軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アレク視点 新たな妹

それは唐突な知らせからだった。

誘拐された妹が見つかったとの知らせを受けて両親は国外まで迎えに行った。

正直成人を迎えて数年した私には困惑しかなかった。

とうの昔に本当の妹は死んだものと思っていたし、視力が日に日に落ちる自分が見て本当に妹と思えるのかが不安だった。

他の兄弟達は一様に喜んでいたと思う。

スピカも本当の娘が見つかったと喜ぶ母と一緒に涙していたくらいだ。

素直に喜べない自分を見られたくなくて私はしばらく仕事に逃げていた。

しかしながらそれは杞憂だった。

初めての顔合わせの時に感じたのは僕に似ているという直感だった。

顔をよく見たくなってお願いすれば鼻がぶつかるんじゃないかという距離まで顔を寄せられた。

正直驚いたが不思議と嫌な気持ちにはならなかった。

僕は余りにとっぴな事に声をあげて笑う。微かにのぞいた紫の瞳はなんとなくだが母を想わせる。

多分この子は妹なのだと漠然と感じたのだ。

その後の両親のスピカに対する対応に些かの不快感を覚えたが長旅の事や今までの心労もあっての事と思いそっとする事にした。

それよりも肺を患っているというステラの事が気になって診察が終わる頃合いを見計らって僕は見舞いに行った。

元はスピカの部屋だったそこは主人を変えられても変わる事なく僕を迎え入れる。

「あら、アレクお兄ちゃんじゃない!どうしたの?」

ステラはあっけらかんという。

「どうしたもこうしたも、ステラが病を患っていると聞いて見舞いに来たのさ」

といいつつ花束を手渡した。

彼女は「ありがとう!」と言って抱きかかえているようだ。

中に入ってと促され僕は自分のいつもの定位置である窓辺の円卓に腰掛ける。

「アレクお兄ちゃんは視力が弱いと聞いていたけれど全然普通に生活できるのね!」と驚かれた。

「あぁ、まだ視力は完全に消失した訳ではないから今はとても目が悪い人くらいに思ってくれればいいよ。それに長年暮らしてる家だから殆ど不自由なく歩き回れるさ」

「そうなんだ〜。あっ、気を悪くしたならごめんなさい!私考えなしに口にしてしまうってお母さんから怒られたばかりなの…貴族的じゃないからこれからお勉強だそうよ〜」

ステラはいつのまにか対面の席に座っていたらしくやれやれと言った様子だ。

僕は苦笑してやり過ごす。平民育ちは変えようがない事実なのだから…

「それにしてもお貴族様って色々と面倒なのね…それに病気の事もそうよ!お兄ちゃんとは違って何度か治癒魔法をかければ完治するってお医者さんも言ってたのになんだか同情的でさ…平民だった時には治癒魔法なんてとんでもなくお金がかかるから受ける事も出来ないって諦めてて、今度は貴族になったから直ぐに受けられてラッキーって感じなのに…私が欲しいのは同情や憐れみじゃないわ‼︎お兄ちゃんなら分かってくれるでしょ?私の気持ち!」

直ぐに返事はできなかった。ステラの正直すぎる思いに僕は何度も反芻する。

確かにそうだ。僕が欲しいのも憐れみや同情では無い。病気になった事は仕方がないと自分自身諦めている。だからこそ欲しいのは共感だったと気付いたのだ。

「…そうだな…そうだよな…僕たちが欲しているのは同情なんかじゃない‼︎あぁ、この気持ちに気づかせてくれてありがとう、ステラ 」

そういうとステラはやっぱりお貴族様は大変なのね、素直になれないなんてと今度は苦笑してみせた。

その日の夕食にスピカは遅れてやってきた。

いつもなら来るはずの時間に来ないのでどうしたのかと思えばステラが「ここに来る前にスピカの所に寄ったのだけれど返事もしてくれなかったわ…私が部屋を使ったから…嫌われちゃったのかな…」としゅんとした様子で言った。

その後「私は気にしてないのよ!だからスピカの事は叱らないであけてね…まぁ、私が言わなくても大丈夫だと思うけどね」とおどけてみせる。

スピカが今まで夕食に遅れてきた事はない。

今まで拗ねてもこんなにあからさまな事がなかった子だけに最近は大人になったと思いつつも子供っぽい一面があるのだなと新たな発見をした気持ちだった。

しばらくして遠慮気味なノックが聞こえた。

談笑中で他の家族は聞き逃したかも知れない。ドアを開けるように頼もうかと思った時にもう一度、先ほどよりも少しだけ大きなノックが聞こえた。

出迎えに向かったのはフレットだった。いつもより口調が厳しく、まるでスピカを責めるようだった。

まぁ、家族としてステラが悲しい思いをこれ以上するのは見過ごせないのだろう。

フレットはなんのかんの言っても騎士なのだ。今もいつもの席を離れてステラの隣を守るように席に着いている。

そしてスピカは僕の隣の席だ。少し嬉しくもある。いつもは対面の席にだったがこれからはこの席順が定位置になるだろう。

また食事が再開される。

丁度魚料理が出されたタイミングで横からスピカが魚用のナイフを寄せてきた。取りやすいようにとの配慮だろうがなんだかその行為が癪にさわった。いつも他所の晩餐に誘われた時などにもそっとサポートしてくれるスピカのその行為が同情や憐れみに感じたのだ。

「これ見よがしに僕を病人扱いしないでくれ。」といってカトラリーをひったくる。

スピカは戸惑いを隠せない様子だったが直ぐに取り繕って食事を続けていた。

チクリと胸が痛んだがこれ以上の同情は望んでいないとのアピールは大切だったのだと自分を納得させた。

その後もスピカは拗ねているのかステラとの仲はなかなか良くならないようだった。

そしてステラが来て1月ほどで家を出て寮生活を始めてしまった。

家に帰ってくる頻度も月に3度ほどと少なくなったのが残念だが学園生活が充実しているのだろうと微笑ましく思う。僕は学園には行かなかったから余計にそう思うのかも知れない。

ステラは屋敷に来てから家族総出で貴族のマナーや教養を教えている。その甲斐あってか最近は屋敷に来た時よりも所作が洗練されてきた。

僕の担当は音楽と貴族の繋がり、芸術分野だ。

その一環でステラとは劇場やサロンに一緒に行く事が多くなった。

社交界でもステラは奇跡の令嬢として話題だったので声を掛けてもらえ、顔を覚えてもらう事も出来た。

勉強が進んでもやはり平民の感覚が抜けないステラはいまだに手が掛かる。

僕がサポートしてあげなければいけない存在だった。

サロンでステラに顔馴染みも出来た頃に僕には大きな仕事が入った。

帝国劇場から奇跡の令嬢と題したオペラを上演したいのでその総合演出と楽曲の依頼だった。

僕は二つ返事で承諾した。僕以上に適任はいないだろうとの自負もあった。

今まで以上にステラと一緒に過ごす時間が増えた。ステラの生い立ちを彼女から聞き、思いを知り彼女を知る事で脚本を作っていった。

その際に何度かスピカから観劇や鑑賞会に誘われたがステラとの先約や仕事の為に断らざるを得なかった。埋め合わせにとスピカを誘えば当日になってステラに行きたいと言われ、スピカが譲る事もあった。

自分は何度か僕と行っているからどうぞと送り出してくれるスピカの歩み寄りに成長を感じたものだ。少し前まで拗ねて家を出たりと家族を困らせていたのに…と。

ステラが来てから半年と少ししてステラを学園に入学させる事が決まった。彼女の努力と家族の協力の賜物だ。それと、僕が演出したオペラ「奇跡の令嬢」の後押しもあってのことだと思う。

オペラは大好評で帝国劇場だけでなく地方劇場などでの公演も、決まっている。

貴族、平民どちらからも評判は高いというのが受け入れられていることを物語っている。

ステラの入学に話を戻そう。

ステラの入学が決まってもまだまだ貴族教育が終わっていない事も考慮され、特別入学となり学年は四年だが一年と同じ講義をうけ、講師もマンツーマンで指導してくれるという特別な図らいが取られるそうだ。これは陛下のご指示だと父さんが言っていた。本来は来年の入学を目指していたそうだが政治的な動きがあるらしい。貴族政治に僕は疎いので事情は後から聞いたのだが、平民からの支持を考えればその判断もあるのだと思うのだった。