軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12 水守雪音

花邑家に住むことで得られる特典は、花邑親子から魔法を教えてもらえるだけではない。錬金工房だってそうだし、煩わしい門限なんてものもない。

そして重要なこととして、とある場所の開放もある。

「ああ、あの滝ね? 良いわよー使って。あれ……どうしてあそこに滝があることを知ってるの?」

話が追求に変わる前に通話を切る。土地所有者の許可は簡単に下りた。それからすぐにはつみさんの部屋に行くと、ドアをノックする。

「はつみさん、ランニングがてら魔法の練習してきます。夕食前には戻ります」

「……わかった」

はつみさんの部屋からはなれると、余ったお金で買ったランニングシューズに履き替える。最近お金の使い方が荒くなってきたような気がするが、気のせいだとしておこう。先行投資だと思えば良いし、そもそも靴は毎日使う物だし、必要だ。

「よしっ」

下見で少しだけしか見ていない道を、なんとなくで走っていく。おおよその道はあらかじめ調べておいたし、はつみさんに多少案内して貰った。ただ目的地までは案内してもらっていないから、後半は勘で進まなければならないが。

「ふっふっふっふっふっ……」

一定のペースで道を走っていく。コンクリートから砂利へ、そして土へ、そして草むらへ。だんだん人の住む町から離れ、林の中へ入っていく。

家から出て十分程走ったところで、まず音に変化があった。木々のざわめきから、水が打ち付けられる音へ。そして自身が進めば進む程、その叩きつけられる音は大きくなっていった。

たどり着いた場所にあったのは滝だ。

落差は15メートルくらい、幅は30メートルぐらいだろうか。規模は小さく、ナイアガラの滝のような派手さはない。しかし薄く長く伸びたその滝の水は、空からの光を反射してキラキラと輝き、思わず口を半開きにして目を奪われる美しさがあった。慎み深い美と言えば良いだろうか。また滝壺では、高所から打ち付けられた水によって、まるで小規模な霧のように白いモヤが作られている。

思わず見入っていたがすぐに我に返り、目的の場所へ向うため足を動かす。小さな川の縁を歩きながら、滝に近づいてゆく。

滝に近づいて分かったが、どうやらこの滝では角度によって虹が見えるらしい。先ほどは見えなかった小さな虹が、滝をラッピングするリボンのように長く伸びていた。

俺は足場が少し悪いその道を進み、滝の裏に足を踏み入れる。

「っ……」

言葉が出なかった。

それをたとえるなら、水のカーテンだ。

裏から見る滝は、それはもう美しかった。青白く薄い水の幕がかかっており、その先には緑豊かな林に光が差している。風が吹けば木々がまるで泳ぐかのように揺れ、薄緑色の葉がひらひらと落ちていく。

圧倒的であまりにも美しい。見ているだけで心が洗われそうだった。いつまでも見ていたい、そう思える程美しかった。

でも、それ以上に美しいものがそこには居た。

こくり。と唾をのむ。

ひゅぅ、ひゅぅ、ひゅぅ、ひゅぅ。

滝の音でうるさいこの場所に、風を切る音が聞こえる。

視線の先には長刀を持つ一人の女性。その女性は俺がいることに気がついているだろう。しかし、振るう手を止めることはない。水のカーテンをじっと見つめ、ただただ一心不乱に薙刀をふる。そして突く。今度は切り上げる。

実のところ彼女がここに居るかもしれないとは思っていた。主人公が初めてここに来るのは、彼女に案内されるからだ。実を言えばであるが、居ることを期待していたのも事実だ。

なんせ俺が一番会いたかった 女性(ヒロイン) だから。

振るう度に彼女の頬から飛ぶ滴。一体いつから彼女は長刀を振っていたのだろうか。よく見れば彼女の美しい顔には玉のような汗が浮かんでいる。

辺りには絶景が広がっているというのに、彼女から目が離せない。

まるで磨いたオニキスのように美しい光沢のある黒髪、鏡で映し出したかのように均一な顔。まるで妖刀のように怪しく鋭い瞳。どことなく儚さを感じさせるその表情に、思わず吸い込まれそうになる。

大手ゲーム会社が「最高の美少女を、会社の威信をかけて作りました」と言っても「いや、アレは人の手で作れるものではない」と返してしまうだろう。もしこの世界に神が居るのだとしたら、それは目の前に居る。

俺は今もじっと彼女を見つめているが、彼女は反応せず、まるで意に介さない。彼女にとって俺の存在は一考にすら値しない程の小さな異物なのだろう。意識から除外され、まるでそこにある景色の一部のように自然と無視されている。

薙刀をふるう度に舞う黒髪。道着から出た細く白い腕からは、信じられない速度で薙刀が振るわれる。

まぶたを通過する汗をぬぐおうとして、俺の体が小刻みに震えている事に気がついた。それは畏怖からなのだろうか、武者震いなのだろうか、それとも喜びなのだろうか。

多分全てだろう。ただそのなかで一番の感情は、彼女に会えた喜びのような気がする。俺は未だ長刀を振るい続ける彼女をじっと見つめる。

喜ばないわけがない。だってゲーム内で一番俺が心身込めて育てたキャラクターなのだ。戦闘から外すことは一切せず、どんなに不利な条件であろうと出撃させ、数多の強ボス達を屠りに屠ってくれた、俺の最高に信頼しているキャラクター。それが目の前に居る。

そう、いるんだ。現実に。マジエロ三強の一人であり、風紀会副会長であり、水魔法の使い手ゆえ水龍姫ともよばれる、 水守雪音(みずもりゆきね) が目の前に。