軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

会談(2)(リヒャルト視点)

「構わないのか?」

と私は聞いた。

「構わないも何も、二人は元々婚約していたじゃない。解消したという報告は受けていないわ。」

「ジークルーネが、ハーゲンベック領でした事の報告も受けていないのか?」

「それは聞いたわ。今日の午前中、子爵夫人が私を訪ねて来たの。」

「へえ。子爵夫人は何て?」

「命乞いよ。司法省から守って欲しいと頼まれたわ。」

「それで、君は何て?」

「無理と断ったわ。先代ならばともかく、今の司法大臣が賄賂や脅迫に応じるわけがないもの。罪を犯したのなら罰を受けなさい、と言っておいたわ。」

「冷たい言い草だな。君の寄子なのだろう?」

「寄親と寄子は実の親子のようなものよ。あなたは、息子が妊婦を監禁して虐待していた事がバレたから助けてくれと言って来たら、助けてあげるの?」

「よくわかった。だけど、そしたらハーゲンベックは自暴自棄になって色々言いふらしてやる、とか言って来たのではないのか?」

「そんな事をすれば司法大臣が全てを詳らかにしてしまって、挙句石を投げられるのはあなたの方になるわ。と言っておいたわ。」

「納得したのか?」

「させるのよ。それが上に立つものの義務よ。クリストハルトは五年前にその義務を怠ったのよ。だから、長く問題が拗れたのよ。」

「・・・・。」

「言っておくけれど、私別にジークルーネの事嫌いじゃないのよ。」

ゲオルギーネはお茶を飲みながら言った。

「そうなのか?」

「むしろ逆。あの子のような娘が欲しかったわ。」

「・・・・。」

その気持ちはわかる気がした。

ゲオルギーネは自分に厳しく、その分他人にも厳しい女だったが別に悪人なわけではない。法と倫理は遵守している。だが、彼女の娘はろくでなしだ。わがままで周囲に理不尽な暴力を振るい、恐怖で他人を支配しようとする。男にだらしがなく、父親のわからぬ子供を次々と産み、自分になびかない男には冤罪を被せて殺そうとする。

彼女は『紅蓮の魔女』と何ら変わらない人間だ。

彼女が紅蓮の魔女のようにならないのは、アウグストのような人間が側にいないから。ただ、それだけだ。

あんな女が実の娘だなんて、ゲオルギーネとしては情け無い事この上ないだろう。それに比べるとジークルーネは遥かに素晴らしい娘だ。

口は悪いが心は優しく、利他的で、賢く行動力がある。

自分もあの子を嫌っていたが、それは『自分の息子を裏切った女の兄』だと、ずっと思い違いをしていたからだ。偏見の眼鏡を外してあの子を見たら、あの子は愛情深い素晴らしい子供だった。

「確かに私はジークレヒトを冷遇した。偉大だったお父様の血をひく子供を侯爵家の後継者にしたかったから。その為に私も妹達も一族の男と結婚したわ。そして私達三人の中で、最も後継者を産む可能性が高かったのがクリストハルトと結婚したヴィルへルミネだった。だからクリストハルトと先妻との間に生まれたジークレヒトは邪魔だった。なので離れに押し込め、余計な人脈を作らせなかった。有力家の、例えばエーレンフロイト家の娘とかと婚約して、強固な後ろ盾とかつけられたら厄介だから。」

その構図はよくわかる。

貴族家では度々ある事だからだ。

先妻が死んで後妻が入り、後妻の子を後継者にする為後妻の一族が先妻の生んだ男子を徹底的に冷遇する。

そうなる事が嫌で私は、再婚を拒んで来たのだ。

「でも、私達三姉妹は誰も男子を産めなかった。そして、ジークレヒトもいなくなったわ。この家にはクラウス王子殿下がやって来て跡を継ぐ。別に異論はないわ。ヒルデブラントは数多の王妃を輩出して来た一族。クラウス殿下の体の中にもヒルデブラントの血は流れているもの。ただ、虚しいだけ。必死になってもがいて来た私に残されたのは、クズな夫と馬鹿な娘と孫、そして悪党な寄子だけだもの。」

「辛辣だな。」

「希望を持つ事にはもう疲れたわ。クラウス殿下がこの家に来ると決まった時に決めたの。夫と離婚してこの家を出て行くわ。領地の端の方に引きこもって晴耕雨読の生活でもしようと思ってる。」

「王都を出て行くのか?」

「いつ、どんな事件を起こすかもわからない娘と親子で居続ける事はリスキー過ぎるわ。私はあの子を修道院にやりたいと何度も夫に言ったけれど夫が許さなかった。ヒンガリーラントでは子供は父親に属すると決まっているから、子供と縁を切りたかったら女は離婚するしか道がないの。でも、そうと決めたら晴れ晴れしたわ。もう、親族の事も寄子の事も、何も考えなくていいのですもの。」

「君の妹達は何て言っているんだ?」

「ルドルフィーネも離婚する気満々よ。あの夫婦、本当に仲が悪かったから。ヴィルへルミネは、もうずっと領地で静養しているの。周囲に男の子を産めという圧力をかけられ続けて、精神的に完全にまいってしまったのよ。あの子が表舞台に出てくる事はもうないわ。」

さっき、何故執事が彼女を『お嬢様』と呼んだのかわかった。ゲオルギーネは、おそらくもう離婚手続きを完了しているのだ。彼女はもう『奥様』でも『夫人』でもないのである。

ゲオルギーネは、私の顔を見てふふふと笑った。

「領地に引きこもったら、ジークルーネの結婚式に出られないのだけは残念ね。ジークルーネの花嫁姿に興味はないけれど、聖女エリカに縁のお宝を屋敷中に飾って執り行われるシュテルンベルクの結婚式には興味があったわ。ああ、でもそれより先に別の結婚式があるかもしれないかしら。」

私は閉口した。

私が再婚するかも。という噂話を聞いているのだろう。軽い頭痛を覚えた。

「結婚は相手次第では地獄よ。」

と言ってゲオルギーネは笑った。彼女が言うと説得力がある。

「君はもうハーゲンベックとは無関係という事でいいんだな?」

「復興貴族税を手切金に別れる事が決まっていたの。だって、そうでしょう。ヒルデブラントはクラウス殿下の物になるのよ。クリストハルトならともかくクラウス殿下に『私の息子がジークレヒトをレイプした事を言いふらされたくなかったら金を出せ』と言って、クラウス殿下がお金を払うと思う?」

「首が吹っ飛ぶだろうな。」

「風向きが変わって来ている事をハーゲンベックは自覚していたわ。だからこそ『森の賢者の会』なんかにクチバシを突っ込んだのでしょう。」