俺の勘は信じられないか。結構当たる方だと自負してるんだが……。

俺がかなり落ち込んでいたように見えたのか、先輩はにが笑いする。

「なんで瀧音は自虐したのにそこまでショックを受けてるんだ?」

「そんなことないわ、なんて言葉を少しだけ期待していたのかもしれません」

自虐ネタってたまに自分が傷つくことがあるよな。

「まあ、いいわ。右へ行きましょ?」

「そうだな」

と歩き始める。進んだ先は案の定行き止まりで、壁の前には輝かしい宝石の付いた宝箱、などではなく、年季の入った木箱が置かれていた。

「宝箱かしら?」

「多分な。罠とかはないだろうか?」

実のところ、この宝箱に罠はない。むしろこのダンジョンの宝箱には全て罠がないのだが、もちろん口には出さない。

「聞くだけ無駄だと思うけど、スカウト技能なんて使えないわよね?」

「無いな、仕方ないから俺がストールの盾で守りながら開けてみるよ」

と言って先輩を見つめる。しかし先輩はこの事に関して口を開くことはなかった。

俺は第三の手で防御を固め、第四の手でゆっくり開ける。

中に入っていたのは、陣が刻まれた、小さな赤い魔石だった。

「火の魔石ね」

「そうだな」

こういった陣の刻まれた魔石は、 陣刻魔石(じんこくませき) と呼ばれる。これは陣を起動すると魔石が活性化し、刻まれていた魔法が使用されるアイテムだ。今回の場合は魔力を込めて衝撃を与えると、炎が吹き出る……らしい。実際に使ったことはないからどんな感じかは分からないが。

「俺がもっていても良いか?」

「確かに幸助が一番必要そうよね」

リュディは火の魔法を使えるが、対して俺は遠距離魔法に乏しい。こういったアイテムは非常に有用である。

陣刻魔石は俺にとって遠距離の切り札になりうる、アイテムの一つであると思っている。遠距離魔法が使えない俺でも、陣と魔石で完結しているこのアイテムは、起動させることが出来るはずなのだ。まだ使ったことがないのでなんとも言えないが。

とはいえ、陣刻魔石にも弱点はある。

まず第一に「高価」。陣刻魔石はダンジョンでしか入手出来ないレアアイテムだ。特に中級以上になると値段は跳ね上がる。

第二に「消耗品」で有ること。一度使うと魔石の魔力が無くなり、ただの石ころになりはてる。「高価」な理由の一つだろう。

第三に「火力不足」だ。一番強い魔石を入手出来る頃には、リュディあたりのキャラはそれ以上の魔法を普通に使える様になっているため、魔法を使っていた方が強い。そして魔力回復アイテムと、陣刻魔石だったら前者の方が圧倒的に低価格。

結論として。一時しのぎのアイテムだろう。シナリオ後半は色々インフレするから、威嚇程度にしかならないかもしれない。

「よし、じゃあ戻るとするか」

「そうね」