軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ホームセンターの徘徊者

割れたガラスの向こうは深淵のような闇だった。

私は一度立ち止まり静かに耳を澄ませる。風の音以外何も聞こえない。

よし。

「……お邪魔します、と」

私は誰に言うでもなく呟き、ホームセンター本館へとその一歩を踏み出した。

中はひんやりとした独特の匂いがした。金属と木材、そして一か月分の埃が混じった匂い。

スーパーマーケットとはまた違う巨大な倉庫のような空間。高い天井まで商品がぎっしりと詰まった棚が迷路のように続いている。

ここでも私は慎重に行動した。

ガーデニングエリアでの一件で私は学んだのだ。この世界のモンスターは真正面から殴りかかってくる奴ばかりじゃない。

私は棚を壁にするように息を殺しながらゆっくりと奥へと進んでいく。

今日の目標は釘やボルトといった金属製の「弾丸」の確保。それらはたぶん資材館のエリアにあるはずだ。

――ガコン。

不意に店の奥から金属質な音が響いた。

「!」

私は咄嗟に一番近くの棚の陰に身を隠す。

心臓がドクンと跳ねた。でも不思議とパニックにはならなかった。

大丈夫。見つかったわけじゃない。

私は棚の隙間からそっと音のする方角を窺った。

それは資材館へと続く広い通路の真ん中にいた。

「…………なんだ、アレ?」

人型ではある。

でもその体は鉄パイプやトタン板、錆びついた工具なんかがごちゃごちゃと組み合わさって出来ていた。まるで子供が作った出来の悪いガラクタのロボットだ。

身長は三メートルほど。ぎこちない動きで通路をゆっくりと巡回しているらしい。

ガコン、ガシャン。

一歩歩くたびにその体から不快な金属音が鳴り響く。

【名称:ジャンク・ゴーレム】

【レベル:11】

【備考:物理的な攻撃に、高い耐性を持つ】

レベル11。今の私より二つも上か。

しかも物理耐性が高いと。

全身金属の塊なんだ。生半可な弾丸じゃ傷一つつけられないかもしれない。

……なるほど。これはホブゴブリンとはまた別の意味で厄介な相手だ。

でも動きは明らかに鈍い。

あれならたとえ見つかっても距離を取るのは難しくない。

勝機はある。

私は静かに後退した。

戦うにしてもまずはもっと情報を集めてからだ。

奴の弱点はどこか。

そしてこのホームセンターには奴を倒せるだけの「武器」があるのか。

私は音を立てないようにその場を離れ、別の通路から資材館の探索を開始した。

あのガラクタの巨体をどう攻略するか。

私の頭はここ数日では考えられないほど高速で回転していた。

答えはシンプルだ。

「一点集中」。そして「貫通力」。

ゴーレムの体を構成しているガラクタの隙間。あるいは動力源となっているであろう 核(コア) 。

そこをピンポイントで重くて硬くて鋭い何かで撃ち抜く。

「……武器というか、弾丸探しだな」

私はジャンク・ゴーレムが巡回している通路を避け、別のルートから資材館の奥へと進んでいった。

目指すはネジや釘、工具なんかが売っている金属製品コーナーだ。

そこはまさに宝の山だった。

壁一面に大きさや種類の違うネジやボルト、釘の箱がずらりと並んでいる。

「……これだ」

私はその中から一番殺傷能力の高そうな十センチほどの長さがある釘の箱を手に取った。

これなら鉄パイプより小さくて鋭くて数もある。

私のスキルに最適な「弾丸」だ。

私は釘の箱をアイテムボックスへと次々と収納していく。

「鑑定」

【名称:コンクリート釘(50本入り)】

【状態:新品】

【備考:硬い。よく飛ぶ。よく刺さる】

「……うん、頼もしい備考だ」

これでザコ相手ならもう弾切れの心配はないだろう。

でもあのゴーレムを倒すにはまだ足りない。

もっとこう、一撃で全てを粉砕できるような圧倒的な「質量」。

私は工具コーナーへと足を運んだ。

ハンマー、スパナ、バール。魅力的な「弾丸」候補が棚に並んでいる。

その中でもひときわ私の目を引いたのが、一番下の段に置かれていた巨大なハンマーだった。

スレッジハンマー。いわゆる大槌だ。

これなら……。

私がその大槌を手に取ろうとしたその時。

棚の奥、他のハンマーの陰に何か黒光りする別の槌が隠れているのが見えた。

「ん?」

なんだろう。

私は他のハンマーをどけてその黒い槌を手に取ってみる。

ずしりと、見た目以上に重い。デザインも普通の槌とは少し違っていた。

【名称:解体の鉄槌】

【等級:レア】

【状態:良好】

【効果:構造物、及び、無機物タイプのモンスターに対し、与えるダメージが中上昇する】

レアアイテム?

こんなホームセンターの棚の奥に?

これも幸運のおかげなんだろうか。

もはやちょっと怖いくらいだ。

「……でも」

私はその黒い鉄槌をぎゅっと握りしめる。

これ以上ないほどの「武器」が手に入った。

これがあればあのゴーレムに勝てるんじゃないか?

私はもう一度ジャンク・ゴーレムがいた通路の方角を静かに見据えた。

恐怖はもうない。

準備は整った。

私は棚の陰から静かに黒い鉄槌――『解体の鉄槌』を宙に浮かび上がらせた。

ずしりとMPが持っていかれるのが分かる。鉄パイプとは比べ物にならない質量だ。

でもこれなら。

私がその存在に気づいていることなど知る由もなく。

ジャンク・ゴーレムは相変わらずガコンガシャンと通路をゆっくりと巡回している。

――今だ!

私はゴーレムのその巨大な胴体のど真ん中めがけて。

『解体の鉄槌』を撃ち出した。

ゴオオオオッ!!

空気が唸る。

鉄槌は小型の砲弾と化しゴーレムの体に吸い込まれていった。

――ガッッッッキイイイイイン!!!

鼓膜が破れそうなほどの凄まじい金属音。

ゴーレムの胴体は大きくひしゃげ、胸のあたりに取り込まれていたトタン板や工具が派手に吹き飛んだ。

巨体がぐらりと大きくよろめく。

よし! さすがはレア武器!

そう思った次の瞬間。

私は信じられない光景を目にした。

――ギギギ……ガシャン!

ゴーレムが床に散らばった金属の破片や棚の残骸を、その体へと吸い寄せ始めたのだ。

そしてさっき私が破壊した胸のあたりがみるみるうちに修復されていく。

「回復すんのかよ!」

まずい。

こいつはただ硬いだけじゃない。自己修復機能まで持っている。

並の攻撃をだらだらと続けてもMPが尽きるのがオチだ。

でも。

私は見逃さなかった。

奴が体を修復したほんの一瞬。

ひしゃげた胸の装甲のその奥で、青白い光が心臓のように明滅していたのを。

「……あれが、コア?」

間違いない。あそこが弱点だ。

でも分厚いガラクタの装甲に守られていて外からは狙えない。

どうする?

もう一度鉄槌を叩き込んで装甲をこじ開ける?

いや、何度も繰り返してちゃ、MPがもたない。それに一度警戒されている。次同じ手が通用するとは限らない。

――ガコン!

ゴーレムがこちらを認識した。

そのレンズのようにも見える二つの光が私を捉える。

巨体がぎこちなく、しかし確かな殺意を持ってこちらへと向き直った。

「!」

私は咄嗟に通路を逆方向へと駆け出す。

背後でゴーレムが腕を振り回し棚をなぎ倒す破壊音が響く。

私は別の通路へと逃げ込み息を殺した。

作戦を立て直さないと。

コアを直接叩く。

そのためにはまず、あの分厚い装甲をどうにかして剥がす必要がある。

『解体の鉄槌』ならそれができる。でもMP消費が激しすぎる。

「……そうだ」

私にはもう一つの「弾丸」がある。

私はアイテムボックスからコンクリート釘の箱を取り出した。

そしてその中の一本をそっと浮かび上がらせる。

作戦決定。

私は棚の陰からわざと姿を現した。

ゴーレムが私に気づき再び突進してくる。

私はそれと同時に隠し持っていたボルトを、ゴーレムの足元めがけて撃ち出した。

ガッ!

ほんのわずかな衝撃。

でもバランスを崩すには十分だった。

巨体が前のめりに大きくよろめく。

胸のコアががら空きになる。

――ここだ!

私は浮かせておいたコンクリート釘を、その青白い光の中枢めがけて。

精密に正確に撃ち出した。

――カシュッ。

小さな音。

釘は寸分違わずコアのど真ん中に突き刺さった。

途端に。

ゴーレムの全身から光が消える。

巨体を構成していたガラクタ同士の繋がりが失われ、その体は大きな音を立てて床に崩れ落ちた。

残ったのはただの鉄くずの山だけ。

「…………はぁー……っ」

私はその場にへたり込んだ。

勝った。

今度は知恵と技で勝ったんだ。

【経験値を獲得しました】

【レベルが上がりました! Lv.9 -> Lv.10】

【モンスターのレアドロップを確認しました】

私は鉄くずの山の中に何か青白く光る小さな塊が落ちているのを見つけた。

あれがさっきのコア。

そしてレアドロップ。

私は自分の成長を確かに実感していた。