軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

希望と笑顔

そして週末。

やっとノエライティーナ伯母様に会える日がやって来た。

私は朝から笑顔を作る練習を鏡の前でしていた。しかし、不思議な事に努力すればするほど表情に凶悪さが増して行くような気がする。なぜだ?

「お嬢様。そんなに一生懸命笑顔の練習をしなくても、自然な状態で美しいとルートヴィッヒ殿下は思ってくださいますわよ。」

髪を梳かしながらユーディットが言う。

違う!

と言いたいがやめておいた。王子にも愛想良くしなければならないのは事実なのだ。

なぜか突然、今日ルートヴィッヒ王子までうちに来る事になったのである。しかもフィリックス公子まで一緒にである。

本音を言うと断りたかった。しかし、エリーゼ様が今日うちを訪問したいと言って来て、それにOKを出した後に訪問を打診されてしまったのだ。

エリーゼ様は良いけれど王子は駄目だと言う事はできない。

皆さん、そんなに私の親族に会いたいのか?と思うがきっと会いたいのだろう。

私の親族と王族の間には今微妙な問題が持ち上がっているのである。

私には『医療大臣』をしているシュテルンベルク伯爵という独身の従兄がいる。

そして、王様には未亡人になって隣国から出戻って来たクラウディア殿下という妹がいる。クラウディア殿下の三人の姉妹は全員国内の公爵家に嫁ぎ公爵夫人になった。そのうちの一人がエリーゼ様の母親のフリードリア様だ。

夫を失ったクラウディア殿下が、修道院にでも入って亡き夫を偲びたい。とでも思ってくれていたら何も問題はなかったのだが、クラウディア殿下は再婚する気満々でいるらしい。しかし『公爵夫人』の席も『侯爵夫人』の席も空きは無い。そもそも30代40代で独身の爵位持ちなどほぼほぼいないのだ。そんなほぼほぼいない爵位持ちの中で最も身分の高い独身男が我が従兄、シュテルンベルク伯爵リヒャルトなのである。

クラウディア殿下は、リヒャルト様と結婚するべくリヒャルト様をロックオンしているらしい。

そして、うちの親族は全員揃ってこの結婚には反対だ。

クラウディア殿下が性格に難あり、な方だというのが最大の理由だが、もう一つ重要な理由は親族全員、シュテルンベルク家の跡取りにはリヒャルト様の亡き妻エレオノーラ様が生んだコンラートが相応しいと思っているからだ。

クラウディア殿下が降嫁して来て男の子を生んだら、シュテルンベルク家で血みどろの後継者争いが起こる事になるだろう。

エリーゼ様も、この結婚には反対している。

しかし別に、政治的な思惑とかがあるわけではなく、ただ単にクラウディア殿下の事が嫌いだから反対をしているっぽい。

よくわからないのは、ルートヴィッヒ王子とフィリックス公子だ。

王族としては、浪費家でいばりんぼな王女などさっさとどこかに嫁にやってしまいたいと思っているはずである。名門シュテルンベルク家の後継者がコンラートではなく、自分達の血族である方が内情に介入しやすくて良い。と思っている可能性もある。

つまり、この二人は結婚賛成派である可能性が高いのだ。

ここで我々親族間の希望となっているは、この度ブラウンツヴァイクラントから戻って来た親戚の存在である。

ノエライティーナ伯母様の二人の娘の内、次女のリナさんが出戻りで独身なのだそうだ。

お母様達親族家臣一同は、リナさんとリヒャルト様を結婚させたいと願っているらしい。

クラウディア殿下がリヒャルト様を狙っている事が噂になっている状態で、うちの娘を嫁に、と言って来てくれる貴族家はない。もしもいたら王族に睨まれて、下手すればお取り潰しになるだろう。

しかしリナさんなら『シュテルンベルク家の令嬢』という扱いになるので、そもそも後見人がリヒャルト様だ。結婚しても圧力をかけられる家はシュテルンベルク家である。

そしてリナさんが前の夫と離婚した理由というのが、子供が産めなかったからなのだそうだ。なので、リナさんがコンラートのライバルになる男の子を生む可能性はものすごく低い。万が一男の子を生んだとしても、同族の彼女が生んだ子供なら彼女が実家の威を借りて後継者問題を起こす可能性はない。

リナさんは、コンラートを後継者に望む人達にとって理想の伯爵家の後妻なのだ。

それすなわち、王族にとってリナさんは最大最強の邪魔者だという事である。

というわけで、王子と二人のイトコ達はリナさんの顔を一目見に来たいのであろう。

まさか、ルートヴィッヒ王子がいきなり暗殺をして来るとは思わないが、リナさんを牽制したり悪意のある嫌味を言って来るかもはあるかもしれない。もしも「シュテルンベルク伯爵は僕の叔母と結婚する事が決まっているからおまえは身を引け」とか言って来たら、事故を装ってハンバーグソースを頭からぶっかけてやらなければならない。

シュテルンベルク家の後妻になる事がリナさんの幸福なのかどうかはわからない。リナさんは離婚をしたり難民になって国を追われたり、苦しい事の連続な人生だったのだ。リナさんがこれ以上辛い思いをしないよう私だけでも、全面的にリナさんの味方でいてあげたいと思う。

リナさんに信用してもらう為には、まず笑顔。と思うが、緊張すればするほど顔の筋肉が強張って痙攣して来て、うまく笑顔が作れないのだった。

そんな状況だったので、訪問して来たルートヴィッヒ殿下を見ても笑顔にはなれなかった。『迷惑!』という態度をとらなかっただけでも、むしろ褒めてほしいものである。

ノエライティーナ伯母様は、腹違いという事もあってあんまりお母様とは似ていなかった。身長もお母様より10センチくらい低い。そしてお母様よりも品がある。正に『貴婦人』って感じの人だ。

リナさんは、顔立ちはノエライティーナ伯母様にそっくりだったが、苦労して来たんだろうな。というオーラを発している人だった。ものすごく幸薄い雰囲気を湛えた人なのだ。

私と違う意味で笑顔が無い人だった。ルートヴィッヒ王子やフィリックス公子に意地悪を言われたら、心がポキっと折れてしまうのではないか?と不安になる。やはり、王子達の方の訪問は断るべきであっただろうか?ひどく緊張している様子に気の毒な気持ちになって来るくらいだ。

だけど、食事中ルートヴィッヒ王子もフィリックス公子もリナさんに嫌味を言って来たりとかはなかった。二人共、今日初めて出す煮込みハンバーグに夢中になっていた。王子の口には合ったようだ。フィリックスの方は中に刻んだ野菜が入っている事が不満だったようだが、何だかんだ言いつつも完食していた。

食事が終わってお茶の時間になると、男女で席を分けてリナさん達の側から王子達を引き剥がした。これでやっといろんな話を聞く事ができる。本当は、まだ五歳だという私の従甥のクオレ君や、エマさんが乳母をしているというフェルミナ王女殿下の事が聞きたかったのだが、リナさんが二人への愛情や心配の言葉を語って、それを聞いた王子達が子供達に嫌がらせをしたら困ると思って聞けなかったのだ。

女性だけでテーブルを囲んだ事でやっと聞く事ができた。

血のつながった親戚の皆さんを援助するのは当たり前だが、フェルミナ殿下の事も援助すると、前もって家族で話し合って決めていた。

『子供とその乳母』というのは、強い絆で結ばれているものだ。私達三姉弟もそうだし、お父様もそうだ。

無理に引き離そうとしても離れないだろうし、そうしてしまう事でエマさんやリナさんの弱みになってしまうかもしれない。それなら一緒に保護しておいた方がいい。

だが、保護しようと決めた一番の理由はフェルミナ様とその母上であられるティナーリア様が政治とも革命とも、全く無関係な方だったからである。