軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

反撃の狼煙と希望の灯火

クソみたいな襲撃から一日が経った。

私は巨大な蔦に覆われたマンションの一室で目を覚ます。

固い床のせいで体はバキバキ。でも、意外とぐっすり眠れたみたい。

(……うん。うじうじしててもお腹は減るもんだ)

図書館を失った悲しみ。あの略奪者たちへの怒り。

もちろん、そんなものが消えたわけじゃない。思い出すだけで腹の底が煮えくり返る。

でも、ここで立ち止まったら奴らの思う壺だ。

絶対に生き延びて、いつかあいつらを見返してやる。

そして、もっとすごくて完璧な私だけの城をもう一度作るのだ。

「――挫折を味わった私は強いぞ!」

よし。私は声に出して自分を奮い立たせる。

(……って、声に出してやると、さすがにちょっと恥ずかしいな)

パン、と頬を軽く叩いて気合を入れ直し、すぐに行動開始だ。

固いカロリーバーをかじりながらMPが全快していることを確認。

うん、今日も一日走り続けられる。

私は意を決して隠れ家を後にした。

昨日と同じ。ただひたすらに北東を目指す。

森に還った住宅街を抜けると、がらりと風景が変わった。

錆びついた巨大なパイプラインが蛇みたいに横たわっている。蔦に覆われた工場の骨組みが、まるで墓標だ。古い工業地帯なんだろう。

地面には正体不明の機械の残骸がゴロゴロ転がっていた。時々できている油の混じった水たまりが、嫌な臭いを放っている。

(うわ、何の機械だろ、これ。鑑定しても『用途不明の機械』だし。……もしかして、全自動で無限にポテチとか作ってくれるドリームマシンだったりしない? だとしたら人類にとって計り知れない損失だ……)

私は鼻を覆い、このエリアを大きく迂回しようとルートを探る。

だけど、レベル2になった『気配察知』が、どのルートにも無数のモンスター反応を示していた。

どうやらここは、何かの群れの縄張りらしい。

(……マジか。仕方ない、最短ルートを一点突破!)

私は腹を括り、一番気配の薄いルートを選んで工場地帯へ足を踏み入れた。

息を殺して慎重に進んでいく。

そして、開けた資材置き場みたいな場所に出た、その時。

前方の錆びた鉄骨の山の上に、何かがいた。

全長3メートルほどのトカゲ型モンスター。

陽の光を浴びて、全身が鈍い銀色に輝いている。まるで鋼鉄の彫刻だ。

それが、一匹、二匹……全部で五匹もいる。

【名称:スチール・サラマンダー】【レベル:20】

【備考:全身が鋼鉄の鱗で覆われている。非常に俊敏で、群れで狩りを行う】

(レベル20が五匹。うん、経験値うまうま! でも、あの見た目は絶対厄介なやつだ……)

私がそう思ったのと、サラマンダーたちがこちらに気づいたのはほぼ同時だった。

「シャアアアッ!」

甲高い威嚇音。五匹が一斉に鉄骨の上から飛び降りてくる。

動きが、速い。

(……やられる前に、やる!)

私は先制攻撃として、ファンネルの一本を一番手前の個体めがけて射出した。

黒い杭が一直線に飛翔する。

そして、サラマンダーの胴体に命中した、その瞬間。

――カキンッ!

「うっそ、弾かれた!?ただの硬いトカゲじゃないな、これ」

甲高い金属音と激しい火花。

私のファンネルはあっさり弾かれ、あらぬ方向へ跳ね返っていく。

ダメージは、ゼロ。

サラマンダーの鋼鉄の鱗には傷一つついていない。

私の驚きなんてお構いなしに、サラマンダーたちは速度を緩めない。

それどころか、さっと散開して壁や天井を駆け回り始めた。まずい、私を包囲する気だ。

サラマンダーたちの波状攻撃が始まった。

一匹が正面から突っ込んできたかと思えば、別の二匹が壁を伝って左右から襲いかかってくる。

私は『ショート・ワープ』を駆使して、その猛攻を必死で避ける。

(くっそ、速いし硬いし、連携までしてくるとか! このトカゲ、絶対に性格悪い!)

ファンネルで防御しようにも、奴らの突進が重すぎて受け止めきれない。

ワープでの回避は、確実にMPを消耗していく。潤沢なはずの私のMPが、目に見えてゴリゴリ削られていくのが分かる。

このままじゃジリ貧だ。

物理攻撃がダメなら、どうする?

何か、何か手は……。

その時、私の頭にあの青白いゼリーの塊が浮かんだ。

(……あ、そっか。あれがあった!)

病院で手に入れたレア素材、『腐食のスライムコア』。

鑑定結果にはこうあった。「武具に合成することで『酸』属性を付与したり」。

酸は、金属を溶かす。

これだ。これしかない。

(でも、戦闘中にそんな器用なことできるの!? 私に)

『武具合成』スキルは手に入れたばかりで、工房で試したことすらない。

ぶっつけ本番なんて、うまくいく保証はない。

いや、でも、やるしかないんだ。

私は一つの賭けに出ることにした。

ワープで大きく距離を取り、残った三本のファンネルを自分の前に盾みたいに展開させる。

そして、アイテムボックスから『腐食のスライムコア』を取り出すと、『武具合成』スキルに全神経を集中させた。

(いけっ……! 私のファンネルに、あのいやらしい酸の力を!)

私の意思に応えてスライムコアが淡い光を放つ。その一部が霧になって、ファンネルの一本に吸い込まれていった。

ファンネルの表面がわずかに緑色に光り、先端から、ぽつりと粘液が滴り落ちる。

よし、合成成功!

ちょうどその時、痺れを切らした一匹が防御の壁をこじ開けようと突っ込んできた。

私は、改造したてのファンネルをそいつに向かって突き出す。

「――溶けちゃえ!」

――ジュウウウウッ!

さっきまで私の攻撃をものともしなかった鋼鉄の鱗。それが酸のファンネルに触れた途端、まるでバターみたいに白い煙を上げて溶けていく。

「ギシャアアアッ!?」

サラマンダーが断末魔の悲鳴を上げて崩れ落ちた。

(キタコレ! やっぱり私のスキル構成、天才的!)

私は残りの四匹に向かって、にやりと笑いかける。

さあ、反撃の時間だ。

酸属性ファンネルの一撃で戦況は完全にひっくり返った。

私は残りのサラマンダーを効率的に殲滅し、あっさりと勝利を収める。

【経験値を獲得しました】……

【レベルが上がりました! Lv.24 -> Lv.25】

--------------------------------

汐見 凪

Lv. 25 (+1)

HP: 275/275 (+25)

MP: 2774/2774 (+135)

筋力: 125 (+14)

耐久: 143 (+15)

敏捷: 160 (+16)

器用: 181 (+17)

幸運: 180

(補正値:耐久+158 敏捷+38)

--------------------------------

【Lv.25に到達しました。ボーナスとして、スキルを選択してください】

▼グループB

・魔力付与 Lv.1

・錬金術 Lv.1

・トラップ解除 Lv.1

(またボーナススキルだ)

私は迷わず『魔力付与』を選んだ。

(『武具合成』と絶対に相性いい気がする。もしかしてこれがあれば、スライムコアみたいな素材を消費しなくてもMPだけで属性を付与できたりするんじゃ……?)

だとしたら、とんでもない大当たりスキルだ。

よし、これでまた強くなった。

私は満足感と共に、戦利品の回収へと向かった。

サラマンダーたちが消え去った跡には、鈍い光沢を放つ『鋼鉄の鱗』が何枚も落ちている。

【名称:鋼鉄の鱗】【等級:アンコモン】

【備考:軽量でありながら鋼鉄と同等の硬度を持つ特殊な鱗。物理防御の高い防具の素材になる。熱伝導率が低く、耐火性にも優れる】

私は笑みを浮かべながら、それらを丁寧にアイテムボックスへしまった。

戦闘で消耗したので、工場の影で少し休む。今日の戦いを振り返った。

窮地に立たされたことで、思いがけず『武具合成』を戦闘中に応用する、新しい扉を開けた。

そして、この『魔力付与』スキル。

もし私の想像通りなら、レア素材を消費せずMPだけでファンネルに属性をまとわせられるかもしれない。

それは、ただレベルが上がったってだけじゃない。

知恵と機転。そして何より、「やってやる」っていう強い意志。

図書館を失って、私は一度全てをなくした。

でも、だからこそ、もう一度手に入れるものの価値が前よりもずっと鮮明に分かるんだ。

日が暮れ始め、空がオレンジ色に染まる頃。

私は索敵と見晴らしを兼ねて、近くにあった半壊した電波塔に登ることにした。

錆びて崩れかけた鉄骨の階段。だけど私の敏捷性なら、まるで平地みたいに軽々と駆け上がっていける。

やがて、塔の頂上、風が吹き抜ける展望デッキへたどり着いた。

そこから見た光景に、私は思わず息を呑む。

見渡す限り、緑。緑。緑。

夕日に照らされた広大な樹海が、どこまでも続いている。

かつてここがビルや家々がひしめく巨大な都市だったなんて、到底思えない。

(……綺麗だな)

疲れ切った目で、私は北東の地平線を見つめた。

明日はあっちの方角へ進む。あと、どれくらいかかるんだろう。

そう思いながら、ぼんやりと地平線を眺めていた、その時だった。

最初は、夕焼けの光が何かに反射してるだけかと思った。

地平線の本当にギリギリのところに、小さな、小さな光がまたたいている。

一つじゃない。

私は逸る心を抑え、双眼鏡を目に当てた。

レンズの向こう。夕闇に沈みかけた地平線に、それは確かに存在していた。

巨大な壁に囲まれた、一つの街。

そして、その内側でいくつもの灯りが、まるで人の営みの暖かさを伝えるように力強く輝いている。

それはただの廃墟の明かりじゃない。

生きている街の光だ。

「……あった。」