軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

終幕  童話〜大聖女ルチアーナの物語〜

大聖女の没後から約500年後。

帝都の屋敷の中で夜も更けた頃にパタパタと足音が響く。

廊下を駆けて来たのはこの家の長女だった。

愛犬を伴って両親の部屋へと勢い良く押し入る。

「お父様、お母様、寝る前にご本読んで‼︎」

多少びっくりしながらも両親は娘を自身の寝所へと招き入れる。そして少女の抱えて来た本を手に取る。

「あらあら、しょうがないわね。こっちにおいでなさい。

さて、何のお話がいい?『欲張りな王様』にする?それとも『罪滅ぼしの死ねない剣士』がいいかしら?」

ベッドの上に横になっていた両親の間に娘はもぞもぞと潜り込み、母を見上げて言った。

「わたし、大聖女様のお話がいい!」

母親は優しくフフフッと笑う

「貴女は本当にこのお話が好きなのね。

いいわよ、昔々…」

娘の頭を撫でながら母は本を開き語り始める…

〜大聖女ルチアーナの物語〜

昔ある貴族の家に姉妹がいました。

2人は美しい娘に育ちました。

しかし、姉は自分よりも美しく、優しく、皆に愛される妹の事が嫌いでした。

姉に唆された両親や兄弟は次第に妹を虐げるようになりました。

それでも妹の心根はとても優しく清廉でした。

大きくなった2人はそれぞれが別の道に進む事になりました。

特別な力のあった姉は王様の命を受け王子様の元に嫁ぐことになりました。

妹が王子様を好きな事を知っていた姉は、色々な人に頼んでその婚約を手に入れました。

妹は女神様の助けになるために女神の花園へと務めに行く事にしました。

妹は本当は王子様が好きでしたが王様の命に逆らえるはずもなく、自分が王子様の隣に居られないのが悲しくて、憧れの女神様のお手伝いに行く事で己を慰めたのです。

妹のルチアーナは女神様のお手伝いを沢山しました。

人の国の大きさが変わればそれを知らせて大きな結界をはってもらいました。

お手伝いする乙女達が長い時間お手伝いをするのは大変だからと短くするようにお願いもして叶えて貰いました。

ルチアーナの国にしか無い病気を患う人が居ないようにするお手伝いもしました。

そのかわりにとルチアーナはとても一生懸命に女神様のお手伝いをしました。

その頃、他の家族はルチアーナが家族の元を去ってしまった事をとても悲しみました。

しかしそれは自分達の行いが良くなかったからなのだと反省し、ルチアーナが女神の花園から帰る日を罪の意識と共に待ち続けました。

一方で姉は嫁ぐ寸前で病を患いそのまま神の国へと旅立っていってしまいました。

最後に王子様に「貴方が本当に好きなのは妹のルチアーナだと私は知っているわ。だからあの子の側にいてあげて下さいな」と言い残して…

実は王子様は昔から神の手伝いをするルチアーナが好きだったのです。

王子様は神父として神様のお手伝いをするようになりました。

そして女神の花園でのお手伝いをルチアーナが終えるその日まで待ち続けました。

ルチアーナが女神様のお手伝いを終えて帰ってきたのはとっても長い時間が過ぎてからでした。

王様はルチアーナのやり遂げた事がとても良い事だったのでルチアーナに大聖女の称号を与えました。

そして、王子様はルチアーナの事を待っていました。ずっとずーっと待っていました。

こうして大聖女ルチアーナと元王子様は結婚し、幸せに暮らしましたとさ。

おしまい

母親が本を閉じるが、娘の反応はない。

「あら…この子ったら寝ちゃったわ」

横を覗き込めば愛娘は穏やかな寝息をたてている。

「ワン‼︎」

急に今まで足元で大人しくしていた愛犬が動いたご主人様に遊んでもらえると思ったのか吠える。

「フレット、駄目だぞ…ステラが起きちゃうじゃないか」

父親が慌ててベッドからおりて愛犬を嗜めた。愛犬は怒られたのが分かったのか耳と尻尾をしょぼくれさせる。

「アーサー、フレットもまだまだ子供で遊びたい盛りだからしょうがないわ」

「スピカ、それは分かっているけど…私達の天使が起きちゃったら可哀想じゃないか…」

「えぇそうね、叱ってくれてありがとう」

そう言って回り込んできた旦那の首に腕を回し感謝のキスをする。

「明日は久々の休みだからカインもアレクも学園から帰って来るだろ?皆で郊外までピクニックにでも行こうか?」

「それはいいわね、ステラもフレットもきっと大はしゃぎよ!父様と母様にも声をかけようかしら」

夫妻は静かに笑い合う。そして2人で娘を覗き込む。

「おやすみなさい、愛しいステラ。良い夢を」

娘の寝顔はとても幸せそうだった。

この国にもう結界はない。

50年ほど前に世界中との和平が成立し永世中立国となったこの国は、世界にその意思を示す為に初代様の御霊を天へと返したからだ。

故にもう結界の乙女達はいない。

大聖女の物語も御伽噺となった。

この童話にスピカの苦悩や葛藤は記されていない。

エメンタール家の惨劇や後悔の先も記されていない。

そこにあるのは只々彼女が幸せな余生を過ごした事実のみである。

―Fin―