作品タイトル不明
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今日は市井の娘が着るようなシンプルなワンピースに身を包み、人目を気にせず街を歩く。普段は公爵令嬢として完璧な振る舞いを求められるけれど、ノアと一緒だと素の自分でいられる気がした。
「アメリア、これ可愛いね!」
「そうね。ノアに似合うと思うわ。」
露店で並べられた可愛らしい髪飾りを手に取り、ノアと笑い合う。キラキラと輝く陽光の下、賑やかな人々の声が心地よく耳に響く。こんな穏やかな時間がずっと続けばいいのに。
ふと、雑踏の中に見覚えのある顔を見つけた。
(……あの人、知ってる?……いや、見た事ないはず……。)
そう思った次の瞬間、彼の隣にいる人物に目がいった。地味な外套を羽織り、頭を深く被ったその姿は、一見するとただの貴族の従者に見える。けれど、その立ち姿、そして時折見える金髪に、私の心臓が大きく跳ねた。
――レオン王子。
なぜ、こんなところで。お忍びなのかしら?そう考えていると、脳裏に一瞬、ゲームのイベントの記憶がフラッシュバックした。
(……思い出した。レオンの心の傷。)
「アメリア?」
立ち止まってしまった私へ、ノアは心配そうに顔を向けた。
(……どうしよう。)
嫌な予感がする私は、ノアへ不安な顔を隠せない。
「きゃぁぁぁっ!!!」
女性の悲鳴が響き渡り、咄嗟に私は走り出した。
混乱するノアに申し訳なく思いつつも、私の足は、今まさに事件が起こりそうな場所へ向かっていた。
誘拐事件、そして新たな選択。
広場に差し掛かると、ゲームの記憶と寸分違わぬ光景が広がっていた。制御不能になった馬車が子供に迫り、それに気づいたレオンが、とっさに子供を庇おうと飛び出す。そして、彼の傍らにいた侍従が、レオンを庇うように一歩前へ出た。
「だめっ!」
叫び声が喉から出た。このままでは、あの忠実な侍従が死んでしまう。レオンは、その死を目の当たりにして心を深く閉ざすことになる。
私は駆け出すと、侍従の腕を強く掴み、彼の体を思い切り横へと放り投げた。突然のことに驚いた侍従が、地面に転がる。その一瞬の間に、私はレオンの前に躍り出ていた。
「今だ!」
複数人の男の声が聞こえ、咄嗟に構える。しかし、顔を隠した男達は、真っ直ぐにレオンへと手を伸ばす。
それを振り払い、レオンの手を引いて走り出した。
驚くレオンの手を引いて夢中で走る。人気の無い路地に入ったところで囲まれてしまい、レオンを背にして男達を睨む。
「あなたたち、一体何のつもり!」
私の突然の介入に、覆面の男たちは一瞬怯んだように見えた。けれど、すぐに凶悪な笑みを浮かべ、私とレオンに襲いかかる。
「アメリア嬢!?」
レオンの驚いた声が聞こえる。一人が私に手を伸ばした。避けきれない。しかし、避けたくない。
「きゃっ……!」
腕に強い衝撃を受け、視界がぐらりと揺らぐ。男が何かを嗅がせたのか、意識が急速に遠のいていく。これが、私が選んだ選択。どうか、この選択が、レオンを、そしてこの世界を救う一歩となりますように。
次に目覚めた時、鼻についたのは埃と、どこかカビのような匂いだった。ぼんやりとしたまま瞬きを繰り返すと、見知らぬ天井が視界に映る。どうやらベッドの上ではないようだ。
ゆっくりと体を起こそうとして、自分の両手が固く縛られていることに気づいた。慌てて周囲を見回すと、薄暗い部屋の隅に、同じように拘束された人物がいる。
予想通りの出来事に、一度落ち着いて呼吸を整えた。
「……レオン殿下。レオン殿下。」
眠っているレオンに声をかける。ゆっくりと目を開けたレオンは、勢いよく起き上がる。その様子に、大きな怪我は無さそうだと安堵した。
レオンは、キョロキョロと辺りを見回して、私へ悔しそうな顔を向けた。
「アメリア嬢……。」
とりあえず、取り乱してはいない事に流石だと感じ、レオンへ頷く。
「……とりあえず、落ち着いて行動しましょう。私がおります。……そして、絶対私の後ろにいてください。」
「……え?いや、でも、手も塞がれている。武器も何も無い。危険だ。」
そう言ってレオンは、縛られている手を見る。縄できつく縛られ、右足には魔力封じの枷がついていた。しかし、私はレオンに安心させるように笑う。
「大丈夫ですわ。……声は出さないように、静かにお願いしますわ。」
そう言って立ち上がると、トントンと床を足で蹴る。不思議なものを見るようにレオンが見上げるが、私は気にせずに、そのまま後ろ足で縄を触る。すると、パラパラと落ちた縄を見て、レオンが目を見開いた。
「……こういう時の為に仕込み刃がありますの。」
ニコッと笑いレオンに踵を見せる。そのまま刃を靴から抜いて、レオンの縄を切る。
「あとは、この枷ですわね。」
そう言って再び座った私は、結った髪からピンを取りだし、鍵穴へ差し込むとガチャガチャといじる。カチャンと音がして枷が床へ落ちる。
「……レオン殿下、失礼しますわ。」
そう言って、まだ唖然としているレオンへ声を掛けると、頷いて許可をくれる。そっと足の枷へ手を伸ばし、先程と同じように鍵をあける。
「……君は、何故……?」
「……私は一度生きのびたことで、学んだのですわ。実際に、役に立ちましたわね。」
そのまま私は、黙ってしまったレオンへ、これからの計画について語った。
「ーーということですわ。私も無茶はしません。ですから、絶対に私の後ろにいてくださいませ。」
「……分かった。」
まだ少し不安そうなレオンに微笑むと、男達を騙す為の準備に取り掛かった。