軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

再会は、最悪のタイミングで

――キン。

澄んだ最後の金属音を合図に私はようやくハンマーを置いた。

窓のない地下工房には時間の感覚がない。

でも壁にかけた時計の針はもう朝の七時を指していた。

どうやら本当に夜通しの作業になってしまったらしい。

「できた……!」

私の目の前には五本の黒く美しい鉄の杭が並んでいた。

昨日一本だけ作った試作品と同じ三十センチほどの長さ。無駄を一切削ぎ落とした、ただ貫くためだけの形状。

私の初めての専用武器。『マインドジャベリン』部隊。

「ふふっ。なかなか壮観じゃないの」

私はその光景に思わず笑みを浮かべる。

これこれ、この感じ。徹夜で最高のシーンが書けた時のあの、世界を征服したみたいな気分。作家やってて一番好きな瞬間だ。まさか鍛冶で味わうことになるとは思わなかったけど。

体は泥のように疲れているしMPもかなり消耗してしまった。でも気分は最高だった。

私はその五本のジャベリンをアイテムボックスへと丁寧に収納した。

「でも、ぶっつけ本番はさすがに怖いな」

MPを回復させた私はいつもの「試射場」へと向かう。

地下書庫の一番奥。そこには先日鉄槍の的になって真ん中に大きな風穴が空いた鉄板が相変わらず立てかけてある。

私はその鉄板を新しい的に見立てた。

私は息を吸い込み意識を集中させた。

アイテムボックスから五本のジャベリンを同時に取り出す。

そして『マインド・バレット』で掌握する。

「うっ……!」

ずしりと脳に確かな負荷がかかる。

一つの物体を操るのとはわけが違う。五つの別々の存在を同時に意のままに動かす。

まるで今まで使ったことのない筋肉を無理やり動かしているみたいだ。

ジャベリンたちが私の周囲をおぼつかない様子でふらふらと浮遊する。

でもすぐに慣れてきた。

お、だんだん言うこと聞くようになってきた。スキルレベルが上がったおかげかな。いいぞいいぞ。私の可愛いファンネル部隊。

私の思考とジャベリンの動きが滑らかにリンクしていく。

右へ左へ。上昇、下降。

まるで私の手足の延長のように。

「うん、これならいける」

狙いは壁際の鉄板。

「――いけ」

私の意思に応え五本のジャベリンが一斉に射出された。

ヒュンッ!という飛翔音が五つ重なる。

そして。

ズドドドドンッ!!!

凄まじい轟音と共に鉄板が原型を留めないほどズタズタの鉄屑へと変わっていた。

その圧倒的な制圧力に私はごくりと喉を鳴らす。

「よし。これなら文句なし」

私は壁に突き刺さったジャベリンを回収し再びアイテムボックスへと収納した。

武器はできた。体調も万全。

「忘れ物、取りに行きますか」

私は全ての準備を終え『隠密』スキルを発動させた。

『隠密』スキルは想像以上に便利だった。

自分の足音がほとんど聞こえない。風になったみたいに気配が希薄になる。

これならそう簡単には見つからないはずだ。

私は町の地理をもうほとんど頭の中に叩き込んでいた。

昨日あの戦闘現場から逃走する際に無我夢中で駆け抜けた道筋。それを逆から辿っていく。

よしよし、いい感じ。このまま誰にも見つからずにささっとお宝だけ回収して……。

完璧なステルスミッションじゃないの、これ?

時折遠くにモンスターの姿が見えたが、向こうがこちらに気づく様子はない。

私は慎重にしかし着実に目的地へと近づいていく。

そして出発してから十分ほどが経った頃。

私はあの忌まわしい記憶の残る路地裏へとたどり着いた。

そこは戦闘の爪痕が生々しく残っていた。

メタルマンティスが暴れたせいで壁は崩れアスファルトは抉れている。

怪物の死体はもう跡形もなく消え去っていた。

私は物陰からそっと辺りを窺う。

……ない。

昨日そこにあったはずのきらきらと光る宝箱が。

「やっぱり持って行かれたか」

まあ当然か。あんな目立つものがいつまでも残っているはずがない。

少しだけがっかりしたがまあ仕方ない。元はと言えば私がビビって逃げ出したのが悪いんだし。

気を取り直して私は本来の目的のブツを探す。

あった。

路地の奥。壁際に見慣れた一本の鉄の棒。

私の『手製の鉄槍』だ。

よかった。こっちはまだ残ってた。

私は『隠密』スキルを維持したまま音もなく路地の中へと足を踏み入れた。

周囲に人の気配はない。モンスターの気配もない。

大丈夫。いける。

私が地面に落ちていた鉄槍をそっと拾い上げようと、その冷たい鉄に指先が触れた、その瞬間。

「――待ってくれ」

私は心臓が喉から飛び出しそうになるほどの衝撃にビクッ! と体を硬直させた。

声は路地の入り口の方からだ。

私がぎこちなく振り返ると。

そこには三人の男たちが立っていた。

昨日私が助けて、そして逃げ出したあの三人組。

彼らは武器を手にしている。でもそれは私に敵意を向けているというよりは、いつでも何にでも対処できるようにという警戒の構えだった。

リーダー格の男がゆっくりとこちらに一歩足を踏み出す。

その目……昨日みたいにただ怯えてるだけじゃない。

なんだろう、値踏みされてる? 厄介なモンスターかあるいは便利なアイテムみたいに…?

「やっぱり戻ってきたな。その槍、あんたのだったのか」

男の言葉に私は何も答えられない。

ただフードを目深にかぶり俯くだけ。

男はそんな私を見てやれやれと小さく息を吐いた。

「顔を上げてくれ。俺たちはあんたに危害を加えるつもりはない。ただ話がしたいだけだ」

その意外なほど穏やかな声に私はおそるおそる顔を上げた。

そして初めてまともに彼らの顔を見る。

三人の視線が私に突き刺さる。その目に浮かんでいるのは警戒と、そして隠しきれない驚きの色。

そうだ。

彼らからしても、私が敵かどうかもわからない。

それに、昨日のモンスターを一撃で葬り去った「何か」の正体が、こんなただの引きこもり上がりの女だなんて。

彼らの戸惑いは無理もないことだった。

気まずい沈黙が流れる。

その沈黙を破ったのは三人組の中で一番若そうに見える茶髪の男だった。

「マジかよ。昨日のはあんたが……? こんな女の子が一人で……?」

その声には明らかに警戒とは違う響きがあった。

男は私の顔をまじまじと見つめてくる。

「っていうか、結構美人じゃね……?」

リーダー格の男が即座にその茶髪の男の頭を後ろからバシン! と思い切りひっぱたいた。

「馬鹿野郎! 口を慎め、タツヤ!」

「いって! だって本当のことじゃんか、シュウイチさん!」

タツヤと呼ばれた男が頭を押さえながら抗議の声を上げる。

シュウイチと呼ばれたリーダーは深くため息をつくと改めて私に向き直った。

……なんだこの茶番。というかこの人たち意外と普通だな。もっとこうヒャッハーな感じかと思ってたのに。このやり取りを見てると私の緊張がほんの少しだけ馬鹿らしくなってきた。

「すまない。うちの馬鹿が失礼なことを言った」

そのあまりにも人間味あふれるやり取りに私の緊張はほんの少しだけ解けていた。

この人たちもしかしたら悪い人じゃないのかもしれない。

でもだからこそ困る。

男がまっすぐに私を見る。その目は本気だ。

「改めて頼む。少しでいい。俺たちと話をしてくれないか」