軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヘレーネの追想(2)(ヘレーネ視点)

ローザリンデ様のお母上は、ブランケンシュタイン公爵の乳兄弟。お父上は、広大なブランケンシュタイン領を管理する家令で、公爵や公爵夫人の信頼も厚く、ご本人もエリザベート様の幼馴染で、エリザベート様の寄宿舎での同室者に選ばれるほどエリザベート様に近しい方でした。

そのローザリンデ様から私とミレイ様の二人は執拗に嫌がらせを受けたのです。

エリザベート様はいじめを是としないご性格の方で、入学早々男子生徒に

「女生徒をからかったり、邪険にしたり、ハラスメントに該当するセリフを言ったりしたりした者は処す!」

と宣言されたくらいですので、ご本人も決して他人に嫌がらせなどされませんでした。

そして、エリザベート様がいじめを嫌っているという事がわかっている為、ローザリンデ様はエリザベート様がおられる所では私達に嫌がらせをして来ず、いない所で嫌がらせを繰り返して来たのです。

最初は無視。それから悪口でした。

私達二人が同じ室内にいると

「ねえ、臭いと思わない?平民がいるからかなあ。」

と他の子に話しかけ、くすくす笑います。

『臭い』という言葉は、胸に突き刺さる言葉です。毎日お風呂に入っているけれど、それでも臭いのかしら?と不安な気持ちになり、人に近づく事に臆病になります。

緊張した私がどもってしまうと、大げさな声でそれを真似されます。そしてお友達と笑うのです。私は怖くなって、ローザリンデ様の前では話す事ができなくなり、ミレイ様は朝と夜一日二回お風呂に入っていました。

嫌がらせは、日毎にエスカレートして行きました。選択科目で教室を移動しようとしたら、違う教室に移動になったと嘘をつかれた事もあります。大切なテストの日、ペン入れを開けたらペンが一本も無くなっていた事もありました。側を通った時、足を引っ掛けられて転んだ事もありました。

ローザリンデ様は、平民の私達が自分と対等な物を享受している事、エリザベート様の側近として同列に置かれている事が我慢ならなかったみたいです。

「平民はほんと邪魔!」

と50回は言われました。

「どうせ平民と結婚するんでしょお。アカデミーでの勉強が何の役に立つって言うのよう。」

「平民のくせに、自分はアカデミーに行ってたんだーって言いふらされたらアカデミーの格が下がっちゃう。それが我慢できないのっ!」

「さっさと辞めれば良いのに。んもう!」

言葉による暴力がどんどんひどくなっていき、それに賛同する人も少しずつ増えていきます。

好きでここに来たわけじゃないのに。帰りたくても帰れないのに。

悲しくて布団の中で声を殺して泣きました。

そんな中で、大きな事件が起きました。

始まりは、エリザベート様から私への依頼でした。

「副校長からお借りしたこの詩集、素晴らしかったので写本して、きちんと糸で縫って製本して我が家の図書室に置きたいと思うの。ヘレンがアカデミーで一番字が綺麗だからヘレンが写本してくれないかしら。」

これは重大任務です。エリザベート様に上質な植物紙を五枚渡され、絶対に失敗できない!と私は緊張しました。

私は必死にその課題に取り組みました。私はとろいので一日一枚写すのが限度です。でも、エリザベート様はゆっくりやって良いと言ってくださいました。

事件は三日目に起きました。

私の部屋に置いておいた五枚の紙と、副校長の詩集が無くなったのです。

どこにあるかはすぐわかりました。

私が放課後、默学室でその日の学習内容の復習をしているとローザリンデ様が私に聞こえるような大声で

「裏庭の池に大量のゴミが浮かんでるんだってえ。誰が紙なんかを捨てたのかしらねえ?」

と言われたのです。

嫌な予感がして、私はミレイ様と一緒に裏庭へ向かいました。

そして、切り裂かれた植物紙と詩集が水面に浮かんでいるのを見つけたのです。

私は愕然としてしまいました。

エリザベート様からお預かりした大事な物だったのです。私にはとても弁償などできない高級な品です。

どうしてこんな事に・・・。

目の前が真っ暗になる思いでした。

「ローザリンデ様がやったのよ!そうに決まってる。」

とミレイ様が言われました。正直私も心の中でそう思っていました。でも、証拠がありません。ローザリンデ様はいつだって、証拠や痕跡を残さないように嫌がらせをして来るのです。

私は默学室に戻りました。

默学室では、ローザリンデ様がエリザベート様と楽しそうに話しをしておられました。

恐怖で足が震えました。でも、紙が破り捨てられてしまった事をエリザベート様に言わないわけにはいきません。エリザベート様はきっととてもお怒りになるでしょう。私だけでなくお父様まで責められるような事になったらどうしよう。私は恐ろしくて気を失いそうな気持ちでした。

「エリザベート様、どうかお許しください。」

と私は震えながら言いました。

「どうしたの、ヘレン?」

とエリザベート様が振り向いて言われました。私は預かっていた紙と詩集が裏庭の池に捨てられていたと伝えました。

「うっそー!信じられない⁉︎」

とローザリンデ様が叫びました。

「エリーゼ様にぃお仕えする者としての自覚が足りないんじゃないの?だから平民はダメなのよお!」

「ローザ。言い過ぎです。」

「ダメですよう、エリーゼ様。甘やかしちゃ。甘やかすと平民はすぐツケ上がるんだからあ。もう、エリーゼ様は優し過ぎーっ。それで、どう責任取る気なの。謝ったら済むとか思ってないわよねえ。さあ、どうすんのよ!」

「ヘレンが責任を取る必要は無いわ。責任を取るべきなのは紙を破って池に放り込んだ泥棒です。」

エリザベート様は、きっぱりとそう言われました。そして続けて言われました。

「それで、どう責任を取る気なの?謝ったら済むとか思っていないわよね。さあ、どうするの、ローザ?」