軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

撤収

正直言って私は心の底からほっとした。

だって小子爵様が、胴とか脛とかガラ空きの上段の構えでナタ振りかざして突進して来てたんだよ。それを迎え打つのは日頃から鍛錬を欠かさない騎士三人と、日頃から鍛錬を欠かさないジーク様。

あ、こいつ死んだわ。って思ったわ。

勿論正当防衛ではあるけれど、それでも目の前で人が死ぬのを見るのは良い気持ちがするもんじゃない。しかも、ここは子爵家のホーム。

こりゃ全速力で逃げなきゃ、かも。

と思っていたところ、誰もがあらゆる意味で救われたのだ。ありがとう、コンラートお兄様。ありがとう、リンゴ!

鼻血をダラダラと流して昏倒している小子爵の事も、その横でわなわなと震えている子爵夫人の事も綺麗に無視して

「二人共、迎えに来た。真珠宮妃様は、こちらの馬車にお乗せしてくれ。大学病院は、ノエル叔母様が手配をしてくださっている。」

とコンラートは言った。

そして、今来たばかりだというのに余計な事を言ったりしたりせず秒で撤収を始める。

何とも仕事が早い。

できる男だ。コンラートお兄様は!

子爵夫人が慌ててコンラートに向けて叫んだ。

「小伯爵様。あなたはその女の真実を知らないのですわ。その女がいったい何をしたのか!」

コンラートは子爵夫人をじろりと睨んだ。

「十分知っている。おまえが知らない事も知っている。」

「その女は!」

「撤収するぞ。」

そう言って、呆然と突っ立っていたジークルーネの側に行き、関節が白くなるほど握りしめていた斧をコンラートはジークルーネの手から取った。その斧を無造作に投げたので、未だ大の字になって昏倒している小子爵に当たるのでは、と一瞬ドキッとした。

そして私達は撤収した。

行きと違って、領館から城壁までの道で誰かに声をかけられる事はなかった。物乞いの人達に取り囲まれる事も当たり屋さんに激突される事もなかった。

城壁を出てからも、馬車がぬかるみに一回はまった事以外は何の問題もなく馬車は進んだ。そしてあっという間にアイヒベッカー家のリンゴ農園の側まで戻って来た。王都までは後10分ほどだ。

既に夕闇が迫って来る時間帯だ。王都の城門も間もなく閉じる。それまでに帰って来られて良かった、と思った。

と、その時。

「私はここでお別れさせてもらう。」

とジークルーネが言い出した。

「え⁉︎何で?」

と私は問い返した。

「ハーゲンベックに居場所がバレたからね。だからすぐにヒルデブラント一族内のアンチに私の居場所ややった事がバレるはずだ。そうなると命が危ないんで、また数年行方をくらませようと思う。」

あー、継母さんとその二人のお姉さんの事ね。ハーゲンベックがその三人の寄子なら、ハーゲンベックにギャフンと言わせるような行為は三ババさんのメンツを傷つける行為になる。それはリアルガチで命が危ないかもね。

ジークルーネ様が負けるとは思わないけれど、万が一にもヒルデブラント家からの刺客とかが別邸に現れて、王女様達に危険が及んだら?という事をきっと心配しているのだろう。

ま、この人の事だ。数年行方をくらませる。と言っているが、コンラートの事が大好きで離れられないストーカーだから、すぐ戻って来て、またコンラートの周囲をうろちょろすると思う。

コンラートもそう思っているのか

「わかった。じゃあ、またな。」

と、反応がスーパードライだ。ドライ過ぎて、エーレンフロイト家とシュテルンベルク家両家門の騎士達が引いている。

あ、これはコンラートの好感度が下がるかも。と思っていたら

「待って、ジークルーネ様!」

と声が上がった。リナさんだった。

「どうして、あなたが行方をくらませないとならないのですか⁉︎あなたは何も悪くはありませんか!・・・お願いです。行かないでください!」

必死になってそう叫んでいる。そして騎士達もめっちゃうなずいていた。

コンラートはものすごく無口な人なので、普段なら無視するところだろうが、リナさんが相手だと態度が真摯だった。将来、継母になるかもしれない人だもんね。

「このリンゴ園は、アイヒベッカー家の持ち物です。」

「え?」

「いくら初夏とはいえ野宿をするには寒い季節ですし、毛布や食料の用意もありません。それに城壁外には野盗や野生動物も出ます。なので、まさかルネもその辺りの道で野宿はしないでしょう。アイヒベッカー侯爵夫人はベッキーの友人で、弱者に対する寛大さや奉仕活動で有名な方です。絶対、ルネはアイヒベッカー家のカントリーハウスに一泊泊めて、と言って転がり込むはずです。ルネは明日の朝までは確実にアイヒベッカー邸にいるでしょうから、我々はまず何より真珠宮妃様を病院にお運びし、その後ルネの今後についてノエル叔母様やエーレンフロイト侯爵夫人に相談するのが良いのではと思います。」

コンラートがそう言うとリナさんはリンゴのように真っ赤になった。

「ごめんなさい。」

と言って私達に頭を下げる。

謝らなくていいんだよ。と私は思った。抗議をしたのはリナさんの優しさだ。リナさんは本当に優しい人なのだ。

継母が優しい人かどうかは子供の人生を大きく変える。リナさんが優しい人であってくれて嬉しいな。と私は思った。