軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

見た事の無いお菓子(3)

お母様にすぐ来るよう言われたので、私は木の箱を持ってお母様の元に向かった。

ユリアとコルネもついて来る。

「ところで二人共、何を持っているの?」

「生クリームです。」

「果物です。」

と二人が答える。

「そのお菓子は中に泡立てた生クリームを入れて食べるのだそうです。」

「切った果物や、栗を入れると更に豪華になっておいしいのだそうです。でも、今の季節栗は無いので。」

中にクリームを入れる?上にのせるじゃなくて?

どういう菓子なんだろうと不思議に思うが、両手がふさがっているので箱の中がのぞけない。私はお母様の所へ急いだ。

お母様に箱を見せ、状況を伝えるとお母様は大きなため息をついた。

「買ってしまったというものはしょうがないわね。」

そう言ってまたため息をついた。

「今まで貴女はどんなに厳しく叱っても、飄々としていて全く懲りた様子が見られなかったのに、今回はかなりふさぎ込んで反省していたようですし、正直私もきつく叱り過ぎたかなと思っていました。なので、もういいです。お菓子も皆で食べましょう。」

「ありがとう、お母様!」

「じゃあ開けてみましょうか。」

と言ってお母様は箱の一つを開け、私はもう一つの箱を開けた。

「・・・何、これ?」

とお母様が言った。

でも私は、見た事のある菓子だった。というよりよく知っている菓子だった。文子だった頃、月に二個は食べていた菓子だ。

これは、シュークリームの皮だ!

そうだよ。どうして、この菓子の存在を忘れていたんだろう。文子だった頃、大好きでよく食べていたお菓子だったのに!

確かにこれは、ヒンガリーラント人にとっては見た事の無い菓子だろう。そして食感も未体験なものだ。ケーキともクッキーともパイとも違うのだ。

そして確かにこれは『中』にクリームを入れて食べる。おしゃれなケーキ屋さんで売っているものには果物が入っていた。

「これは、どうやって食べるのかしら?」

とお母様が首を傾げた。ユリアが進み出て来て説明を始めた。

「中に泡立てたクリームや果物を入れて食べるそうです。お皿に乗せて、まず『ふた』の部分を一口で食べます。その後下側を四つに切り分けて食べます。」

そうなの⁉︎シュークリームって、正式にはそうやって食べる物なの?知らなかった。

「・・・中?」

と言いつつ、お母様がシュークリームの『ふた』をつまんだ。

「ええっ⁉︎中がこんな、ケトルみたいになっているの!・・・すごい。どうやって作っているの?何か型があるの?」

とお母様もびっくり仰天である。

「デリクさんが聞いた話では、クッキーを作ろうと思って失敗して、偶然できたお菓子なのだそうです。」

「クッキーがどう失敗したら、こういう事になるの?」

とお母様は首をひねっている。

でも、私にはわかるような気がする。

クッキーもシュー皮も材料は同じなのだ。違いは砂糖があるかないかだけなのである。

クッキーはバターの中に砂糖を入れ溶き卵を入れ小麦粉を入れる。

だが、シュー皮はバターに小麦粉を入れて混ぜ、それから溶き卵を入れる。この順番の違いだけで、できあがるものにこれだけの違いが出るのである。

おそらくパン屋さんは、うっかり卵と小麦粉を入れる順番を間違えてしまったのに違いない。

だけど、こんなに綺麗な形に膨らませるのにその後パン屋さんはきっと試行錯誤していろいろ研究したに違いない。シュークリームはとても作るのが難しい菓子なのだ。

温度がとても重要なので、電気オーブンでないと作るのは非常に困難だと言われている。そのうえ焼き上がってから予熱の間まで、絶対にオーブンを開けてはいけないのである。もしも開けたらしぼんでしまって膨らまないらしい。

シュークリームの専門店には、コンピューターで温度管理ができる電気オーブンがあるという都市伝説を聞いた事がある。

「お母様、なんとなくですが、この菓子にはカスタードクリームが合いそうな気がします!私、カスタードクリームを厨房で作って来ます!」

せっかく手に入れたシュー皮だ。次に手に入れられるのがいつになるかはわからない。ならば最高においしい状態で食べたい!

「ちょっと待っていてくださいねーー!」

私はそう言って一目散に厨房へと向かった。

そして私は急いでカスタードクリームを作って戻って来た。カスタードクリームは、作るのにそれほど手間がかかるクリームではない。正直冷ます時間の方がよっぽど長くかかるくらいである。

生クリームもせっかくユリアが用意してくれたのだから、カレナに泡立ててもらった。果物も一口サイズに切り、私はカスタードクリーム、生クリーム、果物の順に中に詰めシュークリームのふたを被せた。

シュー皮は木の箱に4×4の16個入っていた。それが二箱あるので合計32個である。

私とお母様、ユリアとコルネ、リーシアとミレイ。それぞれの侍女に護衛騎士、オルヒデーエ夫人とラヴェンデルとヤスミーン。ヨーゼフとヘンリク。それぞれの乳兄弟。後は厨房の料理人達で分けて食べた。

正直言ってナイフとフォークでは食べにくかった。だけど、レベッカに戻って来て初めて食べるシュークリームは涙が出るほどおいしかった!

「なんて不思議な食感なのでしょう。でも、ものすごくおいしい。」

お母様も感動していた。

「中身がアイスクリームでも合いそうだね。」

とヨーゼフが言った。確かにその通りだ!

「もっと食べたい!」

とヘンリクもシュークリームがとても気に入ったようである。

「やっぱり別荘に行こうかしら。」

とお母様がヘンリクの頭を撫でながら言った。

ユリアとコルネが少し気まずそうな顔をする。

「あの、奥様。このお菓子は作るのに少し手間がかかるらしくて、お祭りの時にしか本来は作らないのだそうです。」

「なので、最初欲しいと言っても断られて、でも大金をかけてここまで来て手に入らなかったとなったら死んでお詫びをしなくてはならなくなる。と五体投地でデリクさんが頼んで作ってもらったそうでして・・・。」

「店主は渋い顔をしていたそうですが、同情してくださった店主のお嬢さんが私でも作れるから店を閉めた深夜に作りましょう。と言って作ってくださったそうです。」

そこまで苦労して手に入れたお菓子だったの⁉︎

ありがとう、ユリア、コルネ。そしてデリクさん!

「まあ、そうだったの。」

とお母様は言った後、耳を疑う事を言い出した。

「なら、店主を我が家の専属料理人にする為に王都に呼び寄せましょう。」