作品タイトル不明
見た事の無いお菓子(1)
光のどけき春の日の午後。
私、レベッカ・フォン・エーレンフロイトは地の底まで落ち込んでいた。
ここまで落ち込むのは、二周目の人生内で三本の指に入ると思う。
何故落ち込んでいるのかというと、それは全てゴ◯ブ◯のせいである。
と言っても、わかってくださる方もいるだろうし、何のこっちゃと思われる方もいると思うので簡単に説明させて頂こうと思う。
私の名前はレベッカ。ヒンガリーラントの侯爵家、エーレンフロイト家の長女だ。エーレンフロイト家はそこそこに広い領地とそこそこの財産を持っている貴族家で、私は美貌の王子様とも婚約して人生順風満帆、のんべんだらりと生きていた。
だけど人生山があれば谷もあるものだ。私はヒンガリーラントを席巻した天然痘に感染し、14歳で後遺症と家族を失う苦しさを生涯味わうことになった。
と言ってもその『生涯』は18歳で幕を下ろした。婚約者に呼び出された王宮内で何者かに殺害されたのだ。
完。
ではなくて、話は続く。
その後私は、ヒンガリーラントとは違う世界。地球の日本でおぎゃあ、と生を受けた。生まれた場所は首都でも政令指定都市でさえない地方のローカル都市。人間よりもカエルの数の方が絶対に多い田舎町だった。
そんな田舎町でも首都と同じくらいの公共インフラや道路の整備がされている、日本は素敵な国だった。何を当たり前な事を。と思わないで欲しい。海外にボランティアに行くのが趣味だった友人が言っていたのだ。
国によっては、田舎町には電気も水道も通っていない。道路がアスファルトではない。トイレットペーパーという物自体が存在しない、ゆえに誰も使用していないという国があるのだと!
日本の都会は素晴らしい。だけど田舎はもっと素晴らしいのだ。日本人に生まれた事は宝くじに当たったくらい幸せな事なのだ!と。
そんな日本の田舎町で私は『文子』という名前の女の子になり、それなりに幸せに暮らしていた。少し不満があるとすれば、それは自分の名前だった。私は旧暦の文月に生まれたので『文子』という名前をつけられた。でも実は、クラスメイトに◯子なんて名前の女の子は私以外一人もいなかった。みんなもっとキラキラした令和っぽい名前をしていて、文子などという昭和臭を漂わせたダサい名前の子は私一人だったのだ。
正直、文の字を使うにしても『 文香(ふみか) 』とか『 陽文(ひふみ) 』とかもう少し平成寄りの名前をどうしてつけてくれなかったのだろうと名付け親を恨んだものである。
文子の一番の親友なんて『世記』と書いて『せしる』という名前だったのだ。心の底から羨ましかったが、せっちゃんはせっちゃんで私の名前が羨ましかったらしい。謎だ。
そんな私は都会の大学を受験する為、せっちゃんは大ファンの声優さんのイベントに参加する為長距離バスに乗り、交通事故に遭ってしまった。
そしたら何故か私はレベッカの人生に戻って来てしまった。その時レベッカは11歳だった。何故そんな怪奇現象が起きてしまったのか?そして、せっちゃんはどうなってしまったのか?全ては今持って謎である。
だけど、せっかく生き直すチャンスを与えられたのだ。
私は天然痘に感染しない事。
殺人事件の被害者にならないよう死亡フラグを叩き折る事に必死になって生きて来た。
そして無事に悪夢の14歳はクリアした。
私は二周目の人生では天然痘にかからずにすんだ。領地でも、お父様が種痘の普及を推し進めたので、領地の財政は破産せずにすんだ。
そして天然痘が蔓延している間、私は友人達と一緒に医療ボランティアに駆け回っていたので、王様から勲章とお金をもらえる事になった。
ここで話は最初の◯キ◯リの話に戻る。
その勲章をもらえる叙勲式で叙勲式の会場に、でっかいゴ◯ブ◯が現れたのだ。
公爵令嬢のエリーゼ様に、何とかしろ!という圧をかけられた私は王様もいらっしゃるその会場で、足を高々と上げ壁を這っていた◯キ◯リを蹴り潰したのだった。
それを見ていた何人かのご婦人方は失神。
お母様は激オコだった。
もはや会場にいられる雰囲気ではなく私は早退したが、同じく早退して来たお母様は過去最高というくらい怒っていた。
海賊とバトった時や、プチ家出をした時、更についこの前の病院での事件以上にだ。
でも、仕方ないではないの。エリーゼ様には逆らえないし。それにゴ◯ブ◯を放置するわけにいかないし。
「放置しておけば良いのです!王宮の中ですよ。貴女がどうにかしなくても近衞騎士がどうにかしたはずです!どうしても放置できなかったというのなら、どうして手で行かなかったのですかっ!太ももが丸見えになるほど足を上げて攻撃するなんて。それも国王陛下や芳花妃殿下の前で。おまえという子は、本当にもうっ‼︎」
「・・・。」
言い訳をすると説教が長くなるだけなので私は黙っていた。
「悪いと思っているの⁉︎レベッカ!」
「はあ、まあ。」
「今回ばかりは私も堪忍袋の緒が切れました。」
一瞬、修道院行きかな?と思った。まあ、それならそれで仕方がない。むしろ、一年後の死亡フラグが折れてちょうど良いかもしれない。
「今はアカデミーも休校中で、もしかしたらこのまま廃校になるかもという噂もありますし。」
そうなのだ。二ヶ月前に起こった『ジークレヒト事件』で校長の甥が反逆罪で捕えられ、死刑判決を受け連座制で校長まで処刑されたのだ。
校長の甥には会った事はないが、校長とは何度か話をした事もある。正直高慢ちきで老害臭の漂うじーさんだと思っていたが、死刑になれば良いなどと思った事は一度も無い。連座制で死刑に処されたと聞いた時は地味にショックだった。
当然アカデミーは大混乱だ。ジークレヒト事件では他にもたくさんの教師や生徒に処分が降りている。私の友人のヘレンも弟の罪に連座させられ罰を受けた。アカデミーはずっと休校状態でこのまま潰れるのでは。と噂されていた。
「貴女も知り合いの中に重い罰を受けた人もいてショックを受けているだろうと思って、混乱の続く王都を離れて湖水地方の別荘にでも行かせようかと思っていたのですが。」
「へー、湖水地方とやらにうちの別荘があるんですか?」
「エーレンフロイト家の別荘ではありません。私の実家のシュテルンベルク家が持っている別荘です。それを借りるつもりでいました。」
「はあ。」
「別荘行きは中止です。貴女は部屋の中で謹慎していなさい!」
何という事のない罰だった。別に別荘なんか興味がない。その土地に会いたい知り合いがいるわけでもないし、観覧車やジェットコースターみたいな心踊る物があるとも思えない。どうせ別荘に行っても読書をしたり、ボードゲームをしたりして過ごすなら自宅にいても同じだ。むしろ別荘に行くのに、馬車に乗って何日もゴトゴト激しく揺れる方が苦痛である。道路がアスファルトでない為、馬車はものすごく揺れるのだ。
「美しい別荘地なのですよ。今のこの時期は丘一面にラヴェンダーの花が咲いて、紫色の絨毯のようになっているはずです。」
とお母様が言う。
へー。としか、別に思わないけれど。
「別荘にはたくさんのさくらんぼの木がなっているんです。今ならきっと実が鈴なりになっているはずだわ。」
それは毛虫もすごそうですね。と心の中で思ったが口には出さなかった。
「近くにあるパン屋さんでは、とても珍しいお菓子を売っているそうなの。王都では見たことも無い見た目と食感のお菓子だそうで、ある貴婦人の話では王都で食べたどのお菓子よりもおいしかったとか。」
え・・・?
「それって、どんなお菓子なのですか⁉︎」
と聞くとお母様は、ふっ、と笑った。
「別にどうでも良いでしょう。貴女がその土地に行く事は絶対に無いし、そのお菓子を今後食べられる可能性も絶対に無いのだから。さあ、部屋に戻りなさい!」
「えっ、そんな珍しいお菓子なら食べてみたいです!将来『お菓子の大学』を作る時の参考にもなるし。別荘地行きたいです。お母様。ごめんなさい。ゴ◯ブ◯を虐殺した事は謝ります。だから、別荘に行かせてください!」
「駄目です!部屋でおとなしくしていなさい。」
そう言われてしまった私は現在自室で、駿河湾より深く落ち込んでいるというわけである。