作品タイトル不明
【番外】愛妻家たちの苦悩 2
「まあ! まあまあ! よく来たわね! 待っていましたよ!」
友を訪ねたジルベルは、出迎えた人を見て思わず一歩後ずさった。
ちらっと廊下と室内に視線を走らせ、部屋を間違えたわけではないと確認する。
だとすると、王太后が出迎えるのはおかしい。
落ち着いた私室には、所狭しとあらゆる子供関連用品が詰め込まれており、目当ての友は隅の椅子に腰かけ苦笑していた。
「アデット侯爵名代、どれが一番いいかしらね? わたくしは、やっぱりお馬さんかと思うのだけれど」
「ええと……王太后陛下、これは?」
「おほほほ。カレンデュラ妃へのお祝いをあげたいのだけれど、候補が多くて困ってしまったのですよ。あなたの意見も聞きたくて。呼び立ててしまって悪いわね」
「いえ……」
なぜ陛下の私室なのか。この量なら、一部屋どこか空けてもいいくらいだ。
隅に追いやられていた部屋の主が、仕方なさそうに笑いながら歩み寄る。
「すまないな。母上が、どうにも張り切ってしまって」
「いいのですが……すごい量ですね」
「余った分は孤児院に寄付するからと、私財を投じてな。母上は、あまりご自分には予算を使わない方だから」
まあ確かに、王太后陛下は王妃時代から予算を使えとせっつかれていた。
国に有益なことになら、豪快に使う人なのだが。
「初孫だからな。それに、父上の分もと考えていらっしゃるのだろう」
「……そうですか」
ライオスを育てた穏やかな前国王陛下も、きっと待ち望んでいたことだろう。今度、墓前に報告しに行かないと。
楽しそうにはしゃぐ王太后に、あれ、とジルベルは首を傾げた。
「妃殿下の意見はいいのですか?」
「…………」
えっ、なんで黙る?
ちょっぴりドキドキしながら待っていると、王太后陛下は視線を向けないまま、少々肩を落とした。
「子を成せとしつこいのもうんざりするけれど、産まれる前からあれこれ口出しされるのも、それはもう面倒なものなのよ……」
「…………なるほど」
つまり、面倒くさい姑と思われたくないのか。
確かに、妊娠中や出産直後は繊細なものだと聞くし、不安もたくさんある。トゲトゲすることだってあるだろう。
「いいこと、アデット侯爵名代。ライオスも、よくお聞きなさいな」
母親の顔つきになった王太后が、きりりと振り返る。
「妊娠中と産後の恨みは、死ぬまで忘れませんからね」
「…………肝に銘じます」
「そうなさい。本当に、何十年経っても燻るのですよ。ライオスが産まれた時に『陛下のお顔立ちではありませんね』と言われたのは、一生許しませんもの」
誰に、と聞くのは野暮だろう。あらゆる経験を経て、王太后陛下は今、いい姑になろうと努力なさっているのだ。
「ああでも、産着や着衣はカレンデュラも好みがあるでしょうし、教育などを考えて絵本を選ぶのかもしれませんし、玩具だってそうよね……どうしましょう。贈れる物が何もないわ」
たくさんの贈り物に囲まれて、王太后陛下がぽそりと呟く。
王妃時代よりもずいぶん華奢になった肩が、なんだかとても寂しそうに見えて、ジルベルは隣に腰を下ろした。
「王太后陛下、こういうのはどうでしょう。まずは、妃殿下への贈り物と手紙をお渡しするんです。妊娠中に飲んでもいいもの、食べてもいいものなど。そして、手紙に御子への贈り物をしてもいいか、と質問も添えてみるとか」
「まあ……そうね、まずはカレンデュラの身体が一番ですものね。ああ、寒くなる季節ですから、膝掛けでもいいですわね」
「すごくいいと思います。妃殿下は、もしかしたら買った物を見たいとおっしゃるかもしれませんし、指定してくださるかもしれません。余ったら、孤児院の子供たちが喜びますし、王太后陛下も見に行かれてもいいかもしれませんね」
「そう、ね。わたくしも、子供たちと遊んでしまおうかしら」
「はは。素敵ですね」
強くてかっこよくて、気遣い屋さんな王太后陛下は、きっと子供たちにも大人気に違いない。
ジルベルからしたら、妃殿下は喜ぶんじゃないかなと思うけれど、それは彼女にしかわからないことだ。
後日、妻の元に『お義母様は、気を遣ってたくさんの贈り物を隠す可愛らしい方』という手紙が届いた。