作品タイトル不明
叙勲式(2)(ルートヴィッヒ視点)
「ところで王子様ー。」
パペット人形のウサギが口をぱくぱくさせる。
「叙勲式様のお洋服はちゃんと作ったのですかー?」
「そんな暇は無い。持ってる服の中から適当に選ぶ。」
「エーレンフロイト姫君と色味を揃えないのですかー?」
僕はウサギを睨みつけた。もしも視線が熱を持つものなら、ウサギはこんがりとローストになっただろう。
「・・エスコートを申し出たけど断られたんだ。」
「へー。」
「エリーゼ達と一緒に女の子だけで入場するらしい。」
他の男にエスコートされるのだと、誤解されたら嫌なのでそう付け加えておいた。
「珍しい話ですね。」
「エリーゼの提案らしい。ドレスもエリーゼと揃いで用意するそうだ。ベッキーはエリーゼには何故か逆らわないからな。」
「ほほう。」
「でも、それっておかしくないか?ベッキーは僕の婚約者だぞ。僕がエスコートしたいと言ったら僕を優先するものじゃないのか?」
「殿下。」
珍しいくらい真剣な声でグラウハーゼが言った。
「女性の集団は敵に回さない方が良いですよ。」
「・・・・。」
その通りだと思ったので反論はしなかった。
そして、叙勲式当日。
何とか無事にその日を迎えられた。
こういった宮廷の儀礼を担当する典礼省は、典礼大臣が王妃派貴族の筆頭だった事もあり、王妃派貴族の巣窟だ。
なので、言う事を聞かず足をせっせと引っ張る奴、味方のふりをしてわざと失敗させようとする奴、家柄が良いだけで何の役にも立たない奴がうじゃうじゃいた。そんな奴らと戦いつつ、その中に僅かにいる先代の典礼大臣に反感を持っていた者や、個人的感情や立場はともかくとして仕事は成功させなくてはならないと思っている者を見つけ出して共に働くのには、ものすごく精神的エネルギーを消費した。
だがこれは、将来玉座に着いた時のシミュレーションなのだと思う。
国王になればもっと大きな規模で、同じ事をしなくてはならないのだ。今回の叙勲式すら回せないようでは、国は回せない。これも父から課された試験なのだと思う。
兎にも角にも無事当日を迎えられたのだ。後は無事に終わる事を祈るばかりである。
僕は会場を見回した。
勲章と地位を与えられるのは、ベッキーを始め王妃派ではない人達ばかりだ。なので、今日の叙勲式と祝賀会に王妃と第一王子である兄は来ていない。王妃派貴族も大部分がボイコットするのでは。と思っていたが、意外に普通に来ていた。会の途中で何か騒動を起こすかもしれないので、動向をよく見張っておかないとならない。
違う意味で不快になったのは、アーベルマイヤー伯爵家の人間がいた事だ。父上に王都から追い払われた一族だが、別に罪人ではないし、爵位持ちの人間は自由参加な会なのでこの場にいる事は犯罪ではない。
だが、イラっとしたのは、ものすごくお洒落で華やかな美しいドレスを夫人とコンスタンツェ嬢が着ていた事だ。
認めるのは悔しいが、ものすごく二人に似合っていて美しいドレスだった。
斬新でありながらも優美なデザインで、全体に施された刺繍がとてつもなく豪華だった。
あいつら、主役を食う気満々だな。
そして、多分ベッキーもエリーゼもあの母娘には敵わない。
あの母娘は顔とスタイルは抜群に良いのだ。そのうえで最高にハイセンスなドレスを着ている。ベッキーが側に立ったら母娘の引き立て役になってしまうだろう。そう思うと悔しかった。ほんと、嫌な母娘だよ!
僕はアーベルマイヤー夫人とコンスタンツェと目が合ったがわざと無視した。
僕は会場中を歩き回って、酒や食べ物の確認をした。
今のところ問題は何も無い。
歩き回っている間、僕は来客の誰にも声をかけなかった。王族である僕が誰に一番最初に声をかけるかは一種の政治なのだ。招待客は誰がその栄誉を受けるか注目している。そして僕は一番最初に誰に声をかけるか決めている。ベッキーだ。
今日の主役の一人であるベッキーは、まだ会場には入っていない。彼女達は国王が入場して来た後で入場する事になっているのである。
僕はポケットから懐中時計を取り出した。
時間だ。
と思った瞬間、吹奏楽の演奏が始まった。
「国王陛下御入場!」
の声と共に、父上が二人の側妃、僕の母とクラウスの母のテオドーラ妃を伴い入場して来た。臣下達が皆頭を下げた。
父上が開会の言葉を言い、長きに渡る伝染病との戦いに勝利した事で参加者達を労った。
そして功労者に勲章を授ける事を皆に告げる。再びラッパの音が鳴り響き、父上達が入って来たのとは違うドアが開いた。
エリーゼを先頭に『聖少女達』が入場して来た。