軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

或る真珠の物語

その招待状を見た瞬間、不正脈が出そうになった。

「わ・わわわ私なんかに何の用だろう?」

「他の女ならともかく、何故あなたがそれを言うの?」

とエリーゼに呆れられた。

「だって、今までは用がある時はうちに来ていたのに。」

「今までとはもう立場が違うわ。ルーイは王太子になったのよ。今までほど自由には行動できないのよ。」

と言った後。

「たぶん、アズールブラウラントの戴冠式の件よ。」

とエリーゼは言った。

「アズールブラウラントの王様が王太女に生前譲位をするそうよ。新国王の戴冠式は三ヶ月後だけど、きっとルーイは式に招待されているんでしょう。あなたに一緒に行くか打診したいのではないの?」

「譲位って、珍しいですよね?」

「そうね。天然痘で息子二人を亡くして、王様はすっかり体が弱ってしまっているという噂だから。まあ仕方ないわよね。人は親を亡くすと過去を失くし、子供を亡くすと未来を失くしてしまうから。二人共すごい馬鹿息子だったという話だけどね。馬鹿な子ほど可愛いのよ。親ってありがたいわよね。」

それはわかるような気がする。一周目でも、ヨーゼフが死んでお母様は後を追うように死んでしまった。『紅蓮の魔女』のような例外もいるが、大抵の人にとっては子供を亡くすというのは耐え難い経験なのだと思う。

「王妃の兄弟姉妹も全員呼ばれているそうだから、西大陸各国の王族がずらりと揃い踏み、という事になるわよ。ブリュンヒルデ王太女は、一千個の真珠を身にまとって戴冠式に臨むという噂だけど、噂通りならさぞ壮観な光景でしょう。」

それはすごい!

ルートヴィッヒ王子と一緒に旅行というのは気が重いが、一千個の真珠はちょっと見てみたい。

アズールブラウラントは苦節ウン十年。この度、真珠の養殖に見事成功したのだ。

ユリアの話では、この養殖事業にも『稀人』が一枚噛んでいるらしい。

今から数十年前、稀人がアズールブラウラントに現れ、ホタテとウニと真珠の養殖の方法をアズールブラウラント人に伝えた。ところが、その稀人はこの世界に来て三ヶ月で、蜂に刺されてアナフィラキシーショックで死んだらしい。

アズールブラウラント人達は稀人が残した研究ノートを参考に、ホタテとウニと真珠の養殖研究を進めた。

そして見事ホタテとウニと真珠の養殖全てに成功をしたそうだ。きっと戴冠式後の晩餐会では、ホタテとウニとアコヤ貝の貝柱が惜しみなく振る舞われる事だろう。

このニュースはアズールブラウラントにとっては、プロジェ◯トXで紹介して欲しいくらいの感動を呼ぶ快挙だっただろうが、他国にとっては悪夢だった。天然真珠の資産価値が大暴落したからだ。天然真珠に投資していた投資家は大損をしたわけである。

「レーリヒ商会は大丈夫だったの?」

「はい。養殖真珠が完成間近と聞いていたので、値段が高い時に全部売っておきました。」

「誰から聞いてたの、その情報?」

「ジーク様です。」

聞けば、ジーク様とコンラートお兄様が真珠の養殖研究にかなりの額を出資していたらしい。

真珠の研究をしていたのは、アズールブラウラントの国立海洋水産大学だ。ところが、(天然痘で死んだ)王子様が国立大学の理事長に就任した途端、結果を出していない研究は打ち切ると決めてしまった。その時真っ先に打ち切られてしまったのが真珠の養殖研究だ。研究員達は研究を続ける為、スポンサーを必死になって探した。しかし、アズールブラウラントの商人は「夢物語だ」と笑って誰も出資してくれなかった。

それで研究員は、ヒンガリーラントでスポンサーを探した。そしたら、コンラートお兄様とジーク様がなってもいい。と言って巨額の資金を出したのだそうだ。

「それ、いつの話?」

「天然痘がブルーダーシュタットで流行り出した頃の話です。」

「あー、その頃ではスポンサーも見つからなかったかもね。」

この話を知ったブリュンヒルデ王太女は、亡き兄に対して激怒したそうだ。兄の愚かな決定のせいで、養殖真珠利権の9割が外国に流れたのである。

だけどヒルデブラント家は、真珠の配当権をアズールブラウラント人のミュリエラ・シュリーマンに譲渡した。(『林檎の間・7』での話です)

シュリーマン商会は王室御用達商会になり、王家は大量の真珠を手に入れる事が可能になったのである。

その大量の真珠を戴冠式に来てくれる外国のお客様に見せびらかせば、羨ましがられて、結果お客様達が真珠をたくさん買って帰ってくれる事だろう。天然痘で荒廃したアズールブラウラントは莫大な外貨を稼ぐ事ができるというわけだ。

そして、それはシュテルンベルク家も同じ事。

「来年にはシュテルンベルク家が、ヒンガリーラントで一番豊かな領地になるわよ。」

とエリーゼが言った。

「何にでも金と口を出すジーク様が、真珠に投資したのは意外でも何でもないけれど、何でコンラートお兄様が出資したんでしょう?」

「知らないわよ。本人に聞けば。王都にもう戻って来ているわよ。」

「機会があれば。」

真珠云々よりも、もうコンラート達が王都に戻って来ているという情報の方が気になった。

コンラートとジークルーネは、私を殺した犯人かもしれないのだから。

そんな恐怖と不安の中で、私はガッタンゴットンと馬車に乗って王宮へ出かけた。同行してくれる侍女は一周目と同様ユリアである。ただし今回は護衛騎士も同伴させた。アーベラとティアナだ。

本音を言えば仮病を使って、行くのをお断りしたかった。

だけどそれは何の解決にもならない。むしろ犯人に襲って来てもらえた方が、犯人がわかってありがたいくらいなのである。

私は生きてこの家に帰ってくる事ができるだろうか?

不安を感じながら私は王宮へと向かった。