軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【7:仕事の話(下)】

「他には? とは言っても、地図と地誌を作るだけで相当なものでしょうが」

「任地近辺をひととおり全部歩いて見て回れ、ってのと同じだからな。まあ、主要な街道と、駐留するアトルスにエディル、そのふたつの村や周辺の砦、そのあたりの情報があれば、それで足りるとは思う」

コンラートの疑問に、レフノールは半分だけ答えた。

兵站として必要なのは面ではなく、点と線――兵たちがいる場所と、それらを繋ぐ街道の情報で、それ以上のことが必要であれば、あとは現地の部隊が調査をすればよい。レフノールはそのように考えている。

「それでもまあ、きっちり調べて書いたり描いたりだと、半月じゃ利かないと思うけどね……ヴェロニカ?」

「ん? ふぁ……んぐ」

アーデライドが視線を向けた先で、切ったベーコンをパンに乗せ、齧りついていたヴェロニカが口の中のものを飲み込む。

「……うん。それなりのものを作ろうとしたら、それなりに時間はかかるよ。実際に歩かないと始まらないし、メモは都度取るけど、最終的には繋ぎ合わせて作り直さないといけないから」

聞いていないようで話は聞いているし、見るともなしに周囲が見えている。ヴェロニカにはそういう部分があって、レフノールはそれが斥候として有用な資質だ、と思っている。礼儀作法のことはうるさく言わない――そういう相手ではない、という前提がある。

ブラウエル少尉をちらりと眺めると、礼儀正しく見なかったふりをすることに決めたようだった。これはこれで必要十分な対応ではある。

「だよな。そのあたりが、いまいち話が進まない要因でもあるんだ。軍団ごとに担当者が抱えてる情報があったりして……まあ、俺も異動前は第2軍団全体に共有した、というより後任に伝えただけだから、あまり他人のことは言えんのだが。で、他の仕事の話だが、まあいろいろとある」

頷いて、疑問のもう半分に答えたレフノールだったが、なにも言っていないも同然だった。

「いろいろと言うと?」

「本当にいろいろだよ。輜重の護衛、兵の訓練――戦技から、簡単な罠の設置のしかた、個人用の装具の手入れや管理まで。クロスボウもまた調達する予定だから、輜重や工兵にも訓練はさせなきゃならん。小規模な妖魔の群れの討伐なんかがあれば、その随行もあるし、必要なら土木作業だって手伝ってほしい」

当然のように納得しなかったコンラートに、レフノールは指を折りながらいくつかの仕事を数え上げる。最後のひとつに、コンラートが、またそれか、というような表情を浮かべた。

「便利なんだよ」

「わかってます。我ながら便利なものだと思うくらいですからね」

もはや恒例となりつつあるやり取りに、リオンが小さく笑い、アーデライドが揶揄っているのか励ましているのか解らない調子でコンラートの背中を叩いた。

「でも大尉、それだと長期っていうか、ほぼ軍でのお抱えみたいになるんじゃないの?」

「御明察。待遇は下士官相当の軍属扱いを考えてる。雇い主は軍――というか俺が所属する部隊だが、上官に当たるのは俺、という形になるな」

「転職のお誘いかぁ」

アーデライドとレフノールのやり取りに、ヴェロニカが感慨深そうな声で口を挟んだ。

「そう取ってもらっても構わない。実際、冒険者から仕官する連中だっているだろ」

「……仕官の話じゃあないんだよね?」

念を押すように、アーデライドが尋ねる。

「ああ。あくまでも雇いの軍属扱い。水が合わなきゃ辞めることもできるし、雇うのはうちの部隊だから他所へ回されて話の解らない連中と付き合わされる心配もない。まあ、わけのわからない巻き込まれ方をする可能性はないわけじゃないが」

レフノールが付け加えた一言に、冒険者たちがやれやれという様子で笑った。その点については、文句のつけようのない実績がある。

「まあ、予定外のことが起きたときには、払いで応えてくれるからね。そこは心配してないよ」

「そこはお互い様だな。腕が良くて予定外のことが起きたときに逃げない連中ってのは、貴重なんだ」

何の話をしているのか、とブラウエル少尉が訝しげな表情になる。

「ああ、俺が生き残った上で銀剣勲章まで取れたのは、半分くらいは彼女たちのおかげだよ。いてくれなきゃ死んでたか、まあ少なくとも勲章が貰えるようなことにはなっちゃいなかっただろうと思ってる」

「……それほどですか」

「路銀こっち持ちで、アンバレスからわざわざ呼ぶような相手だからな。相応の腕があって、いざというときに逃げない。俺たちの間でだって貴重だろ、そういう連中は」

なるほど、と少尉が納得した表情になる。

「で、どうする? 今すぐじゃなくてもいいが、俺としちゃ早目に答えが欲しい。君らが駄目なら別の連中を当たらなきゃならんし、最悪、自前でどうにかする算段をつけないといけないからな」

わかった、とアーデライドが頷く。

「1日考えさせて。明日の……そうだね、夕方までには結論を出すよ。それでいい?」

「ありがとう、そうしてくれ。俺としちゃ是非、というところだが、無理強いはできないからな」

「……そういうところだと思うのよ」

「……なにが?」

わかんないならいいよ、と肩をすくめたアーデライドに、仲間の冒険者たちが納得した表情になる。

「ともかく、明日ね。大尉、今どこにいるの?」

「近衛の旧兵営。場所はわかるか? 内城壁の近くの」

「王都は詳しくないけど、たぶん大丈夫。宿で訊くよ。明日の夕暮れまでに行くから」

「わかった、頼む。――少尉、君はどうする? 仕事はここまでだから、彼女たちと飲む気ならこれまでの分と合わせて少々置いていくが」

立ち上がりながら尋ねたレフノールに、ブラウエル少尉がいいえ、と首を振った。

「身の振り方を相談するなら、自分がいない方がいいでしょう」

まあそうか、とレフノールが頷き、帳場へと向かう。勘定を済ませて、レフノールは少尉に声をかけた。

「君にとっちゃ得体の知れない連中だっただろうが、あれで能力に間違いはないよ。そこは信用してくれ」

「ああ、いえ、少々――何と言いますか、戸惑っただけです」

「軍にはいない種類だからな。まあ、付き合い方もいろいろある。だが、彼女たちを使うという選択肢もある、と知っておけば役に立つことはある」

「はい」

「さて、俺はどこかで飯を食って戻る。これは君の分だ。適当に飲んで食って戻れ。門衛には話しておく」

財布から取り出した銅貨を幾枚か押し付け、レフノールは返事を待たずに背を向けた。