軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ロートブルクラント脱出作戦

明けて翌日の事。

私は、厨房でお弁当を作っていた。

作っているのはいわゆるキャラ弁だ。

クマのぬいぐるみの顔の形に切った食パンでサンドイッチを作ったり、ゆで卵に切った赤パプリカをくっつけてニワトリを作ってみたり、だし巻き卵でハート型を作ってみたり、ハムや縦に薄くスライスしたキュウリでバラを作ったりしている。

お弁当箱の蓋を開けた時、フェルミナ様やクオレ君が「わー!」と喜んでくれたらいいな、と思って製作中だ。

私の横ではミリヤムがパンを油で揚げている。

「焼いた芋もおいしいけれど、揚げた芋もまた違うおいしさがあるじゃない。という事は揚げたパンも焼いたパンとは違うおいしさがあるのではないかな?」

と言ってミリヤムを唆し、パン生地を揚げさせているのだ。うはははは。

カラリと揚がったパンは、ものすごくいい香りがする。きな粉をまぶしたらめっちゃおいしいだろうな、と心が弾む。

ミリヤムが揚げ終わったパンを網の上に置いたので、私は指でつまみ上げてパクッとかじった。

「お嬢様!私が毒見をする前に食べないでください!」

とアーベラが怒る。

「えー、別に側で見ていたけれど、変なものなんか入れてなかったじゃない。すっごくおいしいよ。・・真ん中の辺りが生焼けだけど。」

「キャー!レベッカ様、出してください。生焼けのパン生地はお腹を壊す可能性がありますっ!」

ミリヤムが私の口をこじ開けようとする。

「だから、毒見を待てって言ったんです!」

アーベラは激オコだった。

ミリヤムの作ったパンはロールパン型だった。揚げパンが細長かったり、真ん中に穴の空いたリング型だったり、中にアンコとかカレーなど一度じっくり火で煮込んだ物が入っているのはちゃんと意味がある事なんだな、と私は気がついた。

私はシフォンケーキを例に挙げて、リング型にする事を勧めてみた。更にサーシャさんが、クリームやジャムそれにソーセージを中に入れる事を提案してくれた。グッジョブだ!サーシャさん。

素直なミリヤムは、すぐに提案を実行した。私は

「カトライン殿下も、揚げパン食べるかなあ。」

とつぶやいた。

「中に入っているジャムが、サクランボやラズベリーのように赤い物でなければお食べになるんじゃないですか。」

とアーベラが言った。

そうなのだ。

昨日、夕食にハンバーグの赤ワイン煮込みとジャムサンドをお出ししたのだが

「色が赤いものは食べられない。」

とおっしゃったらしく、ママレードのサンドイッチしか食べられなかったのだそうだ。

何故、赤いものが食べられないのか?それは容易に想像がつく。

まだ15歳の女の子が、この数ヶ月本当に辛い体験をして来たのだろう。

だからこそ、おいしいものを食べて元気を出して欲しいと思っている。

昨日の夜。

私と両親とノエライティーナ伯母様とついでにエリザベート様は、ライルさんから冬の王都が攻撃され始めてから今日までの話を聞いた。

王都は当初攻撃に持ちこたえていた。それなのに王様が王都民を置いて逃げ出した途端、防衛体制がグダグダになり、あっという間に陥落したという。

身を寄せていたレーヴンバルト伯爵家も一応貴族家だ。屋敷には脱出用の地下道があった。そこを通ってライルさん達は王都の外に脱出した。最初からロートブルクラントを目指していたわけではなく、とにかく反乱軍を避けて避けて逃げているうちにロートブルクラントの方向に行ってしまったのだそうだ。

ライルさん達はロートブルクラントに着いたあと更に北のヴァイスネーヴェルラントを目指そうとした。ところが、ロートブルクラントはブラウンツヴァイクラントの王位継承権を主張してブラウンツヴァイクラントに宣戦布告した。それと同時にブラウンツヴァイクラント人狩りが始まった。

ロートブルクラント内にいるブラウンツヴァイクラント人は捕虜としてどこかに連れて行かれ、抵抗する者は容赦なく殺されたそうだ。

その時に見聞きしたもののせいでどうやら、カトライン殿下は赤いものが食べられなくなってしまったらしい。

もう、どうしたら良いのかわからず、何もかも諦めてしまいそうになった時、ノエライティーナ伯母様達の行方を偶然知ったそうだ。

拾った新聞の探し人の欄に自分達の事が書いてあったのである。

その話を聞いて、外国の新聞に記事を載せてもらって良かった。と、心から思ったものだ。

新聞には、情報をお持ちの方はレーリヒ支店にお寄せ頂くと金一封差し上げます。と載せておいた。なのでライルさん達はロートブルクラントの王都にあるレーリヒ支店に向かった。

もしかしたら罠かも?と、ほんのちょっとは思ったらしい。だけど何もしなければ座して死を待つ状況だったそうだ。一縷の望みをかけて一行はレーリヒ支店のドアを叩いた。

そして、それからまるで、映画のような脱出劇が行われた。

ロートブルクラントのレーリヒ支店の支店長は女性だった。年齢はユリアの父親ダニエル氏と同世代。名前をトゥーリアと言った。

ブラウンツヴァイクラント人の数は13人。その13人を人間狩りをしている役人や賞金稼ぎ達から守り、無事国境を超えてヒンガリーラントへ送り届けなくてはならない。

13人の人達は、育ちと職業通りの人達に見えた。学者先生が大道芸人に見える事も貴族令嬢が蛮族に見える事もなかった。

つまり学者とその妻、学者の弟子が3人。筋肉ムキムキの男が5人。高位貴族の女性が2人、メイドが1人。という見たまんまの集団に見えたのだ。

その見た目をできる限り誤魔化さなくてはならない。

学者夫婦と弟子それとメイドは、服装を変えれば商家の従業員に見えたのでこれは問題ない。

問題はマッチョ5人と、隠しても隠しきれない浮世離れ感のある美女と美少女だ。この7人はどう見たって商人には見えなかった。

なので、マッチョ5人は荷物の護衛という事にした。5人も護衛がいるという事は、それなりの量の高価な品物を運ばなくてはならない。だが、伝染病のせいで極限まで物が無くなったロートブルクラントで『それなりの量の高価な物』を買い付ける事は難しかった。

悩んだトゥーリアは赤字覚悟で大量の絵を買う事に決めた。ヒンガリーラントでは伝染病収束後、たくさんの貢献した商人や医者が新しく貴族となった。その人達が貴族街に豪邸を建てたり買ったりするので屋敷に飾る絵が大量にいるという口実だった。

絵はそれなりの大きさと重量があるので大荷物になり、運ぶのに大量の商会員と護衛がいる。

絵が高価かどうかは主観の問題なので、こんな下手な絵に護衛がいるのか?と疑問に思われても「この絵の素晴らしさがわからないのですか⁉︎」と押し通す事ができる。

現実にはヒンガリーラントにも画家はいくらでもいるし、破産寸前の貴族が絵をどんどんと売っているのでそんなにたくさんの有名画家でもない人の絵なんか全く需要がない。だから絵を大量に買ったりしたら大赤字を出すだろう。だけどライルやアデム達の為にトゥーリアは絵を買いまくった。画廊は勿論、道端で絵を売っていた売れない画家達からも絵を買いまくったのだ。

更にトゥーリアは何人かの画家にヒンガリーラントに行かないか?と誘いをかけた。知らない土地を旅する事は作品にインスピレーションを与えるだろう。伝染病の影響が少なかったヒンガリーラントに定住したいというのなら、積極的に援助する。

その呼びかけに17人の画家と画家の家族達が乗って来た。食べ物も無く、治安が悪化する一方のロートブルクラントに見切りをつけたのだ。

何より彼らは、戦争が始まり徴兵される事を恐れていた。

その雑多で個性的な集団の中にカトライン内親王殿下とリオンティーネ伯爵令嬢を紛れ込ませたのだ。

それにあたり2人にも非常に個性的な出で立ちをしてもらった。黒髪のリオンティーネ伯爵令嬢は白と黒のゼブラ柄に髪を染め、東大陸の民族衣装をアレンジした奇抜な衣装を着てもらった。カトライン殿下には両耳に「ルーズリーフか⁉︎」と言いたくなるほどたくさんの輪っか型イヤリングをつけ、邪教のシャーマンのコスプレみたいな服を着てもらった。衝撃の個性で漂う品格を打ち消したのである。

売れない画家達の中には、顔に刺青を入れたり、鼻や唇にピアスをしたり、女性なのにツーブロックな髪型をしていたりと非常に個性的な人も何人かいた。なので2人はその中になんとか溶け込むことができたのである。

そうして大集団となったレーリヒ商会一行は国境へ向かった。

トゥーリアは国境の警備兵に『袖の下』を渡して詳しい確認を免除してもらった。警備兵も支店の人間や荷物にはそれなりに注目したが、ムキムキな護衛や見るからにヤバいオーラを発しているカトラインとは目を合わせようともしなかった。

そして何とか無事にライル達はヒンガリーラントに入国した。