軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35 戦闘授業

「なんだか嫌な感じを受けたわ、何か話してなかった?」

「いや、ウチのクラスには美人が多いなって話だよ」

何事もなかったかのように、そう言ってみた。

「そう、なんだかアンタから嫌な気配を感じたのよね、アンタから嫌な気配を」

二回も言わなくても……。ただ貧乳って思ってただけなんだよ。そういえばカトリナは貧乳を気にしてたか。

「また感じたわ……ていうか目線」

そういえばマジエロでも同じようなやりとりがあったな。ゲームではこの後に瀧音幸助が失言をぶっかましてしまうんだよな。カトリナの怒りを買い模擬戦でフルボッコにされる。

と、俺がそんな事を思い出していると、笑顔のカトリナが俺の近くにやってくる。そして肩に手を乗せた。それと同時に俺の肩が悲鳴を上げた。

「へぇ、言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」

「痛い、痛いです!」

ゲームの瀧音幸助はここで貧乳と口に出していたが、俺はそんな馬鹿な事をするわけがない。そんなこと言うなんて失礼だろう? まだ初対面に近いのに、言っちゃう奴は人間的にどうかと思う。

それにだ。これでも社畜としてバリバリ働いてきたんだ。営業だってやった事があるんだぜ? 相手の機嫌を読むくらい朝飯前さ。そもそも本音と建て前を使い分けることが出来なければ、社会人としてヤバイよな。学生でも使えるぜ?

「そっか」

と、カトリナは俺の肩から手を離す。そしてにっこり笑った。

「悪いわね、ちょっと疑心暗鬼になってたわ」

俺は襟を直しながら笑顔を浮かべる。

「なあに、気にしてないさ」

チョロいな。チョロメインモブなんてこんなもんさ。俺程の 紳士(エロゲプレイヤー) ならば、不要なイベントを回避するために、最善の選択肢を選ぶことは造作も無い。例えそれが初見でも。はは、はははは。

と俺が心の中で笑っていると、不意にカトリナが肩を回す。

「ああ、それにしても…………胸が大きいから肩が凝るわね」

思わずまな板に視線を向ける。

「プッ! 冗談きついぜ、どこにそんなのあるんだよ!」

ハッと我に返るも、もう遅い。彼女から怒気……いや、殺気がほどばしり、俺の体を貫いていく。

「…………しまった、罠かっ!」

あまりに面白いジョークに本音が飛び出した。

「罠かっ……じゃないわよ。アンタが何を考えてたかよーくわかったわ。ねぇ……覚悟は出来てるんでしょうね?」

逃げ出すか、伊織を盾にするか、迷っていたちょうどそのときである。先生がやってきたのは。

「授業を始めるぞ!」

おお、貴方が 救世主(メシア) か!

とまた肩に手を乗せられる。すらりと伸びた指に、手入れされた爪。明らかに彼女の手である。しかし今度は手に力がこもっていない。ただ、力はこもっていないが魔力がこもってる。冷や汗が尋常じゃないぐらい流れ落ちている。

「瀧音。模擬戦、アンタを予約しとくから……分かってるわよね」

わ、分かりたくありません!

隣に居たリュディはジト目でこちらを見ていたが、カトリナと一緒に皆が集まる方へ歩いて行った。

俺は伊織とオレンジと前髪に向き直る。どうやら殺気を受けていたのは俺だけじゃないみたいだ。

「貧乳であることは間違いないよな」

彼らは口を開かなかった。それは彼女が地獄耳だからだろう。ああ、大丈夫だ、言わなくてもお前らの顔がアイツは貧乳だと訴えていることは分かる。

「が、頑張って!」

伊織が哀れむような顔でそう言った。

メインヒロインの 一柱(ひとはしら) であるカトリナは、接近戦闘を主として戦う、近距離ファイターだ。彼女は攻撃力、防御力、そして回避力がバランス良く上がっていくキャラクターで、初心者でも扱いやすい。また覚える魔法や技能も優良で、最初のボスからラスボス、そしてアペンドディスクの隠しボスまで一貫して活躍してくれる。ただ、苦手な相手との対戦では少しフォローが必要ではあるが。

「準備は良いかしら?」

さて、そんなカトリナさんではあるが、最初から強いわけではない。カトリナさんは基本最初に仲間になる(選択肢によって2,3番目に変わる場合もある)ため、初期能力は低い。ストールをある程度操れるようになった俺からすれば、負ける事が想像出来ない。 そもそもだが俺の戦闘スタイルを考えると、現時点のカトリナは、ネギどころか黄金を背負ったカモである。相手の初期能力を知っているし、まず負けることはない。

「おう、もう少し待て」

そう言って貸し出される武器を物色する。剣、槍、棍棒……まあ武器の練習なんて真面目にしたことがないから、どれを選んでもたいして変わりは無いのだろうが。そういえば俺がしているのはストールの訓練ばかりだな。

とりあえず適当に振るだけでなんとか使えそうな棍棒にしよう。実際には型なんかがあるのだろうが。

俺は準備を終えていたカトリナに相対する。彼女は剣を選んだようだ。まあ、彼女の得意武器は剣だから予想できていたが。

さて、根本的な問題だが、俺はここで勝つ事に意味はあるだろうか。

実のところ最初の模擬戦闘では、瀧音幸助とカトリナが対戦し、カトリナが勝つ。まあ、これはどうでも良いが、問題はその次。続けて 主人公(いおり) がカトリナと戦うことになるのだが、こちらは主人公が勝つ。そしてカトリナが伊織に一方的なライバル認定し、仲を深めていくのだ。

主人公にはある程度成長して貰いたいし、カトリナイベントは攻略して貰いたいから、カトリナに敗北するのはアリだ。てかカトリナは好きなキャラクターだから、個人的に主人公とくっついて幸せになって貰いたい。

とすればだ、ストールは今回封印するのがいいか。棍棒なんて使ったことないし(剣や槍もだが)、ストールで変な戦いのクセが付いているため、すぐさま負けることが出来るだろう。

俺はストールを外して近くに置く。するとリュディが視線で何かを訴えて居たが気にしないことにした。

俺は棍棒を握ると、カトリナを凝視する。それから模擬戦闘で公開処刑されたのは言うまでも無い。