作品タイトル不明
五日めの来訪者(4)
「去年の夏に起きた竜巻のせいで、大陸公路の石畳が広範囲に剥がれたのです。修理にかかった費用は税金の控除の対象になります。大陸歴298年にやはり竜巻のせいで同じ事が起きてますので、その時の資料を参考に申請してください。」
・・・真面目!
こんな時でも、仕事の話ってある意味意外性のカケラも無いな!
大事な話ではあるけどね。
税金の控除は大事。
金持ちは払う税金の額が莫大だから。
と思っていたら
「レベッカー!」
病院内で不謹慎なくらいの大声が聞こえて来た。
誰かと思えば、シュテルンベルク伯爵が廊下の向こうから手を振りながら歩いて来ている。
そしたら『桜桃の間』の中から慌てたような声が聞こえて来た。
「父上が来た!私は寝ていると言ってください。枕元でしくしく泣き続けるので鬱陶しいんです。病院長を説得して、病院内の客室に24時間居座って1日に何度も病室に現れるし!」
「それは鬱陶しいわね。」
とエリカ様の同意する声が聞こえて来た。
「やあ、レベッカ。それにお友達のみんなも。コンラートに会いに来てくれたのかい?」
嬉しそうに伯爵様は言った。
中で繰り広げられていた会話が聞こえていただけに、居た堪れない。
私が半笑いを浮かべていると、ガチャっと音がして『桜桃の間』のドアが開いた。
「まあ、久しぶりね。リヒト。」
とエリカ様が言った。
「姉上が来ていると聞いて、駆けつけて来たんだ。その・・本当に久しぶりだね、姉上。」
「レベッカ様が連絡をくれたの。心配で駆けつけて来てしまったわ。」
「そうか。ありがとう、姉上。レベッカもありがとう。」
「積もる話もあるし談話室へ行きましょう。コンラートは眠ってしまったみたいだから。」
「また⁉︎最近、いつ部屋に来てもコンラートは眠ってるんだ。大丈夫だろうか?頭を打った事が原因で睡眠障害を起こしているのではあるまいか?もしくは薬の副作用かもしれない。医者に頼んで再検査を・・・。」
「リヒト。こんな所で立ち話するのは他の患者さんやお見舞い客の方に迷惑よ。談話室へ行きましょう。ごめんなさいね。」
エリカ様の最後のセリフは、たまたま通りかかったお見舞い客へ向けた言葉だった。廊下の人口密度が高すぎて迷惑になっていたのである。
しかし、そのセリフを言われた初老の男女はギロっ!とエリカの事を睨みつけ、エリカを無視した。
やなおっさん。
と思ったのは目つきのせいだけではない。おっさんは、病院内だというのに歩きタバコをしていたのだ。
病院内って禁煙じゃないんだ。という事にちょっと驚いた。というか、灰が床に落ちてるし!
その男女は向かいの『林檎の間』に入って行った。
ノックもせずにガチャっとドアを開けたので、親しい相手なのかもしれないが、だったら尚の事「タバコの火を消せよ!」と思った。
廊下にも霧のように煙が漂っているので、喉の弱いコルネがむせている。
「煙臭いわね。」
とエリーゼが、室内に聞こえそうなくらいの大声で言った。
そんなセリフを言われると『林檎の間』の中に入りにくくなるのですけれど!
途端に
「この馬鹿者が!」
という怒声が『林檎の間』の中から聞こえて来た。
思わず全員の視線が『林檎の間』のドアに釘付けになった。
さっきのおっさんの声を聞いていないので断言はできないが、さっきの歩きタバコをしていたおっさんの声ではないかと思った。
それと同時に心配になった。ミュリエラは、男に対して恐怖心を持っているはずだ。なのにおっさんにノックも無く部屋に押し入って来られて怒鳴りつけられたらパニックを起こすのではないだろうか?
というか、あのおっさん誰?
その答えはすぐにわかった。
「ごめんなさい、お父様・・。」
というミュリエラの震える声が聞こえて来たからだ。
「申し訳ありませんでした。旦那様。」
という母親の声も聞こえて来た。
ミュリエラの家の家族構成は、競うように新聞が載せているのである程度わかっている。
ミュリエラの父親は、アルト同盟商業組合の副ギルド長、つまりNo.2なのだそうだ。蒸気船を複数持つ王室御用達の大商会の商会主でもある。
しかしミュリエラは、正妻の子供ではなく愛人の子供だ。金と性欲が余っている男というものは、すぐに愛人を作るもので、ミュリエラの父親もその例に漏れなかった。正妻との間にも子供はいるのに複数の愛人を持ち、十人以上の庶出子を生ませていた。
ミュリエラの母親へロイーゼもその愛人の一人だった。
へロイーゼの生家は、おもに楽器を扱う商家だったが、ある時倉庫で火事が起こり破産の瀬戸際に追いやられた。
その時、借金の肩代わりを申し出たのがミュリエラの父親だ。美しいへロイーゼが妾になる事を条件に援助を約束したのである。
エッカルトとファルーカはミュリエラにとって同母の兄妹だ。そしてエフィミアは、へロイーゼの兄の娘になる。
同じアルト同盟の商人であっても、ユリアの父親とはだいぶ違う人のようだ。そもそもどうしてミュリエラが「ごめんなさい」と言わなければならないのか?納得がいかん!
「旅先で浮かれて、こんな騒動を起こすとはどういう事だ!ぼーっと歩いているからこんな事になったのだ。恥を知れ!」
「違います、ご主人様。ミュラ様は決してぼーっと歩いていたわけではなく・・・。」
「使用人ごときが口を挟むな!誰がしゃべっても良いと言った⁉︎」
「も・申し訳ございません。ご主人様。」
使用人さんの声は震えていた。
「ヒンガリーラントとは、たくさんの商会と取引をしているのに、こんな事になったら繋がりを断ち切られるかもしれん。それによってどれだけの損害が出るかわかっているのか、おまえは⁉︎」
「・・すみません。」
「だいたい女の側がしっかりとしてさえいればこんな事件は起こらないのだ。悪いのは全て隙を見せたお前自身だ。どうせ旅先で浮かれて男を誘うような服を着ていたのだろう。」
カチーン。
カチーン!
カチーン!!
と連続で来た。
この、クソジジイ。絶対、許せん!