軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

スピカの問い合わせ

帝都のエメンタール邸にその手紙が着いたのはスピカが配達を願い出たその日のことだった。

2匹のケルピーを囲うのは2本の麦の穂。2本交差する茎の中央に丸い真珠の意匠の封蝋はスピカの物であると屋敷のものならば誰もがわかる。

久しぶりの手紙を受け取ったのは家令のウェイバーだった。

宛先は両親となっているので本日は奥様がご在宅と銀の盆に他家からの手紙と共に夫人の部室へと向かう。

「奥様、お手紙をお持ちしました。本日は公爵家から1通、侯爵家から2通、伯爵家から5通、子爵家から5通、男爵家から3通のお手紙が届いております。

奥様宛とステラお嬢様宛ですね。あと、スピカお嬢様からのお手紙も届いておりますよ」

「あら、スピカからだなんて久しぶりな気がするわ。最近あの子ったら全然連絡してくれないんだから…反抗期かしら。それにしても社交のお誘いが多いわね…目を通すのも一苦労だわ」

夫人はそういうと手紙の束を受け取る。

「一応目は通すけれどお断り出来ない家以外は今はまだお受けする余裕がないわ。今回は伯爵家以下はお断りの手紙を準備しておいて頂戴。あと、今日はステラの制服の採寸にマダム・ポリーをお呼びしていますから着いたら知らせて頂戴ね。」

家令は心得て御座いますと小さく腰をおる

ビオレは手紙を取り敢えず開けては読み進める。

何通目かの手紙で一度読む手が止まる。

あらやだ…これは社交のお誘いじゃなくて釣書じゃない…まったく!今後はこういう事も増えるわね…スピカは皇子の婚約者候補になってからこの手のお誘いは殆どなかったからドキドキしてしまうわね…

手元に戻ってきたばかりの娘がまた遠くに行ってしまうのを考えて夫人は暗い気持ちになる

その後も手紙を読み進め、最後に残ったのはスピカからの手紙である。

その手紙には不思議な事が書かれていた。

「ねぇ、ウェイバー?私使用人全員にステラの入学の周知をお願いしたわよね?皇后陛下主催のお茶会で入学を早めるようにとお言葉があったからと」

「はい、奥様。先日使用人の打ち合わせの際に全員に周知して御座います。領地の方にも定期報告の便で伝わっているかと存じます」

「では何故スピカに伝わっていないのかしら…スピカの侍女だけ聞いていなかったのかしらね」

「恐れながらスピカ様に侍女はついていらっしゃらなかったと記憶しておりますが…」

「そんなはずないわ。だってあの子は入寮の時に専属の侍女を連れて行くといっていたのよ?あなたの記憶違いじゃなくて?」

「はぁ、確認いたします」

「いいわ。それよりも侍女1人御せないようで皇室の女主人なんて務まらないでしょうに…。まったく、第3皇子の候補者で最有力と言われていたエリザベート公女が東国へと輿入れが決まってあの子が最有力候補だと言うのに自覚がたりないのね…情報が行っていないのもあの子の指導不足もあるのだからしっかりとするように檄を入れなければね」

夫人はそう言って筆を取る。後ろに控えるウェイバーが暗い顔であるのに気付きはしなかった。

〜愛しの娘スピカへ〜

日々の勉学に忙しくしているの理解しますが、もう少しお手紙をくれても母は良いと思いますよ?

家族は貴女からの連絡が少なくて寂しい思いをしております。

問い合わせにあったステラの入学は家では周知済みの事柄です。侍女から何故報告がいっていないのか疑問です。侍女の1人や2人しっかりと御せないようでは嫁いだ後立派な女主人になれませんよ?その辺りの指導もしっかりと受けていると母は思っていただけに残念です。

それに家族の窮地を支えるのは家族の矜持でしょう。しっかりとステラのサポートを頼みましたよ。

あとはもう少し帰ってくる頻度を上げる事は出来ないかしら?今からステラをもっと知らなければサポートもスムーズにいかないでしょ?これを機にやはり家から通う事は出来ないかしら?いつでも待っていますよ

ステラの教育状況も帰ってくれば自然にわかる事柄ですが、取り敢えず別紙にどこまで教育が進んでいるかは記しておきますから参考になさい。

貴女の母 ビオレ・フォン・エメンタール

そしてケルピーを菫の花が囲う自身の封蝋をしっかりと押した

アリッサがその手紙を受け取ったのはエメンタール夫人が手紙を手にした日と同じ日だった。

しかし日もとっぷりと暮れた深夜の事でした。

ステラの湯あみと着替えを終え、マッサージまで施してからヘトヘトになりつつ自室へと下がるとデスクの上に手紙があったのです。

見慣れた筆跡は敬愛する前の主人であり友であり幼馴染のもので間違いありません

スピカ様からのお手紙なんて何事かしら…

急いでペーパーナイフを引き出しからひったくると直ぐに開封し読み始めます。

アリッサの表情は初めこそ不安を浮かべていましたが次第に険しいものにそして呆れの表情に変わっていきました

「なんて事…まさかこんなにスピカ様に家の事情が伝わってなかったなんて…早く知らせて差し上げなければ大変だわ」

そして夜分ではあったが急いで手紙を書き出した。

時系列で皇后陛下とのお茶会のあった日以降の社交やお会いした人の名前は思い出せるだけ書き出した。

社交後のステラの機嫌も書き加えておく。ステラは上流貴族に憐れまれる様な社交よりも下級貴族から憧れの眼差しを向けられる方が好きだ。

それと、食事の好みや服飾の趣味、事細かいが書き連ねてゆけば手紙はかなりの厚みを持っていた。

そして最後にスピカの身を案じる言葉を書き添える。

ベットに潜り込んでもあと寝ていられるのは数時間だろうとは思ったが、それでも構わない。やり遂げた心地よい疲労にアリッサは身を委ねた。

アーサー皇子が手紙を開いたのは届いてから4日は過ぎていた頃のことだった。

定期視察で遠くはない直轄領へと赴いていたためだ。

雑多な書類や社交への招待の中に埋もれる様にある優しい色合いの封筒はケルピーに麦の穂の封蝋。今や婚約者候補筆頭となった女性からのものだ。

中身は今話題の女性である彼女の姉、ステラ嬢と皇后陛下並びに皇子の母である皇妃の茶会についてのことだった。

皇后と皇妃が奇跡の令嬢見たさにお茶会を催す事は知っていた。そしてエメンタール家からも参加了承と3人で登城すると返事をもらった所までは聞いていた。てっきり彼女達とその母の3人だとばかり思っていたがどうやら違ったらしい。

更に言えば、自分は女性の社交である茶会には殆ど出席しないので教えて欲しいと言われても書けることは殆どない。

ましてや最近は春麦の収穫期とあって視察に忙しくしており城は離れていた。

素直にそれを書くのも忍びないが致し方ない…

何度か迷った挙句ではあったがアーサーは手紙を書き上げた。

〜愛しのスピカ嬢へ〜

前の手紙の返事もまだだったのはすまなかった。

問い合わせのあった件だが私では力になれそうもない。城を空けている間の会だったので詳細も聞いていないんだ。

力になれず不甲斐ない。てっきり君も参加するものと思っていたんだよ。

近く時間を取るので君の提案通り久々に学園でお茶を楽しみながら会えたらと思う。時期としては多分来月の初頭になるかな。その時にでもゆっくりと語り合おう。

アーサー

それぞれの手紙をスピカがどんな思いで受け取っていたのかを知るものはいない