軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【23:不安要素】

翌朝。リンクストーンを使ってアンバレスにいるライナスと連絡を取り、レフノールは冒険者たちを招請した。

「連中は問題ないそうだ。今日、早速そっちへ出発した。条件はお前が提示したとおりでまとまってる。5日かそこらで着くだろう」

更に翌朝、ライナスはそう伝えてきた。

「あとお前に頼まれた、道の状況をなんとなくでも構わないから確認してきてくれ、ってやつな。あれも伝えてある。道々見るだけで構わないなら、って話だった」

「忙しいところ悪いな、手間をかけさせた」

「いや、うちも近衛の連中のあれこれでかかるはずだった手間がひとつ減ってる。お互い様だ」

短い詫びの言葉に、ライナスがそう応じた。

急遽の役割の分担変更と、それに伴って生じた物資の融通の件を言っている。

「お前が準備しててくれたおかげでひとまず急場は凌げた。これから先は先でまあいろいろとあるだろうが、対応するための時間が稼げたのはでかいよ」

「ああ、それなら良かった」

小さな安堵とともに、レフノールは答える。

自分だけが貧乏籤を引かされることについて、思うところがないではない。だが、それはそれとして、気安く話せる同期までが面倒に巻き込まれるのは、レフノールの望むところではなかった。

「……いい奴だよなお前」

なぜかしんみりとした口調でライナスが言う。

「何だよ、何も出ないぞ」

「いやあ、王都の総監部にいたのに現場の苦労をわかってるし、相応の気遣いをしてくれるだろ」

「……当たり前の話じゃないのか」

レフノールの言葉に、ライナスはため息で応じる。

「当たり前を当たり前にできる奴は貴重なんだよ。それがよくわかった」

「近衛の連中と何か?」

「まあいろいろとな。結局、王都やその周辺と、でかい街とはいえ王都から離れたアンバレスとじゃあ何もかも違うわけだろ。その違いが解ってない。というか、解ろうとしてくれない」

ライナスの口調から、ラインシュタール大尉が胃のあたりを押さえるところが連想されてしまい、レフノールは慌ててそれを頭から振り払った。

「結局あれだよ、そのあたりを理解できる連中が、そうでない奴らの分の苦労も引き受けてどうにかしてるわけだよ。俸給には見合わんかもしれんが、気付いちまったらやらないわけにもな。まあ、何かあったら俺に言え。王都の兄貴で何とかなる話なら、話を通すだけはしてみるから」

「何かあったら有難く頼らせてもらおう。あとな、レフノール」

「なんだ?」

「お前本当にいい奴だよな。自分が巻き込まれて苦労しようって時に」

※ ※ ※ ※ ※

アーデライドたちがラーゼンに到着したのはそれから5日後。リディアはふたたび前線へ出ており、代わってカミルがノールブルムから戻っていた。

「久しぶり、大尉。元気そうで何よりだね」

「君たちもな、アーデライド。早めに呼ぶことになってしまって済まない」

「構わないよ、仕事もなかったし、もともともうしばらくしたらこっちに来る予定だったし」

そうか、と応じたレフノールが、隣に立つカミルを手で示す。

「彼がローレンツ中尉。君たちとは初めてだったはずだ。よろしくしてやってくれ」

一歩引き、カミルに冒険者たちを紹介する。

「ローレンツ中尉、彼らはアンバレスで雇った冒険者だ。実は以前も一度世話になってる。腕利きの連中だよ。そこの戦士がアーデライド、魔術師がコンラート、神官がリオン。小柄な彼女が斥候のヴェロニカ」

「カミル・ローレンツです。よろしく頼みます」

それぞれに挨拶と握手が交わされ、一通りのやり取りが終わって席についたところで、ヴェロニカが疑問を口にした。

「大尉さん、少尉さんは? こないだ一緒だったよね?」

「ああ、彼女はいまノールブルム。このローレンツ中尉が明日そっちに出て、明後日にはメイオール少尉が戻ってくる手筈になってる」

「良かった、将校さんが増えたんだねえ」

「おかげさまでね。まあ、そうでないと回らない状況、ってのも確かなんだが。君らに頼んでた道の状況、どんなものだった?」

レフノールの質問に、アーデライドが頷いてヴェロニカに視線を向けた。

「あたし? 街道そのものは別にどうこう、って話じゃないんだけど、あそこ大型馬車が通るような道じゃないんだよねえ。何か所か、道の脇にぐっちゃぐちゃの轍がついててさ、そこはちょっと気になったかな」

ヴェロニカの説明に、レフノールはため息をついて顔をしかめた。

「場所、略図に書けるか? どこの村から何刻行程か、くらいのやつで構わないんだが」

んー、と腕を組んだヴェロニカが小首を傾げる。いかにもわざとらしい、しかもわざとらしさを認識した上でやっている、と見える仕草だった。

「わかったわかった。ほら、ここに書いたらこれで何か適当に頼んでくれ。宿の飯の仕込みが終わってからになるだろうが」

紙とペン、そして銅貨を取り出しながらレフノールが応じると、ヴェロニカがえへへ、と相好を崩した。

「ヴェロニカ」

「いいじゃない、大尉さんは追加で情報を貰えるし、あたしたちはちょっと贅沢できるし」

窘めるリオンに、ヴェロニカが気安い様子で言い返す。

「まあ、そういう、お互い納得ずくの話だよ。具体的な情報が貰えるのは俺としても有難いからな」

取りなすレフノールに、リオンがなんだかすみません、と頭を下げた。これももう、いつもの、と言って差し支えのないやり取りになっている。

「こっちの端がアンバレス、こっちがラーゼンね。街道自体は曲がってるけど、略図だからそこは省略。あたしが見たのはこことこの村の間、あとはここと、ここと、ここ」

言いながらヴェロニカが紙に一本の線を引き、問題の箇所と、そして道中の村との位置関係を書き込んでゆく。

「一番荒れてたのがここかな。ラーゼンからだいたい半日行程弱。雪はもうないけど、ぬかるんだとこが夜の冷え込みで凍って昼間にまた融けて、を繰り返してるみたい。道の外側で馬車を通せるスペースも狭いからだと思うんだけど、両側にそういう轍が残ってたんだよね」

想像通りのことが起きている。ヴェロニカの話からそれを確信したレフノールは、長いため息をついた。

「連中やはり……」

隣に座ったカミルも、眉間に皺を寄せている。

「他所からの部隊ですか。近衛あたりが?」

コンラートが尋ね、レフノールはもう一度顔をしかめた。

「……俺、そこまでは伝えてなかったよな?」

「ええ。ただ、中尉のお話ぶりだと同じ部隊ではなさそうですし、近在の部隊ならこの街道の状況は把握しているはずです。大型馬車とは幾度か行き違いましたが、知っていればあれを無理に通そうとはしません。つまりこのあたりの土地勘のない部隊、となれば他所の軍団か近衛。可能性が高いのは近衛の方です」

「他所で言わんでくれよ」

レフノールが苦笑しながら言った。相変わらず鋭い、と思っている。

思わぬところから情報を漏らしてしまい、顔を引きつらせているカミルに、レフノールは気にするな、と声をかけた。

「あれで所属が割れるなんて誰も思わん。まあ、こういう連中なんだ。頭は回るし腕利きだし、軍との付き合い方も心得てくれてる。顔と常宿は覚えておいて損がない相手だ」

「――は」

「まあ、他所で言いふらして回る気はないから安心してくれていいよ。それで大尉、しばらくは待機ってことでいいんだよね?」

ひらひらと手を振ったアーデライドが念を押す。

「ああ。だが、ゴーレムは先に作っておいてくれ。何かあったとき、すぐ使えないでは困る」

「――わかりました。明日にでも」

コンラートがため息とともにそう答えた。またこき使われるのか、とでも言いたそうな風情だった。