軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28 先輩への報告

社会人にとって報告・連絡・相談はして当然の事である。理由は言うまでも無い。新卒の時は上司に口酸っぱく言われたが、部下が出来てからは今度は自分が口酸っぱく言うようになった。

個人的にではあるが、人付き合いにおいても報告・連絡・相談は非常に重要なことだと思う。相談は自身が解決できない悩みを解決してくれることがあるし、報告や連絡は人と人をつなぎ止めてくれる重要なコミュニケーションの一つだと思っている。

だからこそ俺が水守先輩に心眼スキルを得たことを報告するのは、あたりまえだし、そもそも相談に乗ってくれた先輩に報告しないのは失礼だとさえ言えるだろう。だから言おうとは思っていた。しかし。

「凄いじゃないか! こんなに早くスキルを得るなんて! どうやって得たんだ!?」

まるで自らが大きな事を成し遂げたみたいに喜ぶ水守雪音先輩を見て、俺は思わず目を伏せる。どうやって得たかだって?

美少女の裸をみたいと思っていたら覚えました。

……言えるだろうか。言った瞬間に神すら嫉妬する先輩の笑顔が、鬼すらビビる能面に変化する様が目に浮かぶ。少しだけ見てみたいと思ってしまうのは、俺にMっ気があるせいだろう。

「先輩のおかげです」

俺は表情を読み取られないように、すぐさま頭を下げて表情を作りなおす。

「ふふっ、そうかそうか、そう言ってくれると私も嬉しい」

そう言いながら先輩は俺の顔を上げるように言った。

「明日から学校だって言うのに、こんなにしていただいて、とても感謝しております。何かあったらおっしゃってください。若輩者ですができる限りのことをいたします」

矢継ぎ早に、それも適当に言葉を紡いでいく。どうやってスキルを得たかの話しは、さっさとながしてしまうが吉だ。

俺が言うと先輩は小さく笑った。

「なに、後輩を導くのも先輩の大切な役目だよ。それに君は一生懸命だったからな、力になってあげたかった、というのもある」

「いやぁそんな一生懸命だったかなぁ……ああ、そういえばですが、先輩は明日の準備は終わってるんですか? 風紀会って明日忙しいとかじゃ?」

「ははっ大丈夫だ。生徒会は準備が忙しいかもしれないが、風紀会は当日に新入生の案内をするだけだからな。もし学園で迷ったら私含む風紀会の者に声をかけてくれ」

作戦成功。これでスキルのことは欠片も覚えていないだろう。これ以上詮索されたら、あまりの背徳感から逃げだしてしまうかもしれない。

「そのときはお願いしますね。学園は広いと言うから少し不安なんですよね」

「ふふ、あそこは広いから私も入学したての頃は迷ったな。聞くところによると迷子で遅刻する新入生が、毎年一人はいるらしい」

ゲームで主人公達は、教室移動に転移魔法陣を利用していた。それから察するに歩いて行くのが億劫になるほど広いのであろう。学園内に研究所だとか闘技場だとか魔法演習場だとかがあるのも理解できる。

サブヒロインの一人は学園で迷いまくっていたが、俺もそうなりそうで恐い。学園内にGPS地図のようなものがあれば良いのだが。

「ところで君の準備は万全か?」

「もちろんです。とはいっても、持ってく物なんてほとんど無いですけど」

必要な教材なんかは学園で配布だし、持って行くとしても筆記用具とストールぐらいだ。制服はすぐに着られるようにハンガーに掛けたし、シュシュッともしてある。

「今年は……色々と楽しみだな」

俺の顔を見つめながら、先輩はそんな事を言う。

「自分もですよ」

剣、魔法、ダンジョン、エロゲ。男の子と紳士が心躍る設定てんこ盛りの世界だ。楽しみがない訳がない。

「先輩、すぐに強くなって追いつくので。置いて行かれるのを覚悟しておいてくださいね」

先輩は俺の顔を見つめていたが、不意に視線を外し苦笑する。

「君には……すぐに置いて行かれそうだな」

思わず首を振る。

『先輩は……今も足踏みなんてしてませんよ。見えないかもしれないですけど、一歩一歩進んでますよ』

そう、伝えたかった。けれど口には出さなかった。今の俺が言うべきことではない。学園に入学して、あの人に会って、確認して、様子を見て、それでもなら、伝えるのがいいだろう。

二人ぼうっと滝を見つめる。打ち付けられる滝とゆらゆら波打つ水面を、昇ってきた太陽の光が反射し、何度もフラッシュをたいているかのようだ。

「ああ、そういえばだが……」

先輩は何かを思い出したかのように、ポンと手を叩いた。

「何でしょう?」

「どうやって心眼スキルを得たのか教えてくれないか?」

俺は立ち上がると先輩に背を向け、思い切り地面を蹴った。

おぼえてたのかよ。