作品タイトル不明
5月12日(4)
そうしているうちに5月になった。
その招待状はいきなりやって来た。
コンラートとジークルーネの結婚式に招待されたのである。
式までの日取りは半月を切っている。しかも開催場所は辺境のシュテルンベルク領だ。こんな招待、ヒンガリーラントでは非常識である。いや、令和の日本でも非常識だろう。
「突然どうしたんでしょうね?」
と私はエリーゼに尋ねた。
「私が呼んでくれと頼んだのよ。四月の末には私達、エーレンフロイト領から王都に戻っていたでしょう。この日程なら、これから行っても間に合うと思って招待してくれと頼んでみたの。」
・・・それは、シュテルンベルク領も大、大、大迷惑だった事だろう。だけど、こちらは侯爵家で向こうは伯爵家。断る事はできなかったのだ。
「それならそれで、『頼んでみた』と一言言っといてくださいよ!ドレスとかどうするんですか⁉︎」
「私の社交界デビューの時に来たドレスを着たら良いじゃない。シュテルンベルク領の領民は誰も見た事の無いドレスなのだから、それで十分でしょう。私はね。思い立ったら、即行動せずにはいられない人間なのよ。」
確かに、そうですね。
私はとほほ、と思った。この人と義理の姉妹になって一生涯の付き合いになっていくなんて厳しいわー。
まあ、私の『一生涯』は後十日くらいしかないかもしれないけれど。
「ジーク様達だけの結婚式ですか?伯爵とリナさんの結婚式はどうなっているのでしょう?」
「もう終わっているわよ。伯爵の結婚式と同時に収穫祭を始めて、ジーク達の結婚式で収穫祭を終えるそうなの。」
「お詳しい事で。」
そして超特急で準備をし、私達家族は5月6日に王都を出発した。
大変ではあったが、家族のテンションは高かった。お父様とお母様はシュテルンベルク領に行くのは久しぶり、と喜んでいるし、ヨーゼフとヘンリクは初めて行く場所にわくわくして飛び跳ねている。まあ、私もだけどね。ただ『シュテルンベルク領に行ける』という事よりも『王都を離れられる』という事の方が嬉しかった。
よりにもよって、結婚式は5月12日に行われる。その日に王都にも王宮にもいなくて済む事はかなり嬉しかった。
そして、私達を乗せた船は順調に進んで行き5月9日にシュテルンベルク領の領都にたどり着いた。
それから3日間はまったりと過ごした。観光をしたり、ジーク様やアレクサ様とお茶会をしたり1日1日を楽しんだ。
悪い事もした。
準王族である私は、国に秘密で国境を越えてはいけないらしい。だけどエリーゼ様とリーシアと、1ダースの騎士達と共に平民のような格好をして国境を越え、ヴァイスネーヴェルラントに入り込んだ。そして国境に一番近いという街でこっそりヘレーネに会った。エリーゼ様が呼び出していて、アレクサ様が連れて来てくれていたのだ。1年ぶりの再会だった。
私は1日1日を大切に過ごした。おいしい物を食べ、綺麗な景色を見て大切な人達とゆっくり話をし、感謝の言葉を述べた。そんな私の事をジーク様は失礼にも不気味がったが、私は
「人間は、明日も必ず無事に生きているとは限らないんですよ。」
と力説しておいた。
そして5月12日を迎えた。
結婚式は豪華で、ジークルーネはこの上なく美しかった。ジークハルトさんは、引くほど号泣していた。
今、この場にいるのを不思議に思いながら私はその日1日を過ごした。階段にはできるだけ近づかなかった。
そして、夜になった。後、三時間で今日という日が終わる。私が殺された午後の時間は無事過ぎた。今日という日はこのまま終わっていくのだろうか。