軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

優勝

結論をさっさと言うと、私は優勝した。

それも、どの勝負もあまり時間をかけずに。

一番の難敵だったのは、初戦で当たったフィリックス・フォン・アーレントミュラーだ。

たぶん、コンラートと同じくらいの強さだったと思う。

しかし、彼は思いっきり私を舐めてかかっていた。ちっちゃい女の子を容赦なく負かして、泣かせたくないみたいな、騎士道精神でも持っていたのか、「馬鹿にしてるの?」と聞きたくなるくらいぬるい駒の動かし方をしてきた。

それに対して私は初めからフルスロットル。開始3分で、チェスにおける最強の駒のクイーンが奪えるという状況になり、一番私が驚いた!

あり得ないフィリックスの凡ミスに、何かの罠だろうかと悩んだよ。

フィリックスは、慌てて本気を出してきたけどもう遅かった。

私は、かの三方ヶ原の戦いで、徳川軍を魚鱗の陣で待ち構えていた武田軍の様に、がっちり自分のキングをガード。

フィリックスの猛攻を軽くいなしながら綻びを突いて、取れる駒を取りまくり・・・そこで、はたと考えた。

このまま、武田騎馬隊のように短時間で圧勝したら、フィリックスの男のプライド粉々にしてしまうのではないの?

もう三手以内にチェックメイトできるわー。という段階で、私は意味のない動き方を駒にさせた。

さらに必要のない長考をしてみる。

そしたら、ゴホン!とどこかから咳払いの音が聞こえた。私達の机の側で、勝負を見学していたコンラートだった。うわっ!手を抜いているのがバレている。

他の15組の勝負も勝敗が決まりつつあるようだ。そして、他の勝負を見学していた第二王子が、私達の机の側にやって来た。

この人に側に来られると心臓に悪い。私は勝負を終わらせる事にした。

今までキングをがっちりガードさせていたクイーンを中央突破させる。それでチェックメイトだった。

勝負が決まった瞬間

「おおぉ!」

と見学していた大人達からどよめきの声が上がった。

「初戦で公子が負けるとは!」

「相手の娘は誰だ⁉︎」

「エーレンフロイト家の姫だそうだ。」

「エーレンフロイトといえば、あのっ!!!」

「うあああぁぁ!なんて事だ‼︎借金して、アーレントミュラー卿に大金を賭けたのに・・・。」

いかんやろ!借金してまで賭け事したら。

見たところ、うちのお父様より少し年上のおっさんだった。だとすると、私と同じくらいの年頃の子供とかいるんじゃないのか?

可哀想に。親がギャンブル狂なんて、親がアル中なのと虐待をしてくるのと並ぶ三大悲劇だ。

「よくやった。ベッキー。」

と言ってコンラートが頭を撫でてくれた。そしたら何故か、また周囲の人間達からどよめきが起こる。

勝負が終わった私とフィリックスは、握手をしてお互いの健闘を称え合う。

なんて事はなかった。

フィリックスは、顔をトマトのように真っ赤にして、唇を引き結んでいた。そしてガタッと大きな音をたてて椅子から立ち上がり、無言でその場から立ち去った。後ろ姿からものすごい怒りのオーラが伝わってくる。

今、超ゴンぶとの死亡フラグが高々とあがったかもしれない。

そう思うと、勝ったけど、しょっぱい気持ちになった。

そんな気持ちに追い討ちをかけるように第二王子が話しかけてくる。

「素晴らしい勝負だったね、姫君。姫君は誰に師事しているんだい?」

怖い・・・。

怖くて王子と目が合わせられない。

怖くて、コンラートの後ろでもじもじしていると、コンラートが代わりに

「元々は、私の祖父でしたが、今は私が見ています。」

と答えてくれた。

「おお!昨年優勝したシュテルンベルク小伯爵が。」

「ならば、この強さも納得だな。」

と周囲の人々がまたひそひそと言っていた。

「ベッキー。第二王子であられるルートヴィッヒ殿下だ。」

と、コンラートが私に言う。もしかして挨拶をしろ、という意味だろうか?したくない。この人の記憶に残りたくない。

「ベッキー、って呼ばれているんだ。私もそう呼んでかまわないかな?」

と王子が言った。

良いわけないやろうがーっ!!!

と口が裂けても言うわけにはいかない封建社会。

私は、コンラートの服の袖を引っ張りながら体を縮こませた。

「殿下、申し訳ありません。ベッキーは緊張して声が出ないようです。まだ、幼い子供ですからどうかご無礼をお許しください。」

「強気な駒運びをするのに、控えめな性格なんだね。」

と言って王子は微笑まれた。過去の私だったら、きっと嬉しくて飛び上がっただろう。

だけど、今は・・・。

ようやく王子がどっか行ってくれて、私はほっとしてへたり込みそうになった。

「大丈夫か、ベッキー?ルートヴィッヒ殿下とフィリックス様は仲が良いから、怖かったよな。」

「・・う・うん。」

「顔色が悪いぞ、ベッキー。もし、これ以上無理だと思うのだったら、棄権して帰ってもいいんだ。」

いやいやいや!ここで棄権したら、あらゆる意味で、あいつ何だったんだ⁉︎という事になる。既に、フィリックスにはちょー恨まれているはずだ。もう後戻りはできない。

私は「大丈夫よ。コンラートお兄様。」と言って、次の対戦相手のいる机に歩きだした。

「よろしくお願いしますね。エーレンフロイト姫君。いやしかし、先刻は凄かったですね。ビギナーズラックというのでしょうか。私も気をつけないと。あはははは。」

そう言った次の対戦相手は、何とか子爵の従兄弟の次男という人だった。

別に、そう顔面偏差値が低い顔なわけではないのだが、なんかすごい醜男に見えてくる。

露骨にこちらを見下してくるから、そう思うって訳ではないよ。一応。

「よろしくお願いしますね。」

と、おしとやかに挨拶したが、勝負は瞬殺させてもらった。

だって、フィリックスより勝つのに時間がかかったら、この男よりフィリックスの方が弱いって事になるでしょう。

フィリックスの面目を保ってあげる為に私も必死なのよ。

その次の対戦相手は、もう一人の女の子だった。その子は14歳らしくって、大人と同じくらい背が高くて、大人と同じくらいメリハリのあるボディーをしていた。

「貴女もここに結婚相手を探しに来たの?」

「・・・。」

意味がわからんっ!

むしろしたくないから来ているのだ‼︎

こういうタイプは、さっさと試合に負けてさっさと男の子とおしゃべりをする方がむしろ本望だろう。

私は容赦なく撃破した。

そうやって、さっさと勝負を終わらせていると、私の決勝進出が決まった時、まだもう1組の準決勝の勝負が終わらないという状況になっていた。

仕方なく、どちらが勝つか試合を見ていたら

「ベッキー。これ、食べるかい?」

と言って、コンラートがサンドイッチを皿にのせて持って来てくれた。

「オレンジのマーマレードに、リンゴンベリーのジャムとルバーブのジャムだそうだ。」

マーマレードはともかくとして、他のジャムは聞いたことも食べた事もない。

私はリンゴンベリーのジャムサンドを手にとった。

むむ、これはコケモモのジャムにそっくりな味だ。というか、コケモモではないのか?

「おいしい。甘い。すごい甘い。すんごいおいしい!」

感動した。正直、立て続けの勝負で脳が疲れていたのだろう。甘いものが体にしみた。

「いくらでも持って来てあげるから、しっかり食べるといい。」

「うん。」

さすが王宮の軽食。クオリティーが高い。優勝賞品にも、これは期待が持てるなあ。

絶対優勝するぞ!と、モチベーションが爆上がった。

そして迎えた決勝戦。

私は対戦相手を5分でくだして優勝した。