作品タイトル不明
迫る嵐(3)
エリーゼ様が帰って行った後、私はジークに質問してみた。
「エレオノーラ様のご実家って、どんな家だったんですか?」
「父親は海軍の軍人で、君のお祖父様である先先代のシュテルンベルク伯爵がとりわけ信頼する部下だったそうだ。身分は準男爵だったけど領地とか持っていたわけではなくてね。暮らしぶりは平民と大差なかった。エレオノーラ様は平民街に住んでいて、平民が通う学校に通っていたんだ。ちなみに、父親は王族だったけど母親が平民で愛人だった私のお母様は、母親と二人でエレオノーラ様の家の近所に住んでいて同じ学校に通っていた。二人はその頃からの親友だったの。」
「へー。」
「そんな、平民と大差ない生活をしていた二人がヒルデブラント侯爵夫人とシュテルンベルク伯爵夫人になった。それが、どれだけ大変な事だったかわかる?上級貴族の仲間入りをする為にマナーだ教養だと血反吐吐くほど苦労したんだと思うよ。どっちの一族も意地の悪い親戚がいたしね。」
「あー、コンラートお兄様のお祖母様の事はうっすら覚えてます。やなおばあさんでしたよね。」
「身分の低いエレオノーラ様の産んだ子供は跡取りに相応しくないっていつも叫んでたよね。嘘かほんとか知らないけれど、あのおばあさんはゴールドワルドラントの王族の血を引いていたんだって。だから自分は高貴な人間だっていつも言っていて、自分の親戚の娘とリヒャルト様を結婚させたがっていた。エレオノーラ様はコンラートを必ず立派な跡取りに育ててみせる、って泣きながら言っていたよ。その涙をいつも見ていたコンラートは、母親の為に立派な伯爵になってみせる、って幼い頃から固く決意していた。母親に対する同情と祖母に対する憎しみがコンラートのアイデンティティを作ったんだ。今更、違う生き方なんかできないんじゃないかな。伯爵位を継げなかったら人格が崩壊するんじゃないかと思う。エレオノーラ様もある種の毒親だったんだよ。だけど、私はエレオノーラ様の事好きだったけどね。」
「お兄さんと弟さんがいたんですよね。お兄さんとリエ様が婚約してたって聞いた事あります。でも若死にされたって。」
「病気でね。弟とはだいぶ年が離れてて、今まだ20代なんじゃないかな。外国でほとんど仕事しているから私もコンラートもほとんど会った事ないけれど。」
「何の仕事をしているんですか?」
「海軍の軍人だけど、財政省に出向している。」
「と言う事は財政省で働いているんですか?」
「外国から運ばれて来るヒンガリーラントの通貨の護衛をしている。」
「通貨の護衛ですか?」
「外国から商人とか観光客がヒンガリーラントにたくさん来るでしょう。その人達が自国に帰る前にヒンガリーラントのお金を全部使ってくれたらいいけど、使いきれなかったらお金を自分の国に持って帰るよね。で、そのお金を自分の国の銀行とか両替商の所で両替するよね。そしたら銀行や両替商の所にヒンガリーラントの通貨がどんどんたまってしまう。そうやって外国に通貨がどんどん流出したらヒンガリーラント国内で流通する通貨が減ってしまうでしょう。だから財政省の人が定期的に外国に通貨を買い戻しに行くの。その買い戻した大量のお金が盗賊に襲われて盗まれないよう護衛をする仕事をしているの。だから、ほとんど外国にいる。」
「国内で流通する通貨が減ったら困るんですか?」
とコルネが聞いた。
「すごく困るね。」
「無くなった分、新しくお金を作ったら良いのではありませんか?」
「そんな事したらインフレーションが起こるよ。ま、経済学についてはまた今度話そう。今はシュテルンベルク家の話だ。コンラートは幼い頃から努力していただけあって立派な跡取りに育ったと思うよ。使用人や騎士団員達は彼を自分達の主人にって思っている。それを王家が出戻りの年増女を押しつけて来て、当主の地位を奪い取ったら家臣達は猛反発するよ。」
「世の中、いろんな仕事があるもんですねえ。」
「話を経済学に戻すな。」
そう言われても今現在私にできる事は何もない。
まさか、クラウディア殿下を暗殺するわけにはいかないし、できる事といえば『伯爵と殿下の結婚話が流れますように。仮に結婚しても男の子が生まれませんように』と神に祈りを捧げるくらいだ。しかし、神だって汚れ仕事を依頼されても困る事であろう。
「とりあえず私も帰ります。」
「その後どうなったか、報告に来てね。」
とジークルーネに言われたので「ほーい」と返事をしておいた。
家に帰るとお母様はもう家に帰って来ていて上機嫌だった。
「お姉様は昔と何ら変わりのない素敵な貴婦人だったわ。娘のリナさんも上品で可愛い人で。」
久しぶりに会った姉の事で、子供のようにはしゃいでいた。
のんきだな!
と思わずにいられない。
お母様の実家のシュテルンベルク家で、大騒動が起こるかもしれないというのに。
思わず
「そりゃ、良かったっすね。」
と冷めた声が出た。
「週末には我が家にお招きするわ。レベッカ。絶対にお姉様とリナさんの機嫌を損ねないでよ。喧嘩とかしないでちょうだいね。」
「はあ。」
「私も、リエもメグもオイゲンもヨハンナも、リナさんとリヒトに結婚して欲しいと思っているの。邪魔をしたらタダでは済まさないわよ。」
私は耳が点になった。
「え・・・?リナさんって、まだ20代でしょう?」
「28歳だそうよ。リヒトとは11歳違いね。まあ、でも私のお父様とお母様に比べたら何て事ないわよ。」
お母様の両親は30歳以上年が違ったと聞いている。
「ちょっと待ってよ。リナさんに恋人とか婚約者とかいたりしないの?伯爵様は何て言ってるんですか?コンラートお兄様はその事知っているの?」
「そんな事どうでもいいのよ。とにかくリヒトをさっさと結婚させないといけないの。それもできれば同族の女性と。文句があるというなら、おまえがリヒトと結婚しなさい!いい?絶対にお姉様とリナさんと揉めるのではないわよ。もしもトラブルを起こしたら、あなたの方を王都から追い出すからね!」
お母様は本気だ・・・。
一瞬、トラブルを起こして王都から追放されたら殺人事件の被害者にならずに済むかも。と考えてしまった。
というか、リナさんが独身でなかったらワタシが結婚させられていたのか。
それにしても。
人生で一度しか会った事のない異母姉を必死になって探している様子を見て、美しい姉妹愛だと思っていたが、こういう裏があったんですね。
正直言ってガッカリだよ。お母様。
週末に伯母様とリナさんは我が家へやって来られるらしい。
私だけは心から歓迎してあげようと、心の中でひっそりと思った。