軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【14:任務開始】

会合の数日後、部隊――第41独立混成大隊は、編制を完了した。大隊と、そして中隊ごとに隊旗が授与され、編制の区切りとして、ちょっとした式典が開かれた。ちょっとした、と言ってもそれは、式典に参加する側の感想であって、切り盛りせねばならなかった兵站将校の感想ではない。

王都から隊旗を持参する使者に加えて、幾人かの賓客を招待せねばならない。直近の大都市であるエリムスに駐留する第4軍団の司令。任地にあたるパトノスの領主。そしてパトノスにある神殿の司祭。彼らを招待し、式典と、そしてその後で行われる会食を手配する。

「苦労をかけるが、大尉、よろしく頼む」

レフノールとしても気の進まないどころの話ではなかったが、部隊長に頭を下げられてしまったならば逃れる術はない。レフノール自身は作法にやかましくない、というよりも軍で過度に作法を重視することに懐疑的でさえあったが、割り振られた役回りは正反対のものだった。

やむなし、と己を納得させて、段取りを決め、式典と会食の席次を決める。供する食事は、将校用のそれに合わせた。あまり豪華にしようとしても、料理人の手配や予算の問題があるし、かといって兵の食事そのままでは招いた相手への失礼になる。こういう部隊が立ち上がります、という自己紹介のようなものだから、ということで、将校用の食事に少々色をつけたものに落ち着けた。

式典関係の業務に手間と時間を取られすぎて、通常の業務はほとんどブラウエル少尉に丸投げ、という有様ではあった。だが、編制の完了も間近となれば、そこで求められるものはほぼ日常の業務に等しい。レフノール自身が口を出さずとも済むことがほとんど、という状態にはなっている。

いささか怪しい部分がありつつもどうにか準備の期間を乗り切り、大きな混乱なく式典と会食を終え、その翌日に賓客たちを兵営から送り出して、レフノールとブラウエル少尉はようやく一息つくことができた。

兵や事務官たちには早目に上がってよいと伝え、歩兵や騎兵の隊長たちには、仕事を持ち込むならば明日以降にしてくれと言い、ふたりの将校は執務室でグラスを傾けている。

「少尉、いろいろとご苦労だった」

「一通り自分でやらせていただけたのは、勉強になりました。大いに」

苦労した、というところは否定しないが、悪いことばかりでもなかった、と付け加える。若い少尉のどこか老成した気遣いに、レフノールは小さく笑って酒を注ぎ足す。

「ともあれ、これで編制に伴うあれこれは終わりだ。明日からは――」

「歓迎すべき、変わり映えのしない日々!」

朗らかな調子でブラウエル少尉が言い、グラスを掲げる。あまり顔色は変わらないが、酔っているのかもしれなかった。以前部下に酒を飲ませてしまったときのことが頭をよぎり、レフノールは苦笑する。

「その、変わり映えのしない日々を続けるのが、俺たちの仕事だからな」

レフノール自身はいつものように、舐めるような調子でしか飲んではいない。

「さあ、少尉、そいつを飲んだら貴官も今日はもう上がれ。貴官の言うとおりだ――明日からも変わり映えのしない日が待ってる」

※ ※ ※ ※ ※

そのようなことがありはしたものの、部隊の立ち上げは概ね順調に行われた、と言ってよい。

目立った混乱はなく、兵や下士官たちは新たな配置に就き、日々の任務が始まっている。

定められた場所に出向き、あるいは本拠地で訓練をして、定期的な巡視を行う。そして休養。休養が済めばまた訓練をして、前線へ。単純化してしまえばそういった繰り返しになるが、そのために兵站として必要なことは様々だ。

補給はもちろんのこと、拠点の整備や維持、武具その他の装具の補修、それらに必要な消耗品の調達と運搬。

何をするにも必要な金銭の管理。必要なものは用立てなければいけないが、無計画に消費すればすぐに予算は底をつく。先々で必要になるものもあり、実質的に払いが決まってしまっている俸給などもあるから、裁量でもって使える金額というのは、実際のところさほど多くはない。幸いにして困窮を覚えるほどの不足はなかったが、だからと言って油断するわけにもいかないのが現実だ。

買ったものも使った金も、全ては記録を取っておく必要がある。

出納の記録だけであれば事務官たちに任せてしまえても、どのような意図で何をしたか、結果何があったか、というような実務に紐づけた記録は、将校たちが取っておかなければならない。

加えて、領主や神殿、地元の有力者たちや市井との関係の維持も仕事のうちだった。定期的に御機嫌を伺い、あるいは苦情や申し入れを捌く役回りは、それでなくとも気苦労が多い仕事の中でも憂鬱さの度合いが高いものだ。意外にと言うべきか、ブラウエル少尉はその類のやり取りをほとんど苦にしなかった。淡々としすぎず、角を立てるでもなく、さりとて迎合しすぎるでもない、という絶妙の距離感で、舞い込む諸々に決着をつけてゆく。上官という立場の重みそのものが必要になったときには、無論、レフノールのもとに問題が持ち込まれるが、その頻度はさほど高いものではない。

そのように変わり映えのしない日々にあって、実はレフノールが好んだのが、前線への出張だった。

数日間をかけて前線へ出向き、状況を視察して不足や不満を聞き、パトノスに戻って聞いてきたあれこれを補給の計画に反映させる。

ときには冒険者たちに言って、実戦に近い状況での訓練のために砦へ出向かせたり、設備の補修のためにゴーレムを応援に出したり、あるいは神官として兵たちの心を落ち着かせてもらったり、といったことも行っている。

それは日々のちょっとした変化であり、自分の任務がどのように部隊を支えているかを確認する作業であり、そしてリディアが前線へ出向いている時期には、リディアと顔を合わせる機会でもあった。