軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5月12日(2)

トイレから戻ると、まだエリーゼとヨーゼフは楽しそうに話し込んでいた。

庭の中央では『聖女エリカ』に 縁(ゆかり) の踊りとやらを、シュテルンベルク騎士団が楽しそうに踊っている。

安来節(やすぎぶし) にそっくりに見えるのは気のせいだろうか?聖女エリカ。島根県民だったのか?

私達のいるテーブルは四人掛けでもう一人座っているのはリーシアだ。エリーゼ達の様子を気に留める事もなくお菓子を食べるのを楽しんでいるリーシアの強心臓が羨ましい。

「このロールケーキ本当に美味しいですー。」

と頬を押さえて幸せそうにしている。

地球で『ブッシュドノエル』と呼ばれていた、木型ロールケーキである。発案者は私だ。

従姉のリナさんに

「結婚のお祝いに珍しいお菓子のレシピが欲しい。」

と言われて、レシピをプレゼントしたものだ。

ロールケーキの作り方自体はお菓子職人のサーシャさんが知っていた。ブッシュドノエルは、その変化形である。チョコレートが無いのでコーヒーで生地とクリームを着色し、リーフパイやドングリ型のクッキーを飾り立てた。そうして、林業が盛んなシュテルンベルク家にぴったりのバエるケーキが出来上がった。写真に撮ってSNSで紹介できないのが残念なほどである。

私は、リーフパイをかじりながら今年に入ってから今日に至る迄の時系列をじっくりと考えてみた。

一月は新年祭。

二月は花の宴。

そして三月には、エリーゼ様とヨーゼフの社交界デビューがあった。

四月の収穫祭は、家族と一緒に領地で過ごした。その『家族』にはエリーゼ様も含まれていた。エリーゼ様はヨーゼフとの婚約を発表して以来ずっと我が家で暮らしている。そして領地経営や人事にガンガン口を出していた。

領地から王都の我が家に戻って来たのは四月の二十日だった。

戻って来てすぐ、エリーゼ様がプチお茶会をひらいた。参加者は、エリーゼ様、私、ユリア、コルネ、リーシア、ミレイだった。

「アカデミーが六月から再開するそうよ。」

とエリーゼ様が言われた。

アカデミーは一年前の『ジークレヒト事件』以来ずっと休校状態だった。副校長が新しい校長になり、教師達もごっそり入れ替えて再開をする事になったらしい。

ブラウンツヴァイクラントのカトライン王女のお祖父様も教師の一人になる。と聞いて私は「えーっ!」と思った。カトライン王女のお祖父様は大学の理学部発酵学教室の教授で、ヨーグルトの研究をしていた人だった。私は、お菓子の大学を作ったら彼に教師の一人になって欲しいと思っていたのだ。そう言うと

「大学ができたら引き抜けば良いではないの。大学はようやく建物を建て始めたばかりでまだまだ開校するには時間がかかるのですから。」

とエリーゼ様に言われてしまった。

「私は、アカデミーに戻るつもりでいるけれどミレイはどうするの?」

とエリーゼ様はミレイに聞いた。

「貴女は自分の将来についてどう思っているの?ベッキーの侍女になりたいの?それとも宮廷楽師になりたいの?」

「・・・なれるものなら、私は宮廷楽師になりたいです。」

ミレイは楽器演奏が好きで、ピアノとハープがとりわけ得意なのである。

「宮廷楽師になったら、舞踏会でずっと楽器を演奏する立場で自分は踊る事はできないのよ。」

「かまいません!私、ダンスとか結婚とか興味ありませんし・・。」

「だったら、シュテファリーアラントの音楽大学に留学しなさい。宮廷楽師は男性優位な世界です。それなりのキャリアがなければ女が入り込む事はできませんし入っても侮られます。西大陸で最も権威のあるシュテファリーアラントの音楽大学を卒業する事は最低限のラインです。

大学は七月が新学期で、入学試験は五月に行われます。すぐにシュテファリーアラントに行く準備をしなさい。伝染病やあの事件がなかったら、アカデミーを卒業してから行くので良かったのでしょう。でも貴女はもう16歳です。宮廷楽師になりたいのならアカデミーよりも大学を優先するべきです。」

「わかりました。」

とミレイは言った。

その横でぼけーっとお茶を飲んでいたコルネにエリーゼは言った。

「コルネ。ミレイと一緒にシュテファリーアラントに行きなさい。」

「へ?えっ⁉︎私、音楽はさっぱりですよ。」

「シュテファリーアラントは貴女のお父様だったフロレント卿が10年暮らした土地です。彼はユーファルク卿という画家の弟子になり、その工房で作品を制作していました。フロレント卿の作品はシュテファリーアラントの美術館にも飾ってあります。ユーファルク卿に会ってお父様が亡くなった事を報告して来なさい。ついでに美術館に寄って父親の絵を見て来なさい。」

「はい。」

レントさんの絵が美術館に飾ってあると聞いてコルネは興味を持ったようだ。キラキラした目をしてコルネは私に言った。

「ベッキー様も一緒に行きませんか?」

「ベッキーは駄目です。準王族であるベッキーが国外に出るには煩雑な手続きがいります。それを待っているとミレイが間に合わなくなります。」

とエリーゼは言った。

「ベッキーが外国で誘拐されたり亡命したりしたら大変な事になるのですよ。」

この数年、何かあったら亡命したらいいや。と思っていたが、亡命のハードルは意外に高いらしい。知らんかった。

というか、誘拐は誰がされても大問題やろ!

ま、でもいいか。

と私は思った。

何につけ私への依存度が高いコルネが私と離れて長期旅行に出る事は、コルネの成長につながると思う。

Xデーの時期にコルネが国内にいないというのは、私としても安心だし。

と思った。

そして、コルネとミレイは旅立って行き。その三日後。