軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コンラートとの再会

コンラートとの突然のエンカウントに、私は内心汗ダラダラだった。

一応、コンラートに会いたかったから私は今ここにいるのである。

いるのだけど、噂話に花を咲かせているタイミングでは会いたくなかった。

しかも、コンラートのお母様をディスっていたタイミングでは。

コンラートは、私の事を黙って数秒見つめた後、献花台の前に立ち、手に持っていた白いバラの花束を台に置いた。

今声をかけなければ、このまま無視されて帰られてしまう。と、私の本能が告げる。

もともと私達は、親戚とはいえ全く交流がない。過去の人生でも、私が大病を患っても見舞いの手紙一つ寄越して来なかった。それくらい彼にとって私は、どうでもいい存在なのだ。

だから、私の方からすり寄っていかなくては、彼の眼中には入らない。

まずは挨拶!と思って、私は

「ご機嫌よう・・・。」

と、言ったが、その後悩んだ。

何と言って呼びかける?

私の家は侯爵家でコンラートの家は伯爵家。身分はうちの方が高い。

だから、コンラート様、と呼ぶのはおかしい。けど呼び捨ては絶対アカン。それでなくても、噂話をしていて私の印象最悪だろうに、呼び捨てになんかしたらコンラートの不快指数が爆上がる。

どうする、私⁉︎

悩んでいるうちに、いい言葉を思いついた!

そう。我々は親戚なのだ。そんな相手への理想の二人称。

「コンラートお兄様。」

言ったはいいが急に恥ずかしくなった。

コンラートが少しでもデレてくれたら、空気も和んだのだろうが、コンラートの表情筋は1ミリたりとも動かない。

この世の中には、無表情でいた時、優しそうに見える人と怒っているように見える人がいるけれど、コンラートは圧倒的に後者なんだな。

切れ長の瞳が優美で、幽艶とも言える美貌なのだけど、整いすぎているせいでひどく冷たく見えるのだ。

というか、ガチで冷たい。

漂ってくる冷気が辛い。

しかしここでへこたれていては絶対アカン。

私は、にへら〜、と笑って

「お久しぶりです。」

と言った。そしてもう一言続ける。私がいったい誰なのか、忘れ去られている可能性があるからだ。

「レベッカ・フォン・エーレンフロイトです!」

にこにこにこにこにこ。

と、微笑む事しばし。

「・・・ああ。」

と、何とか返答が返ってきた。が。

コンラートは踵を返し、もと来た道を帰ろうとした。

私は焦った。

「会えて嬉しい。私、コンラートお兄様に聞きたい事があったの!」

もはや、さりげなくとか、遠回しにとか言ってる場合じゃない。

私は本題に切り込んだ。これを無視されたら、どんなに遠回しに貴族的な言葉を選んでも結果は同じだ。

コンラートは振り返り

「何?」

と、聞いた。

二言以上話すと、死ぬ病気か何かなのですか!

コンラートは、無駄な修飾語とか接頭語とかを会話につけるのが嫌いな人のようだ。

だから私は、前置きもお世辞もかっ飛ばして質問だけをした。

「建国祭の、子供チェス大会ってどうやったら出場できるの?」

「出場したいのか?」

とか、聞かれるかと思ったのだけど。

コンラートは、余計な事を聞いたりせず

「然るべき立場にある人に推薦してもらう。」

と、わかるような、全然わからないような答えを教えてくれた。

いや、然るべき立場にある人って誰だよ⁉︎

という心の声が顔に出たのであろうか。

「チェスを好む子供達は大抵、高名なプロのチェスプレイヤーに師事している。その師匠が、通常推薦してくれるものだが、それを知らないという事は、君には師がいないのではないか?」

と言われた。

その通りであったので閉口するしかなかった。

「・・誰でも自由に参加できる大会じゃないんだね。」

「国王陛下がご覧になられる競技だからな。あまりにもレベルの低い出場者が参加して、陛下の御前で参加者が恥をかかないように、という意味もあるんだ。」

参加する事に意義がある、という大会ではないという事だ。めちゃめちゃガチなのだな。

溜息をつきそうになった私に、コンラートが言葉を続けてくる。

「私はプロのプレイヤーではないが、去年の御前試合に参加しているので推薦人の資格があると思う。レベッカ嬢が出場したいというなら推薦しよう。」

・・・幻聴を聞いたのかと思った。この話の流れだと、出場したいという発言を鼻で笑われるかと思った。

「・・えっ、どうして?」

「4歳の頃、大人と対等に勝負ができていたレベッカ嬢の実力なら、十分に大会に出場できる。あの頃と腕が変わっていないのなら、上位に上がれるだろうし、あの頃より技術が上がっているのなら優勝も可能だと思う。」

どうしてそんな親切な事を言ってくれるの?と本当は聞きたかったのだが、まあそれは、もうどうでもいい。

自分が4歳の頃の事はさっぱり覚えていないが、どうやらその頃から私のチェスの腕はなかなかのものだったようだ。

そうだったから、私は文子だった頃もボードゲームが得意だったのか!

「だったら、推薦してください!私、チェス大会に出て優勝したいの。」

コンラートの気が変わる前に。と思って私は頭を下げた。

「わかった。」

と、コンラートは言った。

その後少し、何かを考えるような表情をする。

「優勝の目的は名誉?それとも人脈作り?」

そう言って私の目をじっと見てくる。

「目的を持っていても、それが叶えられるかというと必ずしもそうだとは限らないから。」

という事は、コンラートは優勝しても願いが叶わなかったのだろうか?

私は、うーむと考えた。

目的は王宮図書館に出入りする為なのだけど、それは言いにくいな。未来の出来事がわかる、なんて言ったら怪しい人になってしまうからなぁ。

「私の目的はね。優勝賞品の王宮の料理人が作ってくれるお菓子を食べる事。」

「・・・。」

「コンラートお兄様は去年優勝したのだよね。賞品のお菓子おいしかった?どんなお菓子だったの?国王陛下にはどんなお願いをしたの?」

「ジャムのタルトとクッキーだった。でも、私は甘いものはそんなに好きではないから。願い事は、別に思いつかなかったから保留にしている。」

「ええっ!甘いものが好きではない‼︎そんな人ってほんとにいるんだね。私は大好きなんだけど、あんまり食べさせてもらえないんだ。だから、王宮のお菓子ってのが、どうしても食べてみたいの。」

そう言ったら、ずっと無表情だったコンラートの表情が少しゆるんだ。どうやら微笑んだようだ。

「そういう動機で参加する人は珍しいだろうな。」

「そうなの?なら、みんな何の為に参加するの?」

「名誉の為かな。良い成績をおさめたら、将来を拓いていく事ができる。お金の為という人もいる。賭け事の対象になっているからね。自分の子供にお金をかけて賭け金を受け取るんだ。」

「へー。」

「でも、お菓子の為っていうのは、いいと思う。子供の為の大会なのだから。」

そうだよ。と、私も内心でうんうんとうなずいた。

というか、子供達が頑張るのにその陰で金を賭けるな。勝負が途端に汚くなるじゃないか。

「推薦する以上、現在のレベッカ嬢の実力を確認しておきたいのだが。」

とコンラートが言う。

「今から、私の家に来ないか。お菓子も出そう。」

今現在の私の、中身年齢は36歳だが、体は11歳。コンラートは私より3歳年上だから14歳。

はっきり言う。

11歳の子供は、たいして親しくない人に「うちにおいで」と誘われても、たとえお菓子をあげると言われても、ついて行ってはいけません。

大切な事なので、もう一度言う!絶対、ついて行ってはいけません‼︎

・・・しかし。

これ、拒否ったら、チェス大会への推薦がもらえなくなる。

それに、『私の家』というのは『私の豪邸』って意味だ。その豪邸には、たくさんの使用人さん達がいるのである。

それに何より。私の隣には、護衛騎士のアーベラがいるのだ。アーベラの仕事は、私の護衛をする事だ。

なのでこの状況は、日本の小学生が中学生男子に、連れて行かれるのとは全く違うのだ。

と、自分で自分を納得させる。

「行きます!」

と、私は元気に返事した。

それから、さっきからずっと気になっていた事を口にする。

「昔みたいに、名前を呼び捨てにしてくれてかまわないよ。あっ、でもできればベッキーって呼んでほしいな。なんかレベッカって、悪女!って感じの名前だから。」

そう感じるのは、『レベッカ』という名前が、ものすごく有名な映画監督の、代表作とも言えるサスペンス映画に出てくる悪女の名前だからなんだけどさ。

当然コンラートは、地球の映画なんか知らないから

「別に、悪女の名前という印象は無いけれど・・ 。」

と変な顔をしている。

「まあ・・わかった。じゃあ、ベッキー。行こう。」

「はーい。」

と言って、私はコンラートについて歩き出した。