軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【11:情報収集(上)】

更に数日後。

レフノールの元には、配属予定の士官――やはり1名のみだった――の、名前だけが伝えられていた。

ローレンツという名の中尉について、レフノールは手土産を提げて軍団に所属する同期のところを回り、評判を確かめている。

総じて、評判は良くはない。さもありなん、とレフノールは思っている。おざなりに送り込む兵站に、評判のいい将校をわざわざ付ける理由はない。員数を合わせておくのが重要なのだから、評判や能力が万全でなくとも構わない、と考えられているのだろう。

知識や仕事ぶりに問題があるわけではないが、自信と決断力に欠ける、というのがその中尉――ローレンツ中尉の評価だった。

「見た目は堂々としたものだがな」

酒を飲ませた席で、ラセルという名の同期は言った。

「なにに自信が持てないか知らないが、背筋は伸びない声は小さい、で、どうにも上の評判が良くない。昇進も遅れた。兵学院の期数を聞いたら俺たちのひとつ下だったが、去年ようやく中尉だからな」

レフノールの同期は昇進の遅い早いはありつつも中尉か大尉だった。差し向かいで飲むラセルは大尉だし、さほど早い方ではなかったレフノールが中尉に昇進したのは4年前。兵学院を出た年を考えれば、昇進はたしかに遅い。

「能力的になにか問題が、ってことなのか?」

「どっちかと言うと性格だろうな。野戦将校向きじゃなかった、ってことなんじゃないか」

レフノール自身は希望して兵站に回ったが、それはどちらかと言えば少数派だ。軍と言ってまず想像されるのが歩兵や騎兵であるように、将校の主流も、そして希望も、そういった兵種になっている。好んで主流から外れようとする者は多くない。兵站への配置転換は、ある種の左遷と取られる部分もあるのだった。

「お前の下に付くんだろ? 鍛えてやれよ」

「鍛えるったって、兵站だぞうちは」

苦笑しながら首を振ったレフノールに、ラセル大尉はいやいや、と笑う。

「その兵站で銀剣持ちだろう。俺はお前以外に会ったことがない」

ラセル大尉は、さきに授与された勲章のことを言っていた。銀剣勲章は『戦闘において王国の剣と称されるに相応しい』功績を挙げた将兵に授与される。いわゆる戦功章の中でも上等というわけではないが、兵站部門の将校が授与されることは稀だった。そもそも実戦で戦闘をすること事態が稀、巻き込まれて生き残ることも稀、その上で戦功を立てることは更に稀なのだ。

「良し悪しで言やあ、そりゃ苦労はしたわけだから勲章はあった方がいい。だが、そもそも兵站が前線で戦ってる時点でなんか間違ってるわけだろ」

「まあそうだな。療兵の下士官まで銀剣を取るような戦闘なんてろくなもんじゃない。ただまあ、そこで生き延びて戦功を立てられる奴が貴重というのもまた事実だ」

肩をすくめたレフノールに、ラセル大尉が真顔で返答する。

「持ち上げるじゃないか」

「酒とつまみを手土産に持ってくる奴は持ち上げておかないとなあ」

「俺は別に持ち上げられるために来たんじゃないが」

まあそう言うなよ、とラセル大尉が笑った。

「兵站への異動は普通なら左遷、そう取られておかしくはない。軍での栄達は望めない、とな。だがそれが、銀剣持ちの下ならどうだ?」

「どう、って言われてもな――いや、左遷だろ。本人が望んだわけじゃあるまいし、主流からは外れるわけだし」

そこだよ、とラセル大尉が言う。

「普通なら、だ。やられた方は意欲を失う。本来できることもできなくなる。当人も上や下につく奴も困る。いいことがない。だが、だよ。そうじゃないと本人が思い、周囲も左遷扱いしなければ」

「そう思い込ませろ、ってことか」

「平たく言やあそうだ。普通なら通る話じゃあない。だが、兵站じゃほとんど例がない上に主流からも一目置かれるような実績の持ち主――銀剣持ち、ってとこが重要だろ」

レフノールが顔をしかめた。柄じゃない、と思っている。

「お前がどう考えてるかはこの際重要じゃない。わかるだろ」

「わかるよ。わかるが……どう言えばいいかな。俺の実情とは程遠い何かを期待されても困るんだよ」

困るだろうがな、とラセル大尉がまた笑った。

「もっと言えば、実態だって大して重要じゃない。そう思い込ませられる素地がある、ってとこだろ」

「……詐欺じゃねえか」

「じゃあ訊くがお前、銀剣に限らず、勲章持ちが全員御立派な人物だなんて思ってるのか?」

レフノールが言葉に詰まる。礼服姿を確かめたわけではないが、あのカウニッツ大佐でさえ何がしかの勲章は授与されているはずだった。

「実情がまったく関係ないとは言わないが、持ってりゃそれなりの箔は付く。勲章ってのはそういうもんだ。銀剣の価値はお前だって知ってるだろ?」

「――下士官兵からの尊敬、か」

レフノールの返答に、ラセル大尉が頷いた。

「実戦で戦功を挙げて生き残った将校。だから年季の入った連中ほど銀剣持ちは信頼する。銀剣持ちが信頼する奴も、下士官兵は同じように信頼する」

「それを上手く使え、と?」

「そういうの得意だろ、お前」

「どうしようもない奴だったらどうするんだよ」

ラセル大尉の言葉には意図的に答えずに、レフノールは尋ね返す。

「そこを見極めるのがお前の仕事だろ。もしそうだったらとっとと引導を渡して次のやつを司令部に出させろ。それしかねえ」

たしかにラセル大尉の言うとおりではあった。簡単な話ではないが、他にやりようがない、というところでもある。

「――そうでなければやりようはあるだろ、お互いに」

にやりと笑ってラセル大尉が付け加えた。

「まあな。必要最低限の能力と当人の意思があればどうにかはなる。評判だのなんだのはこっちで上書きできる――そういう話だよな」

「そうだ。お前としちゃ不本意かもしれないが、持ってるモノは有効に使えばいい。うまいこといけばまともな将校が手に入る。お前の評価もまた上がる」

にやにやと笑うラセル大尉の言葉に、レフノールは苦笑で応じた。

「不本意とは言わんがな、あまり期待されすぎても困るんだよ」

なあに、と言いながらラセル大尉はふたつのグラスに酒を注いだ。自分の分をぐい、と呷る。

「残しちまった実績ってのは結局、ついて回るもんなんだよ。それがいいものだろうと悪いものだろうと。お前はいい方の実績を残した。だから次も期待されるし、実績を残した奴として扱われる。俺から言えるとしたら、一言だけだ」

「――何だよ」

「諦めろ」