軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

長い旅(7)(サーシャ視点)

その後。

僕達は二階にある部屋に案内された。

「この部屋をご自由にお使いください。」

とメイドさんが言ってくれる。

入ってすぐが居間で、他に寝室が二つとバスルームが付いている部屋だった。寝室のうち一つはシングルベッドが二つあり、もう一つはキングサイズのベッドが一つある。

僕達の部屋は廊下の突き当たりの角部屋だった。ミリヤムはもう少し階段に近い部屋に案内されていた。

知らない人達と広い場所で雑魚寝をしなくてはならない、難民の収容施設とは全く違う。やっと安心して眠る事ができる場所にたどり着いた。そう思うと嬉しかった。

少し疲れを感じ、ソファーに座り込んでいるとドアをノックする音がした。リーシア様とエイラさんという名前の侍女がお茶を持って来てくれたのだ。

僕達は恐縮して姿勢を正した。

先程のお菓子の試食の時もそうだったが、リーシア様は『お茶』担当の侍女のようだ。彼女が淹れるお茶はとても良い香りがする。口に含んでみると舌触りもまろやかで、とてもおいしく香り高いお茶だった。

お茶と一緒に、ミリヤムが作ったお菓子も四つ、皿にのせられて運ばれて来た。正直、食べてみたかったので嬉しかった。娘達も大喜びしている。

『シュークリーム』を食べてみて、一番驚いたのは食感だった。今までに食べた事の無い食感だった。生クリームや桃は間違いのないおいしさなので、侯爵夫人やお子様方があれだけ褒めていた事に納得した。

これを超えるインパクトのあるお菓子を僕は作らなくてはならない!

ふと、気になる事があって僕は質問をした。

「侯爵夫人が『ルバーブ』という果物について言っておられましたが、どういった果物なのですか?」

ブラウンツヴァイクラントでは聞いた事のない果物だった。

「ルバーブは、果物ではなく野菜です。厨房にもありましたよ。お茶を飲んでから見に行かれますか?」

「はい、ぜひ!」

僕はお茶を一気に煽った。

僕達四人がリーシア様達と厨房に向かうと

「うひあぁーー!」

という悲鳴みたいなものが聞こえて来た。ミリヤムの声だった。

厨房のドアを開けると、ミリヤムが舌を出して顔をしかめている。

「だから、酸っぱいですよ。って言ったじゃないですかー。」

レベッカ様の侍女の一人のミレジーナ様がけらけらと笑いながら言った。

ミリヤムは長い、植物の茎のような物を持っていた。

「あれがルバーブですよ。」

とリーシア様が教えてくれた。

「とても酸っぱいんです。だけど、とても綺麗な色をしているからジャムやスプレッドにしたら綺麗でとてもおいしいんです。」

僕はミリヤムが持っていたルバーブを見せてもらった。表面は緑で普通に野菜の茎、という感じだ。しかし茎の中央はラズベリーやブルーベリーを思わせる美しい赤紫色だった。皮を剥いて中身を煮詰めたら確かに美しい事だろう。

僕も好奇心が湧いて来て、ミリヤムがかじったのと反対側をかじってみようかという気になった。

それを勘付いたらしいリーシア様が言われた。

「酸っぱいので気をつけてくださいね。」

確かに。

レモン並みの酸っぱさだった。

その日の夕食は西館の食堂で、僕達家族はミリヤムと一緒に食べた。

「すみません。ご家族団らんの時間なのにお邪魔してしまって。」

と言ってミリヤムが体を小さくしている。

「気にしないで。」

とナキアが言った。

「私達家族は、ホテルの従業員宿舎で暮らしていたの。だから食事はいつも他の従業員達と一緒に大人数で食べていたのよ。」

「そうなんですか。大きなホテルだったんですか?」

「ええ。100人以上泊まれる温泉ホテルよ。だから、従業員もいっぱいだったわ。」

そのホテルは多分もう無い。僕達が街を出ていった後、街は革命軍に焼かれてしまったからだ。

なので、あまり詳しく話を聞かれたくなかった。

「この料理初めて見る物ばかりだ。これはヒンガリーラントの伝統料理なの?」

僕は無理矢理、話題を変えた。

「え!いやあ・・違うと思いますけど。すみません。うちは一年365日、毎日夕食は芋と腸詰と余り物のパンだったので。貴族様の家の料理なので特別なのではないでしょうか。」

メイドさんに説明された今日の料理名は、鶏肉の唐揚げ、キノコと干し貝柱の豆乳スープ、ブロッコリーとザリガニのアンチョビソース和え、そしてパンだ。唐揚げにはレモンが添えられている。初めて食べる料理ばかりだが、どれもすごくおいしい。

娘達も嬉しそうに食べているのを見て、胸が熱くなってくる。

「レキアちゃんとルキアちゃんは仲いいね。いいなあ。私もお姉さんか妹が欲しかったなあ。」

ミリヤムがぽつんと言った。

「ミリーは何人家族なの?」

とナキアが聞いた。

「父と母と兄が一人です。」

「お父様がお菓子作りの師匠なの?」

と僕は聞いた。

「はい。卵の割り方から、道具の洗い方まで厳しく教えられました。でも、うちって本職はパン屋なんです。お菓子なんてお祭りの時しか作らなかったから、レシピをあまり知らなくて。シュークリームに飽きられたら、その後どうしよう・・。」

「お父さんのデシになったらいいよ。お父さん、いっぱいお菓子知ってるよ。」

とルキアが言った。

ミリヤムはすがるような目で僕の事を見た。

「良かったら、弟子にしてもらえますか?私、ここで頑張りたいんです。」

「ああ、勿論。一緒にやって行こう。」

と僕は言った。同じ職場で働くのなら仲良くできた方が良い。

それからは、ミリヤムの故郷の話を聞いた。ミリヤムは僕達の事情についてあまり聞いてこなかった。人口も少ない田舎街だと言っていたし、もしかしたら隣の国で革命が起きたという事を知らないのかもしれない。聞かれなくてありがたかった。

夜になると雨が降り出した。

こんな中でもし野宿するのだったら大変だっただろうな。と思う。それと同時に、野宿を余儀なくされている同胞の事を思った。

同じホテルで働いていた人達や僕の弟子達はどうしているのだろうと考えた。

割り当てられた部屋には寝室が二つある。本来は親子で分かれて使うべきなのだろうが、娘達が一緒に寝たいと言った。

知らない家で不安なのだろう。と思う。それに、故郷を出たあの日からずっと離れずに四人でいつも行動して来たのだ。急な変化に対応できないのだと思う。勿論僕にも妻にも異存はない。僕達はキングサイズのベッドで寄り添って眠った。

雨は一晩中降り続けていた。

明けて翌日。

雨はあがっていた。朝食を済ませた後、僕はルバーブでジャムを作ってみる事にした。いろいろ研究をして、どういうお菓子が合っているか考えてみたい。

ミリヤムはオーブンの焼きムラを確認してみたいようで、水で練った小麦粉を小さくちぎって、オーブンの各所に置いていた。

「おっはよー!みんな昨日はよく眠れた?」

朝からハイテンションで、レベッカ様が登場した。侍女の女の子達もついて来ている。

「おはようございます。レベッカ様。」

「おはようございます。」

と僕達は口々に挨拶した。

レベッカ様は厨房を見回した後、オーブンの前にいたミリヤムに歩み寄った。

「ミリーの家はパン屋さんだったんだよね?」

「はい。そうです。」

「という事は、ミリーはパンも作れるの?」

「はい。毎日、父と作っていました。」

「そうか、そうか。」

と言った後、レベッカ様は満面の笑みで言われた。

「私ね。食べてみたいなぁ、っていう夢のパンがあるの。」