軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【番外】ヒロイン志望者 1

卒業してすぐに領地に帰り、婚姻の最終調整に入れるはずだったジルベルは、しばらく王都滞在を余儀なくされた。

件の特待生の待遇について、関係者と共に審議するためだ。

父は『おまえは当事者でもあるのだから、名代として任す』と言って、婚約者を領地まで送り届けるため出発した。

めちゃくちゃ歯噛みした。

離れたくないとぐずるジルベルを、リルーシェは嬉しそうに笑いつつも宥め説得して、久々の領地へ行ってしまった。

一日でも早く再々会しようとまとまったのは、ライオスの言っていた『放っておけない性分』もあったが、早くリルーシェを堪能する時間を欲していたのが一番だ。

だから、ジルベルは機嫌がよろしくない。非常によろしくない。

「だって、ここはゲームの世界で、あたしはヒロインなわけだし……」

などとぐだぐだ言い訳する自称ヒロインに、ため息をついても許されるだろう。

これまでの聞き取りで、彼女からいくつか前世に関わることを聞いた。

この世界が乙女ゲームの中に酷似していること。

彼女がヒロインで、メインヒーローは王太子。

他の攻略対象者は、王太子の側近の令息、友人の侯爵令息と伯爵令息。

悪役令嬢は、王太子と側近令息の婚約者。

彼女は、ライオスが王太子でないことや、側近の令息の婚約者が留学していること、友人の令息たちがまったく靡かないことに、疑問を持ってはいたという。

けれど、噴水に背中を押されたのも、階段から落とされたのも本当。犯人は目撃していないが、他の嫌がらせの諸々もあった。

トラブルを訴えた時、本来なら名乗り出てくれる証言者はいないが、 攻略対象者(ジルベル) が必ず来てくれるから大丈夫。

王子の友人ではないけれど、好いてくれる人も人数的に揃っている。

だから、多少の誤差はあっても、結末で帳尻が合うはずと思ってしまった。

ちょっと無理やりが過ぎないだろうか。

彼女の知る乙女ゲームでは、攻略対象ではなく平民のヒロインが勇気を持って悪役令嬢を告発し、裁判へと発展する。

証言台に立ち、涙ながらに勝利を勝ち取り、勇気を称えて恋人と結ばれるための立場を与えられ、ハッピーエンド。

「あたし、前世でジルベル推しだったんだよね」

へへ、と照れくさそうに言われても、ジルベルの心にはさざ波一つ立たなかった。

代わりに、いつも通りに微笑みながら首を傾げて見せる。

「きみ、名前は?」

「え? アリス・リラですけど……」

「どこに住んでいる?」

「王都のパン屋の娘です。あれ、調べてないの?」

「なるほど。きみはちゃんと、ここで生きた記憶はあるんだね?」

「何言ってるんですか、あたしはアリスだもの。子供の時からお客さんに可愛いってひょうば、ん、で……」

笑っていた特待生の表情が何かに気づいて固まり、ぎぎぎと音がしそうなほどぎこちなくジルベルを見た。

変わらず、ジルベルは微笑んだまま。

「そう。なら、現状は理解できるね?」

「あ……いやでも、あたし転生者だし、ここゲームだし……」

「なら、きみも私も、生身でなくただのプログラムかな」

「違う……でもあたしは、だって、」

「よく考えるといい。現実か作り物か、もし現実ならどのような罪でここにいるのか、これからどんな処罰があり、どうなるのか」

頑なに現実を認めず、ただひたすら理想だけを目指して突き進んだ先がどこなのか。

離れて控えていた監理官とライオスに視線を向ける。

二人とも頷いたので、ジルベルは椅子から立ち上がった。

「待って……あなた、転生者よね? だって、あたしの話に驚いてないし、プログラムって」

「仮にそうだとして、私はきみの思う『転生者』かな」

「……」

「じゃあね」

貴賓用とは言わないが、そこそこには整った隔離部屋から出て、入口を守る王宮兵に敬礼して歩き出す。

首を回すと、ごりごりと嫌な音がした。

苦笑しながら肩を撫でてくれたライオスに、ふっと力が抜ける。

「さすがだよ、次期監理官」

「やめてよ……」

父が担っていた仕事は、『王宮監理部』という部署の長。

主には貴族絡みの事件や事故を調べ、第三者の視点から公平に判断し、裁判で中立な位置を務める。

まあつまり、被害者側に検察、加害者側に弁護がつき、どちらでもない監理が真ん中に立つイメージだ。

最終決定を担うのは陛下だが、そこに導くための事実のみを冷徹に述べる立場。

どちらか一方に偏った結論にならないよう、裁判時には陛下の次席が与えられるほど、この国では重視される部署だった。

ゆえに、なり手が足りない。

家格も派閥も関係なく、私情や家門の枷のない人間で、もちろん深い教養が必須。

ライオスや他の面々が、ジルベルの所属を望んでいることは、重々承知しているが。

「やっとルシェに会えたのに……」

「すまないな。適任がジルしかいなくて」

「わかっています……」

だからこうして、泣く泣く婚約者を領地に見送り、王宮に泊まり込みで調査しているのだ。

本気で泣きたい。早くリルーシェに会いたい。