軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

絵本作り(2)

「タヌキって、何?」

「・・・えっ?」

実は。クラリッサにも同じ事を聞かれたのだ。

「タヌキは、犬やキツネの仲間で、見た目はアライグマやアナグマに似た動物です。」

と、私は答えた。

「そうなのですか。すみません。知識不足で。しっかり調べて本にしますから。」

とクラリッサが言ったので、ヴァイスネーヴェルラントにはタヌキがいないのかな?クラリッサは都会っ子?

とか思ったのだけど。

もしかして、ヒンガリーラントにも、いや、西大陸にタヌキっていないの⁉︎

「タヌキは犬やキツネの仲間で、アライグマやアナグマによく似た動物です。」

と、私はお母様に答えた。

「ポンポコ、と鳴くの?」

「あ、いや、それは・・。」

「あなた、どこで見たの?王都?エーレンフロイト領?もしかして、ユリアーナがペットに飼ってるの?」

「いや・・あの、本で読んだんです。」

「何て本?どういう内容なの?」

「えーと、それは。」

仕方なく、私は文子だった頃読んだ本の内容を、ヒンガリーラントにもある語句に変えながら話し始めた。

『むかし、むかし。あるところに貧しいタヌキの家族が住んでいました。

「お父さん。お腹空いたよう。」

子供達がシクシクと泣くので、お父さんは、お母さんタヌキと子ダヌキ達に

「お父さんが、ケトルに化けるので、お父さんを古道具屋さんに売りなさい。誰も見ていない時にタヌキに戻って、帰って来るから。」

と言いました。お父さんタヌキは、頭の上に葉っぱを乗せて、ドロンとケトルに化けたので、お母さんタヌキはケトルになったお父さんを売りに行きました。お父さんタヌキは、その後ある宗教家に買われていきました。

お父さんタヌキは、誰もいなくなったタイミングを見計らって、タヌキに戻ろうとしました。ところが、何という事でしょう!頭と手と足としっぽは元に戻ったのに、胴体がケトルのまま元に戻れません。お父さんが慌てていると、宗教家に見つかってしまいました。お父さんタヌキは

「ごめんなさい、ごめんなさい。子供達に何か食べさせてやりたかったのです。」

と、泣きながら謝りました。宗教家は、お父さんタヌキの愛情に感動し、タヌキを許してあげました。

そして更にこう言いました。

「君の今の姿はとっても可愛らしいよ。その姿で曲芸をしたらどうだろう。そうしたら、家族の為にお金が稼げるだろう。」

そう言われたお父さんタヌキは、修道院のお庭で、綱渡りなどの曲芸を始めました。お父さんタヌキは、街の人気者になり、たくさんお金を稼げるようになりました。そして、タヌキの家族はいつまでも幸せに暮らしました。』

「ようするに、その『タヌキ』という生き物は、火を吐くドラゴンや翼のある馬と同じで架空の生き物じゃないの!頭の上に葉っぱを乗せてケトルになるなんて、あなたは、その年になっても、空想上の生き物と現実の生き物の違いがわからないのっ!」

お母様に怒られた。

いや、わかってますよ!本物のタヌキは、茶釜になんかならないし、腹つづみも打たないし、カチカチ山の近くで薪を背負ったりしないって。でも、咄嗟にシートン動物記的なエピソードが思いつかなかったんだもの!

イザークさんとクラリッサの方を見たら、二人は滂沱の涙を流していた。

「素晴らしい話です!お父さんタヌキにも宗教家にも、共感しかないです。」

「貧しくて子供を売るとか捨てるとかいう話は、現実に多いですけれど、お父さん自ら売られていくなんてなんて感動的な話なのでしょう!」

「どういう方が書いた話なのですか?作者にぜひお会いしてみたいです。」

「この話を絵本にして出版してみたいですわ。」

・・それはー、ちょっとムリじゃないでしょうかねー。著作権的に。

「とにかく。」

とお母様は頭を抱えながら言った

「空想上の生き物を、現実の生き物と一緒にしたら王女殿下が混乱されます。タヌキはいけません。アライグマに似ているというのなら、アライグマでいいじゃないの。私も、アライグマがなんて鳴くのかは知らないけれど、リスがコツコツならアライグマはゴシゴシとかジャブジャブで良いのではないの。アライグマにしておきなさい。」

「はーい。」

6匹いるのはアライグマになった。

「この絵本は王室に献上するものとなります。お金はいくらかかっても構いません。最高品質の紙とインクを使い、優秀な絵師の絵をつけてください。」

とお母様は言った。ちょっと待ってください、お金出すのは私なんですよ。それとも、お母様もお金出してくれるんですか?

「お任せください。最高の絵本をお作り致します」

イザークさんがいい笑顔でそう言ったのが怖かった。

そしてイザークさんとクラリッサは、ヴァイスネーヴェルラントに帰って行った。

そして2週間後、うちを再び訪ねて来た。

「複数の絵師に、実際に絵を描いてもらいました。この中から、最も良いと思われる物をお選びください。」

仕事が早い!

ヴァイスネーヴェルラントの王都まで4日はかかるはず。往復で8日だ。残りの日数で、絵を集めてくるなんて、ちゃんと寝てたの?

見せてくれた絵は8人分だった。

正直どの絵も、すっごいリアルだった。

リアルすぎて、子供が怯えてギャン泣きするするのではと思うような絵もある。

私としては、ブルーナの絵本みたいなシンプルでゆるーい絵を期待していたんだけど。

でも、絵本とかマンガのない世界でディフォルメした動物の絵というのは難しいのかなあ。『ゆるキャラ』というのも日本独特の存在で、他の国にはほとんどないと聞いた事あるし。

その中でも一番マシだった絵を、私は指差した。

犬も猫もアライグマもみんな子供で、目がクリクリしていて、脚も短くて可愛かった。

「あえて選ぶならこれですね。ただ、赤ん坊向きの本なので、もっと線とかシンプルでいいんです。生物学的正確さはいりません。可愛い。ただそれだけです。大げさなくらい、ただただ可愛さを強調してほしいんです。」

「そうね。私もこれが一番良いと思うわ。図鑑ではないのですもの。何より幼い子供が喜ぶ絵ではないと。」

とお母様もおっしゃった。

「承知しました。ただ、その・・。」

イザークさんはもごもごと口ごもった。

「この絵を描いた絵師の名前は、ジークハルト、クラインという人で、その、アレクサンドル、クライン氏の養子なのですが、実際は甥なのだという噂なのです。クライン氏がはっきりと断言しているわけではないのですが・・。」

それが、どうしたというのだろう?話が見えない。アレクサンドル、クラインって誰?

「・・まあ、そうですの。」

と、お母様は何かを懐かしむように遠い目をした。

「お母様の知り合いですか?」

「ええ、彼女の本名はアレクサンドラと言って、ヒルデブラント侯爵の妹です。年も近かったし、あなたくらいの歳の頃仲良くしていたの。私達の結婚式にも来てくれたのよ。でも、その少し後、小説家になるのだと言って、家を捨ててヴァイスネーヴェルラントへ行ってしまいました。彼の地で人気の小説家になって、今では女男爵の地位を賜ったと聞いています。」

あっ!と思った。ユリアから聞いた、ジーク様の叔母様の事だ。

あれ?という事は、甥って。もしかして、本物のジークレヒトさん?

私は、彼の描いたという絵をじっと見つめた。

そういえば、記憶の中の幼い彼は絵を描くのが好きだったような気がする。

今は、ジークハルトと名乗っているんだね。

遠い異国で頑張って暮らしているんだ。私は胸が熱くなった。

「お母様。私、この絵がいいです。この人の絵にしたい。」

「そうね。私もこの絵が一番良いと思うわ。これにしましょう。」

私は、ふと、とある事が気になった。

「お母様は、そのアレクサンドラさんの書いた本を読んだ事があるんですか?」

「ええ、もちろん。ありますよ。」

「うちの図書室にもありますか?私、読んでみたい。」

「・・・・・う、うちにはありません。・・亡くなられた侯爵夫人、ジークリンデ様にお借りしたのです。」

本当か?お母様、めっちゃ目が泳いでいるぞ。

イザークさんとクラリッサに視線を移すと目をそらされた。彼らは商人だというのに、「ぜひ、お買いになりませんか?」と勧める気はないようだ。

まあ、しょうがないか。R 20作品らしいからな。

(どんな内容だったかお忘れになった方にはぜひ『ジークルーネの叔母の話』を読み返してほしいです。)

そうして、本作りは着々と進んでいった。